新型コロナウィルスの影響で、人と人との距離感が変わっています。そんな、人と人との関係を考えさせてくれる3編の小説を、「一万円選書」で人気の、いわた書店の岩田徹さんに紹介してもらいました。岩田さんが書く、「一万円選書」を巡るネットを舞台とした人とのつながりもまた、新しい関係性のひとつなのかもしれません。
(『天然生活』2019年12月号掲載)
人と人との関係のいまを考えさせられる、3編の小説
うちは商圏人口が少ないから、ベストセラーを山積みするのではなく、おひとりおひとりに選書を提案する方法を考えました。スマホ世代が面白がって、まとめサイトをつくってくれました。これが僕のホームページよりずっとわかりやすいのです。
Twitterにも選書を喜んでくれる読者がいます。本の感想を書いてくれる人、出版社の人も喜んで書き込んでくれます。著者からサイン本やメッセージが送られてきたりもします。過疎地の本屋が、面白い本の教えっこのプラットホームになったのです。
皆さんから送られてくるメールには、同じ時代に生きている日本人の読書風景が書かれています。選書を依頼してくる人たちが探しているのは、何年後でも価値を持ちつづける言葉、読んでおいてよかったと思える1冊なのです。
人に本を選んであげるということは、その人にとって親や先生以外の、 “もうひとりの知恵者” を紹介するようなことです。こういうアドバイスをできるのは実にうれしい仕事です。
矢部さんの『大家さんと僕』(矢部太郎・著 新潮社)を読んだ妻が「これは面白かった、笑えて、しんみりして、最後にちょっぴり泣けた」というのです。
大家さんと僕
僕と、ひとつ屋根の下で同居する87歳の大家さんとの交流を描いたコミックエッセイ
矢部太郎・著 新潮社 1,000円
今日という日が、かけがえのない1日で、人生がいとおしくなる。こういうやさしい本がイイんです。きっと5年後、10年後も読み継がれていくでしょうね。
そんな彼女に、次に薦めたのが『万寿子さんの庭』(黒野伸一著 小学館文庫)です。
万寿子さんの庭
20歳の主人公が引っ越し先で出会ったおばあさん、万寿子との年齢を超えた友情の物語
黒野伸一・著 小学館文庫 681円
物語の終わり、半世紀もの年齢差のあるふたりの友情物語。いたずらっ子のおばあさん、万寿子さんの「あなたがお隣に引っ越してきてから、わたしの人生はまた乙女時代に戻ったかのような活況を取り戻しました」という言葉。この文章にたどり着いたとき、どんな感想を語ってくれるのでしょう。
上手に歳をとるということもゆるくないのですが、日常的に経験するいじめをかいくぐるようにして生きていくのも大変です。
民主主義の先進国というべき英国。 “ゆりかごから墓場まで” と習ったのは遠い昔のことで、いまは殺伐としています。『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(ブレイディみかこ・著 新潮社)は、そんな “荒れた地域” の元・底辺中学校に通い出した、みかこさんのひとり息子のお話です。
ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー
人種も貧富もごちゃ混ぜの元・底辺中学校に通いだした息子とパンクな母がともに考える
フレディみかこ・著 新潮社 1,485円
彼はいじめられても屈しないダニエルの数少ない友人として学校に通いつづけます。そして、ぽつりというのです。
「僕は、人間は人をいじめるのが好きなんじゃないと思う。……罰するのが好きなんだ」
こんなスゴイ中学生がいます。彼は、たしかに自分の人生を歩み出しているのでしょう。日本の近い将来を暗示するかように、学校は社会をそのまま反映しています。
北海道の過疎の町で、僕は1日のほとんどの時間を小さな店の中で過ごしています。いわば井の中の蛙です。底の暗さも、水の冷たさも知っています。
でもね、見上げるとそこには北国の青い空。僕には本を通じて世界とつながっていると思えるのです。
<イラスト/山本祐布子 文/岩田 徹>
岩田 徹(いわた・とおる)
北海道砂川市のいわた書店の2代目社長。その人の詳細なカルテを基に選んだ、1万円分の本を送るサービス「一万円選書」が評判の本の目利き。
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いわた書店
北海道砂川市西1条北2丁目1-23
TEL.0125-52-2221
http://iwatasyoten.my.coocan.jp/
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです