思わず真似したくなる、ひねりの利いたパンメニュー
お昼頃にお店に到着すると、カフェスペースは、ランチメニューを楽しむ人たちで、埋め尽くされていました。そう、カフェメニューは「パン・オ・スリール」の魅力を語るうえで欠かせないもの。店自慢のパンを使ったサンドイッチやフレンチトーストは、具材や味つけに工夫が凝らされ、パンの奥深さに触れられる特別な存在です。
なかでも人気は、リッチなブリオッシュ食パンを使い、手作りロースハムとチーズをはさんだ甘くないフレンチトーストの「モンテクリストサンド」。
「使うのは、卵とバターをいっぱい使うブリオッシュ生地の食パン。それをさらに卵液につけます(笑)。卵液に砂糖は加えませんが、バターで焼いた後、上から粉糖をふりかけるのがうち流です」と話すのは、カフェメニューを担当する美智子さん。聞けば、家でつくってみたいというお客さんには、卵液の配合を教えているのだとか。
また、ランチメニューは週替わりで、カンパーニュや食パン、バゲットなどを使ったサンドイッチに、サラダ、手作りスープ、小さなデザートがセットになった、充実のワンプレートです。
そのサンドイッチで度々登場するのが、北海道産小麦「春よ恋」の全粒粉100%で焼き上げた「マルチシリアルブレッド」。全粒粉の力強い粉の味が感じられる至福のパンです。
「マルチシリアルブレッドのサンドイッチはいくつかありますが、中でも人気はベジタブルサンド。バターのかわりに塗った無糖のピーナッツバターが味の決め手です。はさむ野菜はその時々で変わりますが、アルファルファ、トマト、きゅうり、アボカド、葉物野菜、ニンジンなど、なんでも大丈夫ですよ」
全粒粉のパンというとトーストしてバターを塗るぐらいしか思いつかなかったのですが、これなら手軽につくれそうです。
これまでに登場したランチメニューは、たとえばトーストにアボカドとリコッタチーズをのせ、上からメープルシロップをかけたものなど、素材の組み合わせが楽しく、真似したくなるものばかり。パンのおいしい食べ方のヒントをもらいにいくのも楽しそうです。
会社員からパン焼き人へ
パンづくりを担当する宏幸さんですが、その経歴は実にユニーク。もともとは会社員で、輸入商社に長年勤めていたのだそう。
「会社の傘下にレストランやベーカリーがあって、あるときマネージメントをまかされることになりました。請求書にハンコを押して経理に渡す役目ですが、『今月は卵40ケース、小麦粉100キロ』という請求書がまわってきても、それが多いのか少ないのかまるっきりわからない(笑)。イーストなんていうのも初めて知りましたし、パンって発酵させてつくるんだって驚いて」
一度パンをつくったら、少しは理解できるかもしれないと考えた宏幸さん。初心者向けの本を片手に自宅でパンを焼いてみたところ、「思いのほか面白かったんです。子どもにもおいしいといってもらえて」と話します。それをきっかけに、パンづくりにのめり込んでいきました。
ほどなくして、宏幸さんのパンを食べた知り合いから依頼を受け、レストランにパンを卸すことに決まります。とはいってもパンを焼くのは自宅。その後は、道端で手売りをしたり、ファーマーズマーケットで販売するといった日々のなか、評判も増し、その途中で会社勤めもやめて、ついに店を構えることとなりました。
この地にベーカリーカフェとして開店し早7年。お店の中では、常連さんとスタッフが挨拶をかわしたり、近所の小さな子どもが駆け込んできたり(すぐに後からお母さんも入店)、近隣のオフィスワーカーがおいしそうにパンを頬張ったり、そんな穏やかな光景が広がります。都心とは思えない、どこか懐かしく優しい空気で満ちていました。
<撮影/林 紘輝 取材・文/諸根文奈>
パン・オ・スリール
03-3406-3636
8:00~20:00(現在は時間を短縮して営業中。最新情報はFacebook、Instagramにて更新中)
日・月休み
東京都渋谷区渋谷1-4-6
最寄り駅:JR「渋谷」
www.instagram.com/pain_au_sourire/
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