(『天然生活』2016年5月号掲載)
「義務」ではなく、可能な限り「楽しむ」工夫を
早起きして家事をして、家族を送り出したあとは、自分もアトリエに出勤。目いっぱい仕事をして夕方に家に戻るころには、疲れもたまり、スイッチも切れてしまって、夕食は「スープを温め直そうか」「朝につくったサラダやマリネを冷蔵庫から出して」ということも多く、つくる料理も簡単なものがほとんど。
絵本を読んで子どもを寝かしつけると同時に、そのまま9時ごろに寝てしまうこともしばしば。夕方から夜にかけては「完全にオフモード」という岡本さん。
「けれど、その分、いったん眠ると体も心もすっきりリセットされ、朝はたいてい元気で力がみなぎっています。部屋の換気から部屋の掃除までのおよそ1時間はルーティンになっていて、体も自然に動きます。いかにむだなく動くか、自分との闘いのような感じも、少し好きなんです」
帰宅後の自分が「家族との団らん以外、何もしなくていい」という状態をつくっておくために、家事は午前中に集中させ、夕食の仕込みなども、できるだけ段取りをしておきます。
ただし、その家事も、「無理しない」「ストイックになりすぎない」ということを常に意識しているそう。
「家事もこだわりすぎたらきりがないので、『掃除は近所の友人が立ち寄ったときに、どうぞと家に上げられる程度』とか、『朝晩、同じおかずでもいいじゃない』と、ゴールの設定をゆるく考えています。日々の仕事を『つらい』と思うと苦しいけど、そんなふうに『ほどほど』にしておくと、『楽しい』方向に意識を持っていきやすくなります。『楽しさ』が勝てば、体も自然に動きます」
そんな「楽しさ」を象徴するように、岡本さんの朝時間でとくに目をひくのは、朝ごはんの豊かさ。
木製の鍋敷きには鍋ごとのトマトスープが運ばれ、カッティングボードにはふっくらとしたカンパーニュ。トレビスの紫やグレープフルーツのピンクが効いたサラダに、器と器の間には彩りの姫りんごが飾られます。まるでテーブルをキャンバスにした一枚の絵のように、華やかで美しい世界が広がります。
「花を活けるのと同じで、『目がおいしい』と感じるようなテーブルを考えるのが楽しいんです。料理が少し地味になったときも、器と器の間に小さな花や果物を飾ってあげれば、色が助けてくれて、食欲もわいてくるみたいです」
朝一番に美しいテーブルを囲むことで、家族みんなも喜び、自然にコミュニケーションが生まれます。
朝時間が豊かなら、その日は、いい日になる。そんな岡本さんの姿勢を物語る食卓なのでした。
仕入れに出る朝の段取り
おひつにごはんを用意
市場に花材の仕入れに出かける日は、家族が起きる前に出かけてしまうので、前日の晩にあらかじめごはんを炊き、おひつに入れておく。「炊きたては食べられませんが、おひつに入れることで乾燥も防げ、おいしさも保てます」
休日の段取り
朝食にもなるお菓子づくり
時間に余裕のあるときは、子どもと一緒にお菓子づくりをすることも。植物油を使ったパウンドケーキやフルーツをたっぷり使ったパイなど、朝ごはんにも食べられるようなものを焼いて、翌日、家族一緒に楽しむことも多いそう。
日々を豊かにする小さなこと
岡本典子(おかもと・のりこ)
「Tiny N」主宰。短大の園芸科卒業後、渡英し、4年間、花を学ぶ。テレビ、雑誌、広告、展示会、店舗の空間スタイリングなどで活躍。
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです