新学期開始から2カ月が経ち、本来なら新しい学年にも慣れる時期。ところが、今年は長引く休校で「生活リズムが崩れないか」「学習に遅れは出ないか」とやきもきしながら過ごしている家庭が多いのではないでしょうか。
そこで、子どもの心の発達に詳しい児童精神科医の田中康雄先生に、発達が気になるサインや発達障害の捉え方について伺いました。
発達障害はしつけ不足や心の病気ではない
「発達障害という名称が一般的になったことで、子どものちょっとした言動で発達障害を疑うケースが増えています。なかにはしつけ不足を悔やんだり、心の病気だと悲しみにくれる親御さんも。しかし、発達障害はしつけ不足や心の病気ではありません」と田中先生。
では、発達障害とはどんな状態を指すのでしょうか。
発達障害は特性によって7つに分類
活発な子、人見知りをする子、マイペースな子……。子どもにはそれぞれ個性があり、発達障害をきちんと定義するのは難しいですが、個性がとても強く、そのことで生きづらさを感じている状態といえるでしょうか。
医学的には、脳の機能障害による特性がおもに低年齢で現れ、深い理解と支援が必要とされるときに「発達障害」と診断されます。
特性によって
1 知的能力障害群(知的障害)
2 コミュニケーション症群
3 自閉スペクトラム症
4 ADHD(注意欠如・多動症)
5 SLD(限局性学習症)/LD(学習障害)
6 発達性協調運動症
7 そのほかの神経発達症群
の7つに分類されます。
しかし、それぞれの特性は重なる部分も多いため、個々の障害を区別するのではなく、現在はそれぞれが連続しているとする「発達障害スペクトラム(※)」という考え方に発展しています。
※スペクトラム…連続体・分布範囲のこと。
それぞれの年代で見られる発達が気になるサイン
上の図は、あくまでも医学的に発達障害が気づかれやすい年代とその特徴を示したもので、子どもの成長につれて特性の現れ方は変わってくることがあります。
たとえ子どものもつ特性が今は周りの人を困らせることがあっても、一喜一憂したり、すぐに対処しないと将来が心配だと焦るのではなく、まずはその子の個性と理解することからスタートしてほしいと思います。
診断を急がず「わが子の思い」に向き合いたい
「発達障害スペクトラム」という考え方が定着し始めているのと同時に、昨今、発達障害は新しい捉え方とその子へのかかわり方が提唱されているそう。こうした潮流についても田中先生に伺いました。
発達障害はその子の個性のひとつに過ぎない
発達障害というのは、とてもあいまいな世界をもっています。昨今、こうした線引きが難しい世界の捉え方のひとつとして、障害ではなく“多様”と考える「神経多様性(ニューロダイバーシティ)」という考え方が登場しています。すべての脳の違いを優劣ではなく“個性”として、障害ではなく“生物としてのバリエーション”と捉える考え方です。
スウェーデンの小児神経科医クリストファー・ギルバーグ博士が提唱する「ESSENCE(Early Symptomatic Syndromes Eliciting Neurodevelopmental Clinical Examinations)」という新しい概念も注目されています。これは、幼い子どもに対して早期に確定診断をすることは難しいけれど、早くからその子の状態に合う適切なサポートは行えるという考え方。発達障害の有無や診断名を急がずに、目の前にいる子どもにじっくり丁寧にかかわっていくことの重要性を示しています。
本当に大切なのは診断名に縛られることではなく、「わが子の思い」に向き合うことです。「わがまま→やりたいことへの情熱が強い」「すぐ飽きる→いろいろなことに興味がある」のかもしれないと、わが子の思いに向き合いながら、子どもの成長を近くで見守り、喜び合ってほしいと思います。
<イラスト ニシハマカオリ 取材・文 株式会社レクスプレス>
田中康雄
こころとそだちのクリニック むすびめ 院長。北海道大学名誉教授。児童精神科医。臨床心理士。精神保健指定医。日本児童精神医学会認定医。1958年、栃木県生まれ。1983年に獨協医科大学医学部を卒業後、旭川医科大学病院精神科神経科、同病院外来医長、北海道大学大学院教育学研究院教授、附属子ども発達臨床研究センター教授などを経て2012年より現職。発達障害の特性をもつ子どもとその家族、関係者と、つながり合い、支え合い、認め合うことを大切にした治療・支援で多くの人から支持されている。
※子どもとのかかわりのなかで不安を感じる親御さんに役立つ田中先生の新刊『発達が気になる子の心がわかる 幸せ子育ての手引き』(扶桑社刊)では、46のエピソードとともに日常の「困った!」を解決するヒントが紹介されています。