予想どおりの居心地のよさと、想像を超えた小屋の効果
クリエイターとして岡山で活動する草加恵子さんの家の玄関脇には、ひとりで気ままに過ごせる小さな小屋があります。模型づくりが趣味だったという夫は、ちょうど定年を迎えたこともあり、草加さんの小屋づくりに専念。時折、草加さんに様子を見てもらいながら、窓や棚、家具など細部の造作までつくり上げました。
「テーブルやベンチは、既成品を持ち込むとすべて大きく感じたので、小屋にはまるようにつくってもらいました」と草加さん。窓辺や棚など各所に飾られている雰囲気のある小物も、ほとんどすべてが夫の手づくりというから驚きです。
そうしてでき上がった小屋で、草加さんは思う存分に自分の時間を楽しんで過ごしています。室内では好きな音楽を聴いて庭を眺めたり、手の届く位置に設けられたマガジンラックから雑誌や本を選び、読みふけたり。
「予想どおり、自分ひとりで過ごすにはちょうどいい広さの小屋です。掃除もすぐに終わりますし。窓の位置にこだわったおかげで、実際以上に広く感じるのが不思議ですね。玄関を出て“徒歩1歩”ですが、自分にとっては異空間。いろいろと好きな物を集めて置くと、日常とは離れた違う空間になります。季節やその時々の気分によって小物をあちこちに移しながら、ディスプレーして遊んでいるんですよ」と草加さん。
友人にも愛され、人の輪を紡ぐ小屋
友人たちは「来るたびに変化があって、楽しい」と口々に語ります。
外観を見るだけでも、一目瞭然で草加さんのあふれる個性が感じ取れます。落ち着いたグレイッシュな色をまとい、やさしい表情のファブリックを小屋の前にふわりと掛けた様子は、来訪者の心を和ませます。
「友達を気軽に招くことができるようになりましたね。お茶を飲んで過ごすと、想像以上に喜んでもらえて、その人の友人を連れて来たり。『自由でいいんだね』とつぶやいて、なぜか泣きだす人もいましたね」と草加さん。
「自分の得意なことをそれぞれが十分に表現していくことができれば、きっと楽しいし上手くいくはず」とも。玄関脇に佇む小さな小屋は、草加さんの日常にいっそうの彩りをもたらしただけでなく、周囲に強力なメッセージを発しているようでした。
<写真/高橋郁子 取材・文/加藤純>
高橋郁子(たかはし・いくこ)
1980年生まれのフリーランスフォトグラファー。暮らしやアウトドアの分野を中心に、広告、書籍などで活動中。http://ikukotakahashi.com/
加藤 純(かとう・じゅん)
建築ライター/エディター。大学で建築を学んだ後、建築専門誌の編集部を経てフリーランスに。建築デザイン分野を中心に、各種出版物やWebコンテンツの企画・編集、取材・執筆を行う。著書に『日本の不思議な建物101』『「住まい」の秘密』など。“空間デザインの未来をつくる”「TECTURE MAG」チーフ・エディター。