魚の本当のおいしさを知ることが大切な第一歩
この春発売された『基本から身につける 季節の魚料理』は、『天然生活』で2014年から2016年まで掲載された、人気連載「長谷川弓子 季節の魚料理」をもとに、大幅に加筆してまとめたもの。
季節ごとに旬の魚を使ったレシピを並べ、魚のおろし方や下処理などの調理の基本もたっぷりと紹介する、初心者から上級者にまで役立つ手引書です。
今回は、著者の長谷川弓子さんに魚料理の魅力についてお話を聞きました。
『季節の魚料理』は、煮たり、焼いたり、揚げたりした普段のおかずから、丼物やお寿司、おもてなしにいい華やかなサラダまでレシピがとても充実しています!
魚料理にはいつ頃どのように興味を持たれたのでしょうか?
「旅館で育った父の影響で、我が家では比較的、刺身や魚料理を食べる機会が多く、魚はもともと好きでした。ただ、日本料理を学ぶまでは、魚の調理が特別好きなわけではなかったんです。というのも手に魚の生臭さがつきますし、おろすのも上手くできませんでしたので(笑)。
でも、修業中にいろいろな種類の魚を食べさせてもらったおかげで、本来の魚の味というか、魚ごとの明確な味の違いに気づき、ますますそのおいしさに魅了されました。習った料理を家族に食べさせるととても喜んでくれて、そのことももっと上手になりたいと思える原動力になりましたね」
つい調理し慣れている魚ばかりに手がのびてましたが、これからはもっと冒険してみようと思います。
魚料理の魅力は「おいしい」というのが一番だと思いますが、ほかに魅力を感じるポイントはありますか?
「旬を味わえるというのも魅力のひとつですね。初夏に食べる初鰹はさっぱりとして若々しく、秋の戻りがつおは脂がのっていてうま味が強い。あじやいわしといった梅雨時期の青背の魚も、さわやかな味で格別です。冬のぶりも脂がのっていて絶品です。
お肉とは違って、四季を感じることできる、日本ならではの食の楽しみ方ではないでしょうか。
また、自分でおろすとおいしさが増すのも、魚料理の醍醐味。自分でおろした手づくりのあじフライは、身がフワフワして、誰もが喜ぶおいしさです」
魚料理を苦手に感じる方も多いと思うのですが、どうすれば苦手意識をなくせますか?
「それはやっぱり、慣れることですね。魚料理を教えていると、初心者の生徒さんが調理にすごく抵抗を持っているのがわかるんです。でもまずは失敗をおそれず、挑戦してみてください。私なんて、魚をおろすのに何度失敗したことか。骨に身がたっぷり残っていたなんてことが、よくありました(笑)。
おろすのに抵抗があるなら、始めは切り身や刺身を使って調理して、まずは魚のおいしさを知っていただきたいです。切り身をフライにしたり、刺身用の魚を昆布で締めたり、たたいたりといったように、手軽だけどいつもと違う調理方法を試してみると、魚のおいしさを発見できて、自信が持てるようになると思います」
お話を聞いて、心が軽くなる人も多いと思います!
一番好きな魚はあじとお聞きしたのですが、どんな食べ方がお好きですか?
「生で食べるとさっぱりとさわやかな味。でも、揚げると魚のよい脂のうま味を感じることができて、どちらも好きです。でも、実はあじは昔からすごく好きというわけではなくて。修業時代に、鮮度のいいあじを食べて、『あじってこんなにおいしいんだ!』と感動したのがきっかけで、すごく好きになりました。
手に入りやすい魚ですし、生でも、揚げても、焼いても、煮てもよく、どんな調理でもおいしく食べられるのがいいですね」
魚はそれ単体で調理することが多く、副菜を増やさなくてはと少し重荷に感じるという悩みも聞きます。献立についてどう考えればらくになりますか。
「たとえば煮魚なら、茹でたほうれんそう、小松菜、豆苗、ブロッコリーなどの青味の野菜を、最後に加えると簡単に野菜がプラスできます。
刺身なら、きゅうりやわかめ、みょうがなどのつまを多めにして、サラダ代わりにするのもいいのではないでしょうか。
あとは、野菜などの食材と組み合わせた料理も本には載せていますので、栄養バランスが気になるときは、そういったレシピを中心につくってみるといいかもしれません」
魚の本当のおいしさに出合うのが、なによりの近道なんですね。自分でおろした魚の味はきっと格別ですので、ぜひチャレンジしてみてください。
<撮影/川村 隆 取材・文/諸根文奈>
長谷川弓子(はせがわ・ゆみこ)
東京都出身。料理家、栄養士。明治大学卒業後、社会人経験をしたのち、近茶流宗家・柳原一成氏、柳原尚之氏に師事し、日本料理を学ぶ。現在、聖徳大学短期大学部准教授として、調理実習等を担当する。とくに好きな魚はあじ。「海に囲まれた国に生まれたからには、ぜひ、魚料理に親しんでいただければ」