写真について:柳行李のふちを革で補強したのは寺内さんによる工夫。柳行李 80,000円~。杞柳細工の工房のうちでも、柳行李をつくれるのは「たくみ工芸」だけ
(『天然生活』2014年8月号掲載)
兵庫・豊岡市に受け継がれる「杞柳細工(きりゅうざいく)」の歴史はとても古いもの。奈良・東大寺の正倉院に「但馬杞柳箱」が残されていることからも、その歴史は約1200年前に遡ることができます。
自生する “コリ柳” を使って編まれる杞柳細工は、安土桃山時代、豊岡藩の産業として奨励され、江戸時代には名産として知られるように。
杞柳細工の代表的な製品が、柳行李。軽くて丈夫、通気性も高く、防虫効果もあることから、衣装をしまう箱や弁当箱として活用されてきました。
今も昔も変わらず、栽培から加工まで、すべてが手作業。その過酷さから、現在、豊岡で柳行李を手がける工房は1軒のみに。
途絶えそうになった伝統を守るのが、「たくみ工芸」の寺内卓己さんです。
寺内さんの柳行李の制作は、まず、コリ柳を育てることから始まります。
一般的なしだれ柳とは違い、地面から上に向かって伸びるコリ柳。
脇芽を摘みながらまっすぐに育てたものを、秋に刈り取り、束にして畑で冬ごもりさせます。
初夏には一本一本、皮をむき、夏まで乾燥させて、ようやく材料の柳が完成するのです。
しなやかに見えて、触れてみると驚くほど堅い柳。「柳は扱いが大変」という寺内さんの言葉にも納得です。
杞柳細工は編み上げる手法も独特。
「行李板」と呼ばれる台に柳を並べ、踏み板で挟み、体重をかけて押さえます。柳を水で湿らせて柔らかくしながら、間に麻糸をくぐらせ、力を込めて締めるように編む行李編み。その技法は、習得するのに10年はかかり、大きな行李は編むだけで1週間ほどもかかるといいます。
編んだものを折り曲げて立体にし、ふちと角を革で補強して仕上げるには、さらに3日ほど。現在、注文が半年待ちというのは、人気はもちろん、その工程の大変さゆえのことです。
杞柳細工の職人として、伝統工芸士の認定も受ける寺内さん。職人兼営業マンとして百貨店の催事をまわり、工房では次世代の職人を育てることにも力を注ぎます。
その姿に、「杞柳細工を途絶えさせるわけにはいかない」という意気込みと伝統の重みを感じます。
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たくみ工芸
兵庫県豊岡市出石町魚屋99
TEL.0796-52-3280
http://yanagikouri.com/
〈撮影/石川奈都子 取材・文/大和まこ〉
石川奈都子(いしかわ・なつこ)/撮影
写真家。建築,料理,工芸,人物などの撮影を様々な媒体で行う傍ら、作品制作も続けている。撮影した書籍に『イノダアキオさんのコーヒーがおいしい理由』『絵本と一緒にまっすぐまっすぐ』(アノニマスタジオ)『和のおかずの教科書』(新星出版社)『農家の台所から』『石村由起子のインテリア』(主婦と生活社)『イギリスの家庭料理』(世界文化社)『脇坂克二のデザイン』(PIEBOOKS)『京都で見つける骨董小もの』(河出書房新社)など多数。「顔の見える間柄でお互いの得意なものを交換して暮らしていけたら」と思いを込めて、2015年より西陣にてマルシェ「環の市」を主宰。
http://ishikawanatsuko.jp
大和まこ(やまと・まこ)/取材・文
京都歴22年のライター。女性誌・男性誌を問わず京都特集などで執筆。『&Premium』(マガジンハウス)では『&Kyoto』を連載しており、京都の街をくまなく巡る日々を過ごしている。コーディネーターとしても活動する。
Instagram:@makoyamato
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです