• 『天然生活』が注目する方々のもとを訪ね、お話を伺う人気シリーズ「会うこと、聞くこと」。今回は、岐阜・美濃市へ移住して新生活を始めた服部みれいさんにお会いしました。
    (『天然生活』2015年10月号掲載)

    質問:美濃に引っ越して暮らしのかたちは変わりましたか?

    土に触れ、地域とつながることで初めて「暮らしている」実感をもてました

    「日々、発見と、ときめきの連続です」。岐阜・美濃市へ移住して新生活を始めた服部みれいさんは、大きな目をキラキラさせてそういいました。

    エコカルチャー誌『マーマーマガジン』の編集長であり、文筆家、詩人としても熱心な読者をもつ、みれいさん。25年、住んだ東京を離れ、お父さんの実家である美濃に拠点を丸ごと移すという決断の裏には、『マーマーマガジン』で農業を特集したときに受けた衝撃がありました。

    「農薬や肥料を使わない農家さんたちにお話を伺ったのですが、聞けば聞くほど、都市に住んで野菜を “買って” ばかりいることが不自然に思えてきて。高度成長期以降、日本は地方の農家さんが、都会の人たちの膨大な食料をまかなっています。そのために、規格に合った野菜を効率よく大量に生産し、エネルギーを過剰に使って輸送しなければならない。環境問題やオーガニックについてさんざん雑誌で紹介し、都会での自然な暮らしを提案してきたけれど、自分も不自然な状態を加速させるひとりなんだと、いままでの考え方を根底から覆された気がしました」

    生産者と消費者の実質的な距離や、いびつな関係を突きつけられて、みれいさんの心は徐々に「土」へ向かっていきました。そして、「土とともに生きる」という結論にいたったのです。

    公私にわたるパートナーである夫の福太郎さんと編集部の数名のスタッフとともに美濃にやってきたのが、今年の3月(2015年※編集部注)。それから間もなく畑を始め、この春は家族や親戚に教わりながら、10種類以上の野菜づくりに挑戦しました。

    「これ、今朝、みんなでとってきたんです。ちょっと見た目が悪いけど」。そういって、みれいさんは野菜が山盛りになったかごを持ってきました。

    スーパーに並ぶ野菜とは違い、ごつごつして形が不ぞろいだったり、笑ってしまうほど大きかったり。個性豊かなきゅうりやなす、レタス、いんげん、ハーブなどがどっさり入っています。

    「私たちのような初心者の手でも、野菜は立派に育ってくれる。その生命力に驚きつつ、いまはまだ試行錯誤中……といったところ。でも、自分が手をかけてつくったものを食べる喜びで心身が元気になるし、土に触ることで、人間の芯がどっしりするような効き目もあると思います」

    画像: 編集部の昼食は当番制。みれいさん作のカレーにサラダに、野菜たっぷり

    編集部の昼食は当番制。みれいさん作のカレーにサラダに、野菜たっぷり

    一家に一枚、小さな畑があって野菜を育てられたら、いろいろな問題が解決するんじゃないかな。みれいさんは、そんなふうにもいいます。

    「これまでは、都会で暮らしながらオーガニックの食べ物を選ぶことで生産者を応援してきました。同じ考えの人が増えれば、少しずつ、食を取り巻く環境を変えていけると思ってやってきたけれど、その一歩先に進んでいけるといいなと思っています」

    ハッとするようなことを美濃から発信したい

    新拠点は、美濃市のなかでも古い町並みが残るエリア。少し行けば長良川が流れ、田畑が広がる、みれいさんいわく「ほどよくゆるい田舎町」です。

    ここに住居兼編集部を構え、築90年の町家を改装したショップ「エムエム・ブックス みの」も8月初旬(2015年※編集部注)にオープンしました。

    画像: 店の軒下にはツバメが巣をつくり、小さな社も

    店の軒下にはツバメが巣をつくり、小さな社も

    『マーマーマガジン』でおなじみの冷えとり靴下やレギンス、自然栽培のお茶や洋服などが並び、2階の畳の部屋ではワークショップやお話し会も行われます。

    カフェやゲストハウスもやってみたいし、将来的には移住者たちがのんびり暮らせるコミュニティをつくりたいと、みれいさんの夢は尽きません。

    画像: ロイヤルコペンハーゲンの夫婦カップで「健一自然農園」の和紅茶を

    ロイヤルコペンハーゲンの夫婦カップで「健一自然農園」の和紅茶を

    画像: 張り子作家・鎌田芳朗さんの招き猫がお気に入り

    張り子作家・鎌田芳朗さんの招き猫がお気に入り

    近所の人たちはといえば、東京からやってきた編集部一行を大歓迎し、何が始まるのかと興味津々だったよう。

    お店の準備段階のころから、おばちゃんがお茶を飲みにきたり、話し込んでいったり。和菓子を買いにいったら店にいた地元の人が代金を払ってくれたこともあったとか。

    「みんなに喜んでもらえることがありがたいし、田舎特有の濃密な人間関係も新鮮。美濃に来て山と川に囲まれ、地域の人と関わって、やっと “本当の暮らし” が始まったような気もしています」

    それにね、と、みれいさんは笑って続けます。「このへんには面白い人がたくさんいて、私よりずっと年上だけど、みんなパワフルで強烈なの(笑)。『うわー、またすごい人に出会った!』みたいな発見も、たまらないんです」

    そんな美濃の “名物” 的な人たちや素敵なお店を取材して、『マーマーマガジン』で紹介する計画もあるというから、楽しみです。

    「都会にも田舎にもそれぞれよさがあって、目線を少し変えるだけで、まだまだ面白いことや新しい暮らし方を見つけられると思います。私たちなりの暮らしや美濃の魅力、人の面白さを伝えることで、読者の方が、それぞれの場所でよりよく生きるためのヒントをつかんでくれたら本当にうれしい」

    決めつけず、押しつけず。そして、なにより自分自身が楽しみながら。屈託のないみれいさんを中心に、小さな田舎町から、心ときめくことがどんどん発信されていきそうです。

    〈撮影/柳原久子(https://water-fish.co.jp/) 取材・文/熊坂麻美〉

    ※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです



    服部みれい(はっとり・みれい)
    岐阜県生まれ。文筆家、詩人、『マーマーマガジン』編集長。2008年春に『murmur magazine』を創刊。2010年、冷えとりグッズと本のウェブショップ『マーマーなブックス アンド ソックス』をスタート。2015年春、岐阜・美濃市に編集部ごと移住。同年8月には『エムエムブックスみの』オープン。2020年7月に、リアルな移住記録をまとめた『みの日記』の増補改訂版(扶桑社)、9月に4年ぶりとなる『まぁまぁマガジン』23号(エムエムブックス)が発売。
    服部みれい公式サイト
    http://hattorimirei.com/
    エムエムブックス
    http://murmurmagazine.com/


    ※ ※ ※
     

    服部みれいさんの『みの日記』が、扶桑社より発売されました。

    会社ごと岐阜・美濃に移住した服部さんの美濃での暮らしを記録した連載(『天然生活』2016年1月号~2018年5月号に掲載)をまとめた一冊に、2020年にみれいさんが考える新しい生き方など、新たなエッセイや記事を加えた増補改訂版です。
     
    天然生活の本『みの日記』(服部みれい・著)
    天然生活の本
    『みの日記』(服部みれい・著)

    天然生活の本『みの日記』(服部みれい・著)

    A5判
    定価:本体 1,300円+税
    ISBN978-4-594-08548-3



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