(『天然生活』2017年12月号掲載)
石黒智子さんに聞く、本当に頼りになる台所道具
台所道具に関する著書を何冊も上梓している石黒智子さん。
本当に頼りになる台所道具を見せてくれませんか、という問いに、にこりと笑って答えます。
「私が持っている道具は、すべて頼りになるものですよ。ひとつも欠けてはならない、どれも大切なものです」
結婚当初から使いつづけている30年選手もあれば、オーダーしたもの、自分でつくったり手を加えたりしたものも。ずらりと並んださまは、実に圧巻です。
◇ ◇ ◇
20年以上使っている相棒的存在
1 マイクロウェーブプレート
2 「ハリオ」の網
3 スパチュラとケーキサーバー
4 スチールの鍋敷き
5 グリルパン
6 陶器のこね鉢
7 「リベラー」の片手鍋
8 「ファイヤーキング」のコーヒーポット
9、10 ステンレス脚付きざる
11 「ビクトリノックス」のナイフ、スパチュラ、カービングフォーク
12 「クイジプロ」のナツメグおろし
13 豆腐の水切り皿
14 「アルミダイカスト」のエッグカッター
15 「アピルコ」のレモンしぼり
16 ボストンクリップ
17 「タニタ」のアナログタイマー
18 「ファイヤーキング」のミルクガラス手つきボウル
19 「コダック」の計量カップ
20 「パイロレイ」の計量カップ
※ 紹介している台所道具には古いものや海外で購入したものも多く含まれています。
海外旅行先から持ち帰ってきたものが多い。
「スパチュラとケーキサーバー(写真3)は37年前にカナダで購入しました。しなり具合が素晴らしく、これ以上のものには出合えません」
写真7の鍋は、同じ「リベラー」の羽根付きボウルを合わせて使用します。
◇ ◇ ◇
「家にいらっしゃる方からは『意外と少ないんですね』といわれるんですよ。でも、私にとっては過不足なくそろっていると自信をもっていえます。つくりたいと思う料理はすべてつくれますからね。なかには通常の使い方とは違うものもあるかもしれませんね」
たとえば上の写真の2。直径20cm弱の平べったい網で、ごくごくシンプルなつくりです。
「コーヒー器具で有名な『ハリオ』の製品で、小さなケトルなどをコンロにかける際、五徳の上でグラグラしないように置くためのものかしらね。私もひとつは同じように使っていますが、こちらはミモザサラダ専用にしています」
石黒さんが世界一おいしいと胸を張るミモザサラダ。材料はレタスとゆで卵だけ。
ゆで卵をこしてそぼろ状にする際に使うのがこの網で、網目の間隔といい、金属の硬さといい、すべてが素晴らしくちょうどよいのだといいます。
「結婚したときに買って、網がゆるむたびにほかも見たけれど、これ以上に美しく仕上がるものは見つかりません。現在のもので3枚目。まさに私の一生ものですね」
こんなふうに、石黒さんが使う道具には、すべてに使う意味があり、与えられた役目がある のです。
ときには柔軟な発想をもち、使い勝手のよさを追及して
あらゆる台所道具があるように見えますが、バット類や、そろいのざる、ボウルは見当たりません。
「ちょっとした水切りは、蒸し器にもなる穴あきの小ぶりな鍋で。下ごしらえが済んだ食材は、そのときどきで必要な高さと深さに合わせ、持っている器を使いまわせば十分に対応できます」
どうしてもいいものが見つからなければ、自分でつくることも多々あります。
間に合わせのものを使ったり妥協したりすることは断じてなく、どんな小さなものも(開封した食品のパッケージを留める小さなクリップさえも)真剣に選び抜きます。
自分が本当に使いやすいと思えるまで、とことん向き合う。その姿勢こそが、石黒さんの台所道具に対する信念であるといっても過言ではありません。
「私が欲しいと思う道具は、炊事に不慣れな夫や息子も使える道具です。何をつくれるかはそれほど考えません。本当に優れた道具は、使っていくうちに、あれもこれもと使い道が広がるものです」
複雑な機能や装飾は不要です。単純明快でわかりやすく、デザインや見た目はシンプルで美しいもの。
基本的な考えは長年変わりませんが、年を重ねて、物選びに少し変化がありました。
基準は、“80歳になっても使える道具”。
「軽くて清潔に洗え、特別な手入れがいらないもの。重い鋳物の鍋は処分し、軽量で丈夫なステンレス鍋を使っています。オーブンも手放して海外製のオーブントースターを使っていますが、キッシュやピザ、ブラウニーにクッキーと、何でも焼くことができますよ」
「料理をつくるために道具を使うんじゃないの。私は、道具を使うのが楽しくて料理をつくります」
そういって、ひとつひとつの台所道具を手に取り、ていねいに話をしてくれた石黒さん。
ピカピカに磨き上げられた自慢の台所道具を見ているだけで、主にいかに愛されているかが伝わってきます。
〈撮影/千葉亜津子 構成・文/結城 歩〉
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです