「楽しんでやれるわけないじゃん!」
(2014年2月20日 ソチオリンピック、フリーを控えて)
ショートプログラムを終えて16位。メダルは絶望的な順位にとどまり、真央の失意は計り知れなかった。
日本で中継を観ていた姉の舞も、その演技に衝撃を受け、思わず真央にLINEで連絡をとった。やりとりを繰り返しても、真央の返事は弱気なままで、やがで返信はなくなった。
翌日、フリーを迎える。テレビで公式練習の真央の姿を観た舞は、「これはやばい」と感じた。練習に遅れてくる、ぼさぼさの髪、メイクもしていない……立ち直っていないのは明らかだった。
「もうLINEで済ませている場合じゃない」と思った舞は、真央に電話をかけた。
「練習、テレビで観たけど元気なかったね」とやさしく話しかけても、「うーん」としか返ってこない。
なんとか立ち直ってほしいという一心で「大丈夫だよ」とアドバイスをしても、真央は「もう無理」「いいイメージができない」と弱気な返事ばかりだった。真央が前を向くための手掛かりはなかった。
そのとき、舞は思い出した。
「母はショートが悪かったら、たとえ深夜でもリンクを借りてくたくたになるまで練習させて、次の日のフリーに向かわせた。真央は母がきつく叱った方が、かえって力を出すタイプだった……」
自分が代わりに奮い立たせようと思った。いい方に転ぶかはわからない。賭けだったが、それしか思い浮かぶ手立てはなかった。あえて捨て台詞をぶつけてみた。
「思い切りやればいいじゃん! もうこれが最後だよ。楽しんでやればいいじゃん! これが終わったらやめたっていいんだし」
強い口調で、真央に言い放った。そのとき、真央の反応が一変した。
「楽しんでやれるわけないじゃん!」
真央は激しい感情をあらわにした。
真央がキレた! どうあっても立ち直りそうになかった真央の変化が感じられて、舞は嬉しかった。
<写真/2014年2月21日ソチオリンピック(JMPA/榎本麻美)>
『浅田真央100の言葉』(フジテレビ スポーツ局・編/扶桑社・刊)
浅田真央さんの生誕30年を記念して、2003年から密着取材してきたフジテレビの膨大なアーカイブから、100の言葉を厳選。 幼少時から現在までの写真とともに、波乱万丈の人生とスケートへの想いを彼女自身の「言葉」と歴代ディレクターの回想から詳細に振り返ります。 父と姉から初めて明かされる家族のあたたかなエピソードも。