• 先の読めない時代に、どうやって子どもを導いていけばいいのか。学習教室『花まる学習会』の高濱正伸さんと乙武洋匡さんの対談で語られた、乙武さんの母のエピソードから見えてきたのは、「あるもの」を見つめて、「他人と比べないこと」の大切さでした。

    大切なのは「無人島魂」

    画像: 大切なのは「無人島魂」

    ほんの1年ちょっと前までは想像すらしなかった「未知の世界」をいま、生きている私たち。昨日までの常識が今日は非常識、というくらいの急激な変化を目の当たりに体験しています。

    変わりゆく時代のなかで、私たちはどう生きていけばいいのでしょう? そして、次の時代を担う子どもたちをどう育てていけばいいのでしょう?

    この問いかけに対して、とても分かりやすい言葉で答えてくれたのが、年中~小学生を中心とした学習教室『花まる学習会』を主宰する高濱正伸(たかはま・まさのぶ)さん。設立当初から一貫して「メシが食える大人に育てる」「魅力的な人に育てる」を教育方針に掲げ、活動を続けています。

    最新著書の『だから、みんなちがっていい』(高濱正伸・乙武洋匡=著 扶桑社)のなかでも、変化の時代を生き抜くために必要なスキルについてこう語っています。

    幸せも不幸も、自分の心が決めます。そのうえで心穏やかに生きるコツは、「あるもの」を見つめること。そこに感謝すること、そして「他人と比べない」ということではないでしょうか。

    高濱さんはこのものの見方を「無人島魂」と呼んでいます。失ったものに気を取られるのではなく、あるものを最大限に活かす「対応力」にあふれた生き方こそ、この時代何より求められているのだと。

    乙武洋匡さんのお母さんの「無人島魂」

    画像: 乙武洋匡さんのお母さんの「無人島魂」

    じつはこの「無人島魂」を、なんと45年も前から意識せず身につけていた女性がいました。それは誰かというと……。
    作家の乙武洋匡(おとたけ・ひろただ)さんのお母さまでした。

    ご存知のように、乙武さんは生まれつき両手両足がないという障がいを抱えながらも、さまざまなことにチャレンジし続けています。挫折や失敗も経験し、それでも新たな道を切り開いていく乙武さんもまた、無人島魂をもつ人。

    今回実現した高濱さんとの対談でも、お母さまとのエピソードをいくつか披露しています。どれも「えっ?」と驚いてしまうものばかりですが、この姿勢こそがいま、何よりも必要なものだと考えさせられます。

    乙武さんのいまにつながる、お母さまの生き方

    画像: 乙武さんのいまにつながる、お母さまの生き方

    乙武さん まず私が生まれたとき、こういう体であると知らされたのは父だけだったそうです。当時はまだエコー診断とかも普及していない時代だったので、生まれる前まではわからなかったんですね。

    で、生まれてみたら大変なことになっていた(笑)。このタイミングで産後すぐのお母さんに見せたら大変なことになるということで、急いでタオルにくるんで引き離した。

    (中略)でも、周囲の予想に反して、母が私を見たときにいったのは「かわいい」という言葉だった。このことは、私の人生にとって本当に大きかったと思いますね。

    当時はこうした障がい児が生まれても、外に出さない、隠すという風潮がまだ残っているような時代。親自身も「五体満足に生んであげられなかった」ことを恥と思い、家族で引きこもってしまうケースも多かったといいます。ですが、乙武さんのご両親は違いました。

    乙武さん (私を)ベビーカーに乗っけたり、抱っこしたりして、近所の方に挨拶して回ったそうです。「今度うちにこういう子が生まれましたので、よろしくお願いします」と。ある意味、応援団を増やしていくというようなことをしてくれていたみたいなんですね。

    さらに小学校に上がる際も、お母さまは前向きな気持ちで息子の公立小学校の入学をアピールしたそう。

    乙武さん その後は、何度か母とふたりで教育委員会に通って「こうやって字が書けます」とか「こうやって本のページをめくれます」とか「こうやってハサミも使えます」とか、いろんなことを見ていただいて、その結果、「この子なら大丈夫かもね」ということになり、母親が付き添いをするという条件で入学を許可していただいたという経緯がありましたね。

    「ないもの」を追わず、逆に我が子の個性ととらえ、「あるもの」だけを大切に育てていく―。まさに無人島魂そのものといえますね。

    何ごとも形にはめず、人と比べず、自分のものさしを信じて生きるお母さまの生き方は、当時、異彩を放っていたのかもしれません。でもそのおかげで、乙武さんのいまがあるのです。

    大切なのは「優しさ」と「面白さ」「温かさ」

    対談で乙武さんは、未来に評価される能力はずばり他者に思いをよせる「優しさ」だといっています。高濱さんはそれに「面白さ」と「温かさ」もつけ加えました。理由は「一緒にいたいと思うから」。

    AI(人工知能)化が本格的に進むなか、「優秀な人」の基準は次々と覆されていくでしょう。それでも変わらず時代を切り開いていけるのは、やはりこの3つを兼ね備えた人。

    これらは、「ないもの」を指摘し否定するのではなく、「あるもの」を見つけて伸ばしてあげることで育ちます。テストの結果はひとまず置いておいて、まずは我が子がもっているものを見つけてあげることからはじめてみませんか?

    『だから、みんなちがっていい』(高濱正伸・乙武洋匡=著 扶桑社)に収録されている二人の対談は多岐にわたります。生きるヒント、子育てのヒントが必ず見つかると話題の一冊を、ぜひ手に取ってみてくださいね。


    高濱正伸(たかはま・まさのぶ)さん

    画像1: 大切なのは「優しさ」と「面白さ」「温かさ」

    1959年熊本県生まれ。県立熊本高校卒業後、東京大学に入学。1990年同大学院修士課程修了後、1993年に小学校低学年向けの学習教室「花まる学習会」を設立。父母向けに行なっている講演会は毎回、キャンセル待ちが出るほどの盛況ぶり。「情熱大陸」(毎日放送/TBS系)、「カンブリア宮殿」「ソロモン流」(テレビ東京)など、数多くのテレビ番組に紹介されて大反響。「週刊ダイヤモンド」(ダイヤモンド社)、「AERA with Kids」(朝日新聞出版)などの雑誌にも多数登場している。
    『よのなかルールブック』、『おやくそくえほん』(以上、日本図書センター)、『伸び続ける子が育つお母さんの習慣』(青春出版社)、『わが子を「メシが食える大人」に育てる』(廣済堂出版)など、著書多数。

    乙武洋匡(おとたけ・ひろただ)さん

    画像2: 大切なのは「優しさ」と「面白さ」「温かさ」

    1976年東京都生まれ。早稲田大学在学中に出版した『五体不満足』(講談社)が600万部のベストセラーに。卒業後はスポーツライターとして活躍。その後、教育に強い関心を抱き、新宿区教育委員会非常勤職員「子どもの生き方パートナー」、杉並区立杉並第四小学校教諭を経て、2013年2月には東京都教育委員に就任。教員時代の経験をもとに書いた初の小説『だいじょうぶ3組』(講談社)は映画化され、自身も出演。
    現在は、執筆、講演活動のほか、インターネットテレビ「AbemaTV」の報道番組『AbemaPrime』の水曜MCとしても活躍している。
    『自分を愛する力』、『車輪の上』(以上、講談社)、『ただいま、日本』(扶桑社)、『ヒゲとナプキン』(小学館)など著書多数。

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    『だから、みんなちがっていい』(高濱正伸・乙武洋匡=著 扶桑社)

    『だから、みんなちがっていい』(高濱正伸・乙武洋匡=著 扶桑社)

    普通って何? 優秀って何?

    “メシが食える大人に育てる"の高濱氏と、教壇にたった経験もある乙武氏が、

    「ひとつのモノサシで子どもを評価しない教育」について熱く語る!

     

    『だから、みんなちがっていい』(高濱正伸・乙武洋匡=著 扶桑社)

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