• 料理研究家・飛田和緒さんの「自分の言葉で伝えたい」、年を重ねた今だからこそ思うこと、日々のことを綴ってもらいました。現在暮らす場所に移ってから遭遇した災害や新型コロナウイルスの流行など、さまざまなアクシデントを体験するなかで、普段の暮らしの大切さに気付かされたといいます。

    『サバイバル家族』という映画を見た。

    娘が「やっぱりお母さんが一番頼りになるね」と言っていたが、映画を見進めると頼りなかったお兄ちゃんが、お父さんがサバイバルに向かう姿勢を見せていく。

    娘が生まれてから震災、台風被害、コロナ禍と、そのときどきに対応していかないと生活できないことが続く。

    越してきて少し地元に慣れた頃、震災に遭った。電気、水道、ガスが止まり、ライフラインの復旧にとても時間がかかった。

    画像1: 災害やコロナに寄り添う暮らし|飛田和緒さんの「おとなになってはみたけれど」

    近所の人からすぐにスーパーに行ったほうがいい、たいへんなことになっているという連絡をもらったけれど、保存食と日頃備蓄している食料と、カセットコンロでなんとか乗り切ることができた。このときほど保存食に感謝したことはない。

    電気やガスが止まっても、カセットコンロでなんとかし、コンロのガスが尽きれば、庭やガレージで火をおこした。

    お風呂に入れないのがややつらかったけれど、キャンプに慣れていたわたしはまったく問題なく、肌の弱い夫や娘は濡れタオルで対応した。お湯を沸かせるときには大鍋で沸かしてたらいに移し、部分的に湯に浸かった。

    寒さは重ね着をして乗り切った。湯たんぽなどの懐かしい道具も役に立った。計画停電の際には相当早く寝床に入り、夜明け前の空が薄明るくなる頃に起きた。

    画像2: 災害やコロナに寄り添う暮らし|飛田和緒さんの「おとなになってはみたけれど」

    毎年やってくる台風のときにも必ず停電になる。ひどい年には3日間電気が使えないこともあったけれど、そのときにも保存食のおかげで、普段通りに過ごすことができた。

    まだ気温が30℃。エアコンが使えず、日中の暑さに耐えられるか。上京していた父のこともあり、このときは早いうちに見切りをつけ、一泊だけ電気が復旧している宿にお世話になった。

    冷蔵庫は開け閉めを最低限にすれば、ぱんぱんに詰まっている冷凍室の食品のおかげもあって、4日間はまったく問題なかった。一度も開けなかった2台目の冷蔵庫の冷凍室にあったブロック氷は角がくずれていなくて驚いた。

    慌ててクーラーボックスなどに移さなくてよかった。ボックスに移せば、氷を手に入れないといけないので、不便な地に住んでいる者にとっては開けないことが重要のようだ。

    年々台風の経験が重なり、備えも先々のことを考えてできるように。それでも毎回〝想定外〞という言葉が飛び交うことになってきているのだから、完璧はない。

    画像3: 災害やコロナに寄り添う暮らし|飛田和緒さんの「おとなになってはみたけれど」

    何年か前の大雪のときは外へ出たくても出られない状態。道路の雪が完全に解けるまでは車を出せないし、坂の上の家はタクシーも断られて、5日間くらいは娘と一緒にスノーブーツを履いて、バス停までの道のりを往復していた。

    そういうときに限って、わが家の夫は出張で不在。だからあとでたいへんだったと話してもまったくピンときていなくて他人事、このときばかりは湯気がふき出るほどカッカとした頭になる。

    画像4: 災害やコロナに寄り添う暮らし|飛田和緒さんの「おとなになってはみたけれど」

    新型コロナは花粉症であることや、普段から手洗いや消毒をけっこう神経質にやっていたおかげで、慌てずにすんだ。というのもこの時季は花粉対策やインフルエンザに感染しないよう、毎年かなり気をつけている。

    一度インフルエンザにかかり、スタッフにたいへん迷惑をかけてしまったことや、娘の大事な舞台の日に発熱させてしまって、舞台に立たせてやれなかった経験もあって、インフルエンザ同様コロナにも向かう。

    ただ、夫が手洗いの習慣を身につけるのに時間がかかった。普段はそんなにガミガミ言わずにいたが、新型コロナの場合は別。玄関の扉の前で待ち、部屋に上がる前に泡石けんを手につける。そのまま洗面所に。

    そうしないと「手を洗ってからいろいろしてね」と言っても、クローゼットを開けたり閉めたり、冷蔵庫をのぞいたり、いろんなところを触りながら洗面所に進むから気が気でない。

    ある日は「そのままお風呂に入るからいいだろう」と言う。風呂場に向かうあいだに洗わない手で触れる部分もあり、風呂場の扉、シャワーヘッドなどなど、触ったところを改めて消毒してくれるならいいのだが。温度差がけんかの原因になる。

    手洗いやマスクの徹底で、この時季悩まされる花粉症や結膜炎にならず、インフルエンザにもかかることなく済んだのも事実。ここまでしなくてもと思うこともあったけれど、かかってから後悔するよりはできる限りのことはしておこうと日に日に思うようになった。

    画像5: 災害やコロナに寄り添う暮らし|飛田和緒さんの「おとなになってはみたけれど」

    そしてそんなさなかに給湯器の電源が入らないことに気がつく。

    すぐに修理をお願いしたけれど、部品交換に2日、全部取り換えるとなると4、5日かかるという。連休中であったこともあって、早急にとはいかない。以前故障したときには銭湯巡りが楽しかったけれど、今はコロナの影響でそれもできない。

    みそづくりのときに使う32リットルの大鍋を引っぱり出し、お湯を沸かす。

    鍋を移動することは難しいから、小鍋ですくって風呂桶までお湯リレー。いつもは各自が自由に入るお風呂もこのときばかりはお湯を足し足し、短時間で交互に家族3人が入った。

    もちろん普段のようにお湯に浸かるまではいかなかったけれど、めいっぱい寝転べば、体の半分以上はお湯に浸かることができた。もう暖かくなり始めていることもよかった。

    髪は1日おきに洗面所で。

    お風呂上がりの気持ちよさをさらに感じた晩となった。

    <撮影/邑口京一郎>


    飛田和緒(ひだ・かずを)さん

    画像: 飛田和緒(ひだ・かずを)さん

    東京都生まれ。高校3年間を長野で過ごし、山の幸や保存食のおいしさに開眼する。現在は、神奈川県の海辺の町に夫と高校生の娘と3人で暮らす。近所の直売所の野菜や漁師の店の魚などで、シンプルでおいしい食事をつくるのが日課。気負わずつくれる、素材の旨味を生かしたレシピが人気の料理家。

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    画像6: 災害やコロナに寄り添う暮らし|飛田和緒さんの「おとなになってはみたけれど」

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    “おとな"には十分な年になった今だから思うこと、日々のことを、海辺の家に住む料理家が綴るエッセー集。

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