1年でいちばんといっていいほど、気持ちの良い日が続いています。風が強く吹く日もありますが、それはそれで、すべてが洗い流されるようで、気分が一新します。そこで今回は、「風」をテーマに3冊セレクトしました。
『ぞうくんのおおかぜさんぽ』
(なかのひろたか作・絵 福音館書店)
大風が吹いて、ごきげんなぞうくん。
さっそく散歩に出かけることにしました。
途中、池の中にいるはずのかばくんに声をかけるものの、
かばくん、大風に吹かれてころがってしまったみたい。
向こうから飛んできました。
「ぞうくん とめて」
ぞうくん、かばくんをおして向かい風の中、散歩を続けます。
すると、今度はわにくんが。
「ぞうくん とめて」
ぞうくん、かばくんとわにくんをおして、散歩を続けます。
そして最後に向こうからやってきたのは……。
風に吹かれて飛んでくるかばくん、わにくん、かめくんを受け止めるぞうくん。
くり返しのリズムは小気味よく、動物たちの目の動きはユーモアたっぷり。
風に向かってぐんぐん進んだその先は、爽快感でいっぱいです。
『かぜ』
(イブ・スパング・オルセン作 ひだに れいこ訳 亜紀書房)
この絵本の主人公は、マチルダねえさんと、おとうとのマーチンです。
ふたりが原っぱで遊んでいると、すごい風が吹いてきました。
「風がどこからふいてくるか、みにいこう」とマチルダ。
「風のいきさきが しりたいな」とマーチン。風がマーチンの風船を吹き飛ばしてしまったからです。
飛んでいっちゃったものは、返ってこないというマチルダに従い、風にむかって、ふたりは歩き出しました。
「ねえ、おじさん、おばさん、風はすき?」
向かい風の中歩きながら、マチルダは道ゆく人にたずねます。
「こんな風、さいあくよ」
どうやらみんな、むかい風はきらいみたいです。
風に向かって、必死で翼を羽ばたかせていたツバメは、くるりと向きを変え、追い風に乗って、飛んでいきました。
「やっほー」と叫びながら、追い風に背を押されて歩く人も。
みんな、追い風は好きみたいです。
いたずらな風、いじわるな風、やっかいな風、すずしい風、うれしい風、たのしい風。
風は変わらないのに、受け取り方によって、ずいぶん違うんですよね。
向かい風に立ち向かうのもよし、追い風に乗ってすいすい歩むもよし。
すべては自分次第なのよね、なんて思うのは、わたしが大人だからでしょうか。
このあと姉弟は、風がどこから吹いてくるのか、想像の翼を羽ばたかせます。
すがすがしくて、自由な風が吹いている、人生の深みものぞかせてくれる絵本です。
『かぜはどこへいくの』
(シャーロット=ゾロトウ作 ハワード=ノッツ絵 まつおか きょうこ訳 偕成社)
大きなお日様が朝からずっと空を照らしていましたが、ついに1日が終わろうとしています。
昼間がおしまいになることを、ちいさな男の子は残念に思いました。
夜、寝かしつけにきてくれたおかあさんに、男の子は聞きます。
「どうして、ひるは おしまいになって しまうの?」
するとおかあさんは、こう答えました。
「よるが はじめられるようによ。」
「おひさまはどこへ いっちゃうの?」
子どもの好奇心に満ちた問いかけに、べつのところを照らすのだとおかあさんは答えます。
「おしまいに なってしまうものは、なんにもないの。べつのばしょで、べつのかたちで はじまるだけのことなの。」
かぜは やんだら、どこへ いくの?
みちは みえなくなったら、どこへ いくの?
なみは、くだけてしまったあと、どこへ いくの?
この世界におしまいはなく、ぐるぐるぐるぐる続いていく。
季節も道も、風も波も。
終わりに見えても、別の場所ではじまっている。
子どもにとってそれは、不思議なことであると同時に、とても安心できることだと思うのです。
日々は不確かで、ともすると迷子になったような心もとなさを感じますが、この親子のやりとりには、温かさと確かな手触りがあります。
長谷川未緒(はせがわ・みお)
東京外国語大学卒。出版社で絵本の編集などを経て、フリーランスに。暮らしまわりの雑誌、書籍、児童書の編集・執筆などを手がける。リトルプレス[UCAUCA]の編集も。ともに暮らす2匹の猫のおなかに、もふっと顔をうずめるのが好き。
<撮影/神ノ川智早(プロフィール写真)>