二人だからできた、あんチャバタ
初めてお店を訪れたときから、変わらず好きなのが定番の、あんバターチャバタ。イタリア料理店出身の高行さんが焼いたチャバタに、千恵さんお手製のこしあんと、ラムレーズン、くるみ、バター。
こしあんにラムレーズンの芳醇な香りがしみて、くるみの風味と食感がアクセント。あんぱんとも、あんバタートーストとも違う、大和撫子が粋なイタリア男と出会った!? みたいな、あんバターの新境地に心踊りました。
今年は、苺あんポーネや日向夏のチャバタも季節限定でお目見え。フレッシュな果実とこしあんって、ちょっと意外にも思えますが、いちごはマスカルポーネ、日向夏はクリームチーズと合わせて見事ひとつに。
和と洋、違うフィールドで経験を積んできた、二人ならでは。菓子屋のなの魅力につながっています。
和菓子が選択肢のひとつになるように
旬の果実やハーブを和菓子に使うようになったのは、アントニオとララがきっかけでした。まだ千恵さんが独立する前、バーの店主にお酒に合う和菓子をつくってほしいとオーダーを受けて誕生した半生菓子。アントニオはキャラメルあん、ララマンゴートロピカルあん。菓子屋のなにとって道しるべのようなお菓子です。
「料理人の夫からは、食感や味の変化を大事にするようにってよく言われるんです」と、千恵さん。食べ進むうちに、香り、食感、味わいが変わっていく。だから最後まで、おいしくて、楽しい。ひと皿の料理のような、和菓子。
「おいしいって大事。お店を始めるようになって、なおさら思うようになりました。旬の素材がどうおいしくなるか、いまはそれがすべてになっていますね。素材から考えることで思いもよらないものが生まれるのが楽しいんです。
江戸時代の人も、きっとそうして挑戦していたんじゃないかなって思うんです。そう思うと、和菓子の定義も、そもそも何だろう!?って。いまの私たちが勝手に決めていることにも思えるんですよね。
以前はバターを使うことにも抵抗があったんですけど、そう思ったら、夫の言うことも、すんなりうなずけるようになりました。こうあるべき、みたいな“和菓子脳”から解き放たれてきたのかもしれません」
フレッシュな果物、洋酒やハーブ、スパイス。これまでの和菓子になかった、鮮やかな香り、果実味が新鮮。けれど、ちゃんと和菓子。
「世界中のものがお取り寄せできる時代なので、同じままでは廃れてしまうんじゃないかなって。和菓子が好きだからこそ、残していきたい。
新境地を開こうなんて大それたことは思っていなくて。和菓子を食べ慣れない人の、選択肢の一つになれたら嬉しいなって。お茶、ソーダ、ワイン……、お好きな飲み物で、思うまま楽しんでいただけたら」
おいしくて、美しくて、日本の文化に、季節に気づかせてくれる。和菓子に感動を覚えてきたから、みんなに伝えたい。シンプルな思いが、おいしさの秘密です。
最近、近くの小学校の社会見学で実習の授業を受け持ち、以来、学校帰りに子どもたちが声をかけてくれるのが、二人ともとても嬉しいそう。オープンして1年、お店が街に溶け込んで、子どもたちが和菓子にあたりまえに親しんでくれたなら、こんな素敵なことはありません。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
菓子屋のな
京都府京都市下京区篠屋町75
12:00〜18:00(売り切れ次第閉店) 日・月休
インスタグラム:@kashiya.nona
予約専用インスタグラム:@kashiyanona_wagashi
宮下亜紀(みやした・あき)
京都に暮らす、編集者、ライター。出版社にて女性誌や情報誌を編集したのち、生まれ育った京都を拠点に活動。『はじめまして京都』(共著、PIE BOOKS)ほか、『本と体』(高山なおみ著)、『イノダアキオさんのコーヒーがおいしい理由』(イノダコーヒ三条店初代店長 猪田彰郎著)、『絵本といっしょにまっすぐまっすぐ』(メリーゴーランド京都店長 鈴木潤著、共にアノニマ・スタジオ)など、京都暮らしから芽生えた書籍や雑誌を手がける。
インスタグラム:@miyanlife