猫、猫、猫はかわいい。そして、賢い。猫を愛する方々に、猫との暮らしをお聞きしました。今回は、イラストレーターのひろせべにさん。全ての猫好きの方のためにおくります。
チビのこと
チビは2003年にわが家にやってきた猫。
初めて見たときは、アメリカンショートヘアーの野良猫がいる! と勘違いしたが、後にそれがサバトラという柄だと知った。
小柄だから暫定的に「チビ」と呼んでいてそれが定着。よくあることである。
チビは野良猫時代にモテていて、何度かちがう猫と一緒にいるところを目撃した。
ほどなくしてお腹が大きくなり、そしてまた小さくなり、ある日の早朝、仔猫を3匹連れて自分から家に入って来たのである。
その前々日から、チビはなぜかわが家に泊まっていて、後から考察するに、あれはここが安全かどうか自らトライアルしていたのだろうか?
歩き始めたわが子たちがもう手に負えず、どうかお願いと託されたような気になり、3匹とチビを受け入れることにした。計4匹。
チビは子どもたちにとてもつれなく、子どもたちも「え? なんで?」という感じで、親子仲むつまじい姿はあまり見られないクールな母だった。
チビは野良猫だったために、外に出たい要求が止められないほど強く、網戸をぶち抜いてまで出ていく始末だったので、チビだけは外に出る生活をしていた。
テリトリーを守る任務があったのだろう。家をひらりと飛び出しては、塀の上でよその猫と顔すれすれで唸りながら睨み合いっていた。
チビは強かった。
狩猟本能がそうさせるのは仕方ないが、チビの持ち帰る「おみやげ」が毎回おっかなく、蝉、ヤモリ、雀、ネズミ、珍しいところで、モグラを見たことは忘れられない。
モグラはアニメのモグラと全然ちがった。
気をわるくさせないために「ありがとう!」と言ってそのつど見られないように葬った。
仔猫たちも成長するにつれ、時折、家を脱走することがあった。
そういう時、どういうわけか窓を開けて「チ〜ビ〜」と叫ぶと、チビではない子が戻ってきたりした。
この現象は家のなかでも同じく使えて「チ〜ビ〜」と呼ぶと仔猫たちは集まって来る。
「集合〜」みたいな合図に聞こえるのか、そういう周波数が出ているのか真相はわからないが、便利であった。
そんなチビも一度行方不明になったことがある。推定9歳のお正月、雪の日に帰って来なくなった。窓から叫ぶ「チ〜ビ〜」の声も虚しく、近所にまるで気配がない。
保健所や迷い猫センター、どうぶつ病院に交番、当たれるところはすべて当たり、出来ることは何でもやった。
ご近所に迷い猫のチラシをポスティングすると何軒かの人が電話をかけてきてくださった。
それは目撃情報などではなく、「つらいねえ〜」という心配や励ましの電話だったり、「かわいいねぇ〜」という感想であったり。
そして猫を好きではなさそうと思っていた人から「子どもの時飼っていて一緒に寝ていたのを思い出したわ〜」など、思いがけないエピソードを耳にしたり。
行方不明になって7日目、捜索もなすすべがなくなった頃、力をなくし観るでもなくつけていたテレビ、確か「歌下手選手権」みたいな番組がかかっている、そのテレビの後ろの窓ガラスをバシバシ叩くグレーの影があり、それが、チビの生還だった。
その日からチビは外に出さないように決めて、家猫になってもらった。
外飼いをすることは推奨されていないし、危険をともなったり、迷惑をかけることもあるとわかっているのだが、わたしはおもてで会うチビや、外から帰って来た草むらみたいな匂いのチビが好きだった。
チビはその後、子どもたちと新入りの猫ジュンとともに2018年まで生きた。
わたしは今でも窓を開けて「チ〜ビ〜」と大声で呼んでみたくなる時がある。
帰ってこないのはわかっていても、空気がぎゅっと集結して、頼もしいようなしっかりした気持ちになるのだ。
ひろせ べに
京都生まれ在住、イラストレーター、漫画家、粘土作家。
挿し絵を担当した絵本に「なんでそんなことするの?」「あそびうたするものよっといで」「あそびうたするものこのゆびとまれ」(福音館書店刊)がある。
天然生活webにて漫画「さんかくにっき」を連載中。
ホームページ:http://hirosebeni.com/