残っても焦げても有効活用
京王井の頭線「富士見ヶ丘」駅周辺の、どこか長閑な空気が漂うエリアに佇む「ヨシダベーカリー」。店主の吉田稔さんは、2012年の開店以来、パンを一度も廃棄していないと話します。
「パンを捨てたくないので、残ったパンはパンプディングやほかのパンに再生しています。もともと再生する前提でパンづくりをしていますし、再生しにくいタイプのパンは、つくるとしても最初から少なくして、売り切るように調整していますね。パンを焦がしても、まわりの焦げた部分だけ削って、中は再利用したり」
パンプディングは、余ったり固くなったパンを利用してつくるお菓子ですが、吉田さんがつくるのは、イタリア郷土菓子のトルタニコロッタというパンプディングをアレンジしたもの。中には、洋酒に漬け込んだドライフルーツとナッツ、フェンネルシードが入るほか、再利用するパンが具材入りなら、その具材もそのまま引き継がれるのだとか。
「だから『あんバターパン』を再利用すると、あんこ入りのパンプディングになりますね。それはそれで面白いなと思って。あんこに合いそうな具材をさらに追加したりもして」
オーブンを使って“食”の実験を
吉田さんはもともと「物をつくる仕事をしたい。ひとつのジャンルを突き詰めたい」という想いでパン屋さんに。だからこそ、食にたいする探求心は人一倍強いようで、お店のインスタグラムでは、お手製の餃子や手打ち麺、おいしそうなまかないなどの写真を見ることができます。
そんな吉田さんは、いまコーヒー豆の焙煎にハマっているそう。コーヒー豆の焙煎には、普通は焙煎機が使われますが、吉田さんの場合、パンを焼く業務用オーブンを使っているのだとか。
「オーブンでやってるところは、ほかにないんじゃないかな。伝導熱が全然違うんで、そのデメリットをなくしつつ、メリットをいかに引き出すか、実験していますね。焙煎も抽出も自分でやって、パンと相性のいいコーヒーをおいしく淹れられるようになるのが目標です。今後、お店でか、親しい近くのコーヒー店でかなど、どんな形かは決まってないんですが、僕が焙煎したコーヒーを販売する予定です」
コーヒー豆だけでなく、これまでもオーブンを使って実験的に肉や野菜を焼いてきたと話す吉田さん。その成果を味わえるのが、「大山鶏とロースト野菜のサンドイッチ」で、素材の力強い味わいとみずみずしさが楽しめます。
大切にパンをつくり、ひとつ残らず誰かの口に届くよう、工夫して手をかけること。少しでもおいしいものができるように、つねに探求し進化していくこと。お話を聞いていると、それらを楽しみながら軽々とやってのけているのがわかりました。訪れるたびに発見がある、そんなパン屋さんです。
<撮影/山田耕司 取材・文/諸根文奈>
ヨシダベーカリー
03-6326-2754
11:00〜19:30
日・水休み
東京都杉並区久我山2-23-29 1F
最寄り駅:京王井の頭線「富士見ヶ丘駅」
https://www.instagram.com/yoshidabakery/?hl=ja