• 京都・西陣の町家に暮らして12年になる、イラストレーターのダイモンナオさん。2020年、住まいの近くの町家をアトリエとして借りることとなり、レンタルスペース&宿「草と本」を営むことにしました。地元の人にも、旅する人にも、うれしい場所。訪れる人が「なにかしたい」気持ちになる、町に開かれた場です。

    西陣の古い町家を、みんなが集まれる場に

    ダイモンナオさんは高知出身、京都で大学時代を過ごしました。その後、東京暮らしを経て、夫の実家に近い、京都へ移り住みました。西陣の町家をリノベーションして夫と娘と暮らし、12年になります。

    「住まいは「織屋建」と言われる、西陣織の工房だった物件。奥が吹き抜けになっているのは、織機が置かれていた名残です。町家に住めるなんて、思いもよらなかったけれど、建売やマンション、いろんな物件を見て回りましたが、なかなかピンと来なくて。不動産屋さんが「だったら町家はどうですか」って、すすめてくれたんです」

    住まいがあるのは、京都の街中。けれど、大きな通りから一本入ったこの辺りは、代々暮らす家族、おじいちゃん、おばあちゃんも多い、静かな住宅地。順番に回ってくる、町内会長も無事に務めあげて、だんだんと町になじんでいきました。

    画像: 「草と本」にはダイモンさんの作品も飾られる。植物や道具、うさぎ、風景など、日常の中でふれてきたものがモチーフの中心

    「草と本」にはダイモンさんの作品も飾られる。植物や道具、うさぎ、風景など、日常の中でふれてきたものがモチーフの中心

    画像: 自宅からアトリエを移し、より集中できるように

    自宅からアトリエを移し、より集中できるように

    顔の見えるつながりが町をつくる

    娘さんが大学生となって、そろそろ仕事に集中できる、アトリエが持ちたい。そう思っていた矢先、住まいの近くの、町家ゲストハウスが閉業すると知りました。宿主とご近所付き合いしていたダイモンさんは、間取りも、雰囲気もよく知っていました。

    アパートの一室に比べれば、家賃がかかる。けれど、何にも代え難い魅力を感じ、ほぼ即決で借りると決め、アトリエ兼レンタルスペース&宿「草と本」をスタートしました。

    「この辺は住宅地なので、知らない人が借りてどうなるのか、不安もあったんです。ご近所の皆さんも「ダイモンさんが借りてくれるんやったら安心や」って言ってくださって、ほっとしました。町家は音が響いたり、寒かったり、難点もあるし、ご近所への心配りも大事。けれど、それが、ありのままの京都。ここを訪れる方には、京都の暮らしを感じながら、ゆっくり過ごしてもらえたらいいなと思っています」

    心を配って暮らす。ちょっと面倒にも思えるけれど、そうして、築いてきたつながりがあるから、声をかけ合える、何かあったとき互いに力になれる。顔の見えるつながりは、安心。そうして、京都の町はつづいてきたのだなと思います。

    画像: 2階のゲストルーム。屋根裏部屋のような、落ち着く空間。バスルーム・トイレ付き

    2階のゲストルーム。屋根裏部屋のような、落ち着く空間。バスルーム・トイレ付き

    画像: 1階の座敷はイベントスペース。町家の走り庭にキッチンもあり、できることが広がる

    1階の座敷はイベントスペース。町家の走り庭にキッチンもあり、できることが広がる

    「なにかやってみたい」気持ちになる場所

    「まさかこんな場をつくるなんて思ってもみなかった」という、ダイモンさん。

    2階に客室が一室、1階の広い座敷&キッチンがレンタルスペース。

    宿で働いた経験はなし。ましてや、お店を営んだこともありません。けれど、子育てや家づくりの経験、仕事や生活を通してつくってきたつながり、経験すべてが、いまに生かされています。

    「もともとゲストハウスだったから、すんなりはじめられると思っていたんですけど、条例の改正に伴う改修も必要で、四苦八苦しながら営業許可を取得しました。慣れないことでしんどかったですが、がんばって乗り切ったから、いろんなことができる今があります。

    もともと友だちが集まるのも好きだったし、自宅でサロンができたらいいなとは思っていたんです。実際に自宅のLDKで、薬膳のイベントをやったことがあるんですが、プライベート空間との区切りが難しいなと感じました。

    五感で感じることが好きなので、誰かにとっても、自分にとっても、気づきがあるイベントができたら嬉しい。「地元の野菜を使ったイベントをやってみたい」と持ちかけられたり、京都の和菓子の食べ比べ会が開かれたり。ワークショップやお稽古、演奏会……、ここをはじめてから、人のつながりから、思ってもないイベントができていて、おもしろいです」

    ここは「なにかやってみたい」気持ちにさせる場。

    町に開く場が、人を集めて、町を変えていきます。

    画像: プレオープンでは、クッチーナサッチの料理会を開催。開業してから料理会も

    プレオープンでは、クッチーナサッチの料理会を開催。開業してから料理会も

    コロナ禍でのスタートとなりましたが、「だからこそ、マイペースでできたかもしれません」と、ダイモンさん。後編では、開業から1年、ここがどんな場になったか、どんなことを感じてきたか、お聞きします!

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    草と本

    京都市上京区水落町87-2
    宿泊予約はHPから。
    https://kusatohon.com/

    イベントスケジュールについてはInstagramにて。インスタグラム:@kusatohon

    ダイモンナオ

    イラストレーター。雑誌・書籍・広告など、幅広く活躍。
    http://www.daimon-nao.com/


    宮下亜紀(みやした・あき)

    京都に暮らす、編集者、ライター。出版社にて女性誌や情報誌を編集したのち、生まれ育った京都を拠点に活動。『はじめまして京都』(共著、PIE BOOKS)ほか、『本と体』(高山なおみ著)、『イノダアキオさんのコーヒーがおいしい理由』(イノダコーヒ三条店初代店長 猪田彰郎著)、『絵本といっしょにまっすぐまっすぐ』(メリーゴーランド京都店長 鈴木潤著、共にアノニマ・スタジオ)など、京都暮らしから芽生えた書籍や雑誌を手がける。インスタグラム:@miyanlife



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