わが家の偏食対策
「かけずに、抜く!って何のこと?」
子どもの偏食に悩む家庭は多いと聞きます。長女のゴンちゃんは離乳食もなかなか進まず、偏食傾向が強かったそうですが、美濃羽家ではどんな風に乘り切ってきたのでしょう。
味が混ざっているとイヤ!
前回お伝えしたように離乳食は思うように進みませんでしたが、娘も歯が生えてくると少しずつ食べられるものが増えてきました。ごはん、お豆腐、ポテトフライ、大根にりんご……。なぜか白いものが多かったことを覚えています。
今思えば、娘は味が混ざっていることが嫌だったみたい。
私も最初のころは「バランスよく食べさせなくちゃ」と、おかゆにかぼちゃやしらすを混ぜたりしていたのですが、ことごとくダメ。でも、お米だけのおかゆとか小さなおにぎりは食べられたんです。そのうち、昆布、のり、梅干しなど、単体なら大丈夫なものもあると分かってきて。少しずつ、味をつけていないお肉や、切っただけのきゅうりなども食べられるようになりました。
苦手な食材はその「食感」も理由だったみたいですね。保育園のおやつのスルメをお迎えの時間までずっと噛んで真っ白になっていたことがあったんですが、娘いわく「いつ飲み込めばいいか分からへん~」だったそう……。
そう言えば、娘が2歳ぐらいのときに言った印象的なひと言があって。食事中、口いっぱいほうれん草をほおばっても飲み込めず、「ゴン、まだ葉っぱは無理やねん!」とすごく困った顔をしたんです。その表情を見て「そりゃそうだよね、奥歯も生えていない2歳児に葉っぱは無理だよね」って妙に納得してしまいました。
そんな娘でしたが、数日単位でみればいくつかの食材は食べられていましたし、しかもふしぎと風邪もほとんどひかず健康そのもの。じっくり観察してみると、どうやら体調をくずす前後に急にモリモリ食べたり、気温がぐっと上がった日は逆に食べなくなったり。ちゃんと自分の体の声を聴いて調整しているんだなあ、すごい!って思って。
こちらもだんだん「無理にいろいろ食べさせるより、本人がきげんよく食べていればいいや」とゆるく考えるようになりました。
これは、食べても大丈夫?
「偏食は“味覚過敏”が理由かもしれない」と分かりはじめたのも、ちょうどこのころ。(※ 味覚過敏とは特定の味を嫌がる、触感が受け入れられないなどの発達障がいの特性のこと。普通の「好き嫌い」とは違い、味覚や嗅覚が過敏なため、特定の食べものを口に入れることさえできないこともある)
きっと幼い子どもって動物的な本能で「これは食べられるものか」どうか、ちゃんと分かってるんですよね。発達の凸凹がある子はなおさら、その本能が強いと思うんです。
だって、生きものにとって、食べるものは生死に直結する大問題。娘が白いものばかり食べていたのは、たまたま最初に出会った白い食材が大丈夫だったので「白い=安全」と学んだのかもしれません。
今、娘は中学生になり、ずいぶん食べられるものが増えました。それはたぶん「これは食べても大丈夫」と安心したからじゃないかな。自分で料理をつくったり、保育園で野菜を育てたり、キャンプでカレーをつくったり、友だちがおいしそうに給食を食べる様子を見たり……。いろいろと経験を積むなかで、少しずつ食べられるものが増えていったように思います。
幼いころって、親としては食べてくれないと困ってしまうけれど、実ははじめての触感やにおい、味などで困っているのは子どもの方かもしれないですね。
親が何かきっかけをつくってあげるとしたら、伝え方を工夫してみるといいかもしれません。わが家の場合は、「食べないと身体によくないよ」と怖い顔をしても嫌がるばかり。でもある日、一緒にテレビを観ていて、健康食品の野菜ジュースに「これ体にいいんだって! 注文しようよ~」とせがむ娘を見てピンときて。
CMさながらに「食べるとこんないいことがあるよ」と、理屈を分かりやすく伝えるようにしてみたんです。「にんじんは肌や目がきらきらになるよ!」とか「お肉や卵は丈夫な体をつくるんだって~」みたいに。そうすると、「へえ~、ちょっと食べてみようかな」って興味をもってくれることが多かったですね。
素材も食卓も大変身。
娘が単体のものばかり食べると気づいてからは、わが家の食卓はガラリと変わりました。
夫と2人のときは、筑前煮とかチンジャオロースとか酢豚とか、いわゆる「名のある料理」をよくつくっていましたが、娘の好みに合わせると、切ったり蒸したり焼いただけの「料理みたいなもん(名もなき料理)」が食卓に並ぶわけです。材料がお皿にのっているみたいで、何だか味気ないなあとさみしく思うときもありました。
でも逆にそうなると、素材にはこだわるようになって。
素材そのもので食べるならやっぱりおいしい方がいいし、娘は食べる量も少ないので、ちょっとでも体にいいものを選びたい。オーガニックの素材を買いに行ったり、農家さんから旬の素材が届く生活クラブさんの宅配を頼むようになりました。
気がつけば家族が健康に!?
しばらくは娘の分とは別に、手の込んだ大人用の料理もつくっていましたが、だんだんそれもめんどうになってきて。あるとき、茹でただけの野菜をつまんでみたら、味わい深くてびっくり! 「これでええやん」とそのまま食卓に出したんです。すると、娘と同じ偏食傾向のある夫にも大好評。
きっと素材そのものがおいしいから、味つけをあれこれしなくてもおいしいんですよね。
トマトやきゅうりは切っただけ。根菜やお肉などは茹でる、蒸す、焼くなど火を通すだけにして、食べるときにお皿の上で油や塩やしょうゆをぱらり。調味料が少量でも味が濃く感じられるし、食材の味がしっかりしているから満足感もあるんです。
ずっと「料理は手をかけ味を重ねて完成させるもの」と思っていましたが、「素材がよければ手抜きでもおいしいんだ 」と目からウロコでした。それに、好きで集めていた木のお皿や作家さんの器には、そんな素材そのままの「名もなき料理」の方がふしぎと映える。
やさしい味つけで野菜たっぷりの食事のせいか、私と夫の体調が徐々によくなってきたたことも、うれしいおまけでしたね。以前は季節の変わり目に体調をくずすことが多かったのですが、気がつけばそういうことも少なくなってきたんです。
家族は喜んでくれるし、体調はよくなるし、何より簡単でおいしいし、それまでどちらかと言えば苦手だった料理がだんだんと楽しくなっていきました。娘の偏食でしかたなくシンプルな食生活にシフトしていったわけですが、「料理は手をかけるもの」という思い込みから解放されて、うまく力を抜くことができたのかもしれません。
それを教えてくれた娘には感謝ですね!
――― 今までのスタイルにとらわれず、家族みんなが笑顔になれる「名もなき料理」にたどりついた美濃羽さん。いつも子どもの気持ちをくみ取ろうとしていたからこそ、テレビCMに反応する娘の姿にも声かけのヒントを見つけたのかもしれません。
親は子どもの苦手なものを克服させることばかり考えてしまいがちですが、好きなものをよりおいしく食べさせてあげることも、大事な一歩かもしれませんね!
〈今回のスイッチポイント〉
手をかけず力を抜くことで、もっと料理はおいしく、手軽になる!
~小学生にして食の本質をさとる!の巻き~
「おやつのパッケージをしげしげと眺めていたゴン、何かに気づいたらしく母に報告。“ゴン分かったで! 食べものって原料が少ないほどおいしいね!”
そうそう、素材の味がしっかりしているものは余計なことをしなくても充分おいしい。でもそれって、効率とか、お金とか、合理性とかを優先する大人はつい忘れがちなことなのかもしれません。
シンプルなことを守っていくことは大切なこと。彼女が大人になってもそのことを覚えててくれているといいな~」
――― さて、次回のテーマは「悩ましい子どもの食べ方」。少しずつ調理したものも食べられるようになるにつれ、独特な食べ方をするようになったゴンちゃん。驚きつつもあたたかく見守ってきた美濃羽さんのまなざしから、子育てのヒントをもらいます。お楽しみに!
〈写真・イラスト/美濃羽まゆみ 取材・文/山形恭子〉
美濃羽まゆみ(みのわ・まゆみ)
服飾作家・手づくり暮らし研究家。京町家で夫、長女ゴン(2007年生まれ)、長男まめぴー(2013年生まれ)、猫2匹と暮らす。細身で肌が敏感な長女に合う服が見つからず、子ども服をつくりはじめたことが服飾作家としてのスタートに。
現在は洋服制作のほか、メディアへの出演、洋裁学校の講師、ブログやYou Tubeでの発信、子どもたちの居場所「くらら庵」の運営参加など、多方面で活躍。著書に『「めんどう」を楽しむ衣食住のレシピノート』(主婦と生活社)amazonで見る 、『FU-KO basics. 感じのいい、大人服』(日本ヴォーグ社)amazonで見る など。
ブログ:https://fukohm.exblog.jp/
インスタグラム:@minowa_mayumi