• 「同い年の女の子に比べると、うちの息子は、どこかボーっとした雰囲気がぬぐえない」「いつも散らかし放題で片付けが苦手」。そんな風に悩みを抱えるお母さんも、きっと少なくないはず。でも、これらの傾向に対して、「決して悪いことではない」と語るのは『イラストですぐわかる! 息子のトリセツ』の著者であり、脳科学者の黒川伊保子先生です。そこで、黒川先生に、息子育てのコツを伺いました。

    「空間認知優先型」の男性脳は、遠くのものに反応しがち

    画像: 「空間認知優先型」の男性脳は、遠くのものに反応しがち

    黒川先生がまず指摘するのは、男の子と女の子の脳の違いについて。脳自体に性別による違いはないものの、その使い方に差があるのだそうです。

    「男女の脳に搭載された機能は同じです。そういう意味では、『男女の脳は違わない』と言っていい。でも、脳は、どのような機能を搭載しているかより、『とっさにどの機能を選択するか』で決まります。

    その点でいえば、ほとんどの男子は、『空間認知優先型の脳』で生まれてくる。もちろん、そうじゃないからといって不正解というわけではありませんが、そうである男性が大多数であることは間違いありません。対する女子は、ほとんどが、『コミュニケーション優先型の脳』です」

    空間認知優先型の脳の特徴とは、どんなものかというと、自然に「遠く」まで視線を走らせ、空間の距離を測ったり、ものの構造を認知する神経回路を優先したりする傾向にあるのだとか。

    一方のコミュニケーション優先型の脳は、自然に「近く」に集中して、目の前の人の表情や所作に反応する神経回路を優先する脳の使い方なのです。

    誰の脳にも“利き回路”がある

    ヒトは「空間認知優先」「コミュニケーション優先」のどちらの使い方もできるものの、とっさにどちらを優先するかは、あらかじめ決められているそうです。

    「誰にも利き手があるように、誰の脳にも〝利き回路〟があるのです。男女は、同じ脳を持ちながら、とっさに『別の装置』としてカウンターバランスを取り合うペアなのです。家族に危険が迫ったら、片方は、遠くの危険物に瞬時に照準が合って対処し、もう片方は、目の前の大切なものから一瞬たりとも意識をそらさないで守り抜く。

    大切なものは、二つの機能が揃わないと家族を守れません。『とっさ』が違うからこそ、素晴らしい。けれど、『とっさ』が違うので、母は息子にイラっとしやすいのも事実です」

    やりっぱなし癖はやる気がないから?

    画像: やりっぱなし癖はやる気がないから?

    とっさに、遠くの目標に潔くロックオンする男子たち。トイレに行くときは、トイレしか見えない。風呂に入るときは、風呂しか眼中にない。目の前の汚れたコップをついでにキッチンに持っていこうとか、さっき脱ぎ捨てたシャツをついでに脱衣場に持っていこうとか、つゆほども気づかない……。

    結果、やりっぱなし、脱ぎっぱなし、置きっぱなしの「ぱなし」癖が継続され、いくら注意しても、同じことを繰り返すので、飽き飽きとするお母さんも多いのでは。

    「男の子の『ぱなし癖』は、実はやる気がないわけではないのです。あれは、脳がとっさに『遠く』を選択しているからこそ。視覚野のその癖は、思考の癖にも、話し方の癖にも反映されます。しかし、高い目的意識や客観性など、その利点は山ほどあります。

    特に、理系の教科は、このセンスがないと楽しめませんし、事業開発においても、この能力は高く評価されます。つまり、男の子の『ぱなし癖』は、できるビジネスパーソンの要件でもあるのです」

    優秀な男性脳ほど、役立たずな感じが漂う

    しかし、優秀な男性脳であればあるほどに、はたからみれば「ぼんやりしがちな、ぱなし男」に見えるため、家の中では、役立たずな感じが漂ってしまいます。だからこそ、黒川先生は、「息子の脳に男性脳らしさを植え付けたければ、その弱点を飲み込むべき」だと語ります。

    「『近くを注視して、先へ先へ気が利く』という脳の使い方を強制すると、無邪気に『遠く』を見られない子どもに育ちます。すると、『宇宙まで届く冒険心や開発力』は弱体化してしまう。息子の脳に、男性脳らしさを根づかせてやりたければ、息子の一生の『ぼんやり』と『ぱなし』を許しましょう。これは、息子のトリセツの、基本のキ。息子育ての法則の第一条と言えます」

    車や電車を愛する間に、男児は好奇心を育んでいる

    画像: 車や電車を愛する間に、男児は好奇心を育んでいる

    「遠く」を夢見る脳の使い方をする男の子たち。それは、空間認知力を優先して使う、ということ。男の子が「遠く」を意識すればするほどに、奥行認知が得意になり、距離感をつかんだり、ものの構造を見抜く力が、驚くほど早く発達するのだそうです。

    「脳は得意なことをしたがるようにできています。男の子たちが車や電車が好きなのは、距離をはかったり、構造を見抜くのが好きだからこそ。あの艶のあるマテリアル(素材感)は、遠くから見ても目立つし、光の反射具合でかたちや構造が見ただけでも理解しやすい。

    私たち女性には、何がうれしいのかがわからない『はたらくくるま』ですが、こういう、かたちや構造が目で見てわかるものが、やや離れたところにあると、男子はがぜん興奮します。この行為が、空間認知力の高さを生み、好奇心を育むのです」

    息子を天才にするためには、部屋は散らかっていたほうがいい

    また、男の子の脳をより発達させるためには、部屋は多少散らかっていた方がいいのだと、黒川先生は続けます。

    「母親が、『3つ目のおもちゃを出すなら、ひとつしまおうね』などという始末のいいことをしていると、男の子は大きな男に育たない可能性があります。“散らかし放題”が、男子の最高の英才教育。部屋が散らかっているのを、人にとやかく言われても、『息子を天才にするため』と微笑んでおきましょう」

    そのため、男の子が部屋のお片付けが苦手だったとしても、仮に息子を大きな男に育てたいのであれば、注意せずに放置しておくのが肝心なのです。

    おとなの男性との交流が、豊かな感性を生む

    画像1: おとなの男性との交流が、豊かな感性を生む

    男子の脳は、「おとなの男性」との時間によって、育まれることも。その中で、祖父や父はもちろん、外の「おとなの男」に出逢うのも大切なのだとか。

    「私の息子も、小学校低学年のとき、近所の碁会所に通っていたのですが、初めて対局してくれた方の言ったことばを、私はいまでも忘れられません。碁会所でいきなり碁石を渡されて、茫然とする息子に、その男性は穏やかな声で『さて、ぼうや。これ(盤)は、世界だ。きみは、これから世界を征服するんだよ。その最初の一歩をどこへ置く?』と語りかけてくれました。

    そして、息子は、瞳を煌きらめかせて、最初の一石を置きました。息子は囲碁のプロにこそなりませんでしたが、そこでもらった哲学は、きっと彼の脳の大事な一部になったはず。何よりも、いまでも年上の男たちとの付き合い方が上手いのは、この碁会所のおかげだと思います」

    女性である母親は、息子とよその男性との交流に無頓着になりがちです。でも、おとなの男性と触れ合える機会があるならば、ぜひ積極的に参加して、息子の脳に刺激を与えてみてはいかがでしょうか。

    こうした黒川伊保子先生が語る、才能あふれる息子の育て方については、『イラストですぐわかる!息子のトリセツ』(黒川伊保子=著 扶桑社)に詳しくつづられています。


    黒川伊保子さん

    画像2: おとなの男性との交流が、豊かな感性を生む

    脳科学・人工知能(AI)研究者。1959年、長野県生まれ。奈良女子大学理学部物理学科卒業後、コンピュータ・メーカーにてAI開発に従事。2003年より株式会社感性リサーチ代表取締役社長。語感の数値化に成功し、大塚製薬「SoyJoy」など、多くの商品名の感性分析を行う。また男女の脳の「とっさの使い方」の違いを発見し、その研究成果を元にベストセラー『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』(共に講談社)、『娘のトリセツ』(小学館)を発表。他に『母脳』『英雄の書』(ポプラ社)、『恋愛脳』『成熟脳』『家族脳』(いずれも新潮文庫)などの著書がある。

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