• 天然生活2021年9月号で紹介した、グラフィックデザイナー・セキユリヲさんの家族の物語。本誌では紹介しきれなかったお話をもう少し、こちらでお届けいたします。いつかは子どもを欲しいと思っている若い世代の方へ、今まさに特別養子縁組に興味をもっている方へ、そして現在一緒に子育てに奮闘している方や子育てがひと段落ついた方々へも。今回は、特別養子縁組制度をあっせんする民間の団体へ入会をするまでのお話です。

    不妊治療と特別養子縁組、両方の道を進んでみる

    1年間のスウェーデン留学を終えて帰国したセキさんは、不妊治療を開始すると同時に、現地で運命的に出会った特別養子縁組制度についても、具体的に調べ始めました。「子どもを育ててみたい」という夢を叶えるために、可能性のある2つの道に優先順位をつけず、平等に、同時に、足を踏み出したのです。

    画像: リビングの一角にあるセキさんの仕事場。窓枠に無造作に引っ掛けられた松ぼっくりが愛らしい

    リビングの一角にあるセキさんの仕事場。窓枠に無造作に引っ掛けられた松ぼっくりが愛らしい

    不妊治療は、「40歳という年齢も考えると、最初から高度な医療を受けた方がいいのでは」と考え、ネットで調べた、評判がよく、通いやすい距離にあるクリニックを選択。現代では一番妊娠の確率が高いと考えられている体外受精の一種、顕微受精を始めることにしました。

    特別養子縁組制度は、仲介する機関が、行政機関である児童相談所と、民間のあっせん団体の、2種類あります(※)。しかしながら、前者を介して特別養子縁組制度が成立したケースは、決して多くはないを知っていたセキさんは、当初から「民間の団体にお世話になろう」と決めていました。インターネットで団体のホームページをくまなく読み込む日々が続きます。

    「いまではだいぶ、いろいろな情報がホームページ上に公開されていると感じますが、私が探していた当時は、公開されている情報は限定的でした」(セキさん)

    それでも、団体が掲げる信念や申し込み条件などを中心に、ホームページで公開されている情報を検討しながら、どの団体がいいか候補を複数の団体に絞っていたとき。

    またしてもセキさんに素敵な出会いが訪れます。

    ※ 児童相談所の場合、研修・調査をしたのち、まずは養子縁組里親に登録することから始まり、条件等は自治体で異なります。民間のあっせん団体の場合、厚生労働省の家庭福祉課調によると(令和2年11月12日現在/民間あっせん機関による養子縁組のあっせんに係る児童の保護等に関する法律<平成28年法律第110号>に定める許可を受けたものは)、全国に22団体あり、提示する条件や研修内容などの違い等、それぞれに特色があります。また、同法の経過措置規定により、許可を受けていなくても事業を営むことのできる事業者も存在します。

    特別養子縁組が結んだ、幸せな家族の姿

    画像: 保育園から帰ってきた長男と一緒に、親子テラスでのんびりと

    保育園から帰ってきた長男と一緒に、親子テラスでのんびりと

    偶然にも、知人の知人が、候補に上がっていたひとつの団体をとおして、特別養子縁組制度で2歳の男の子を育てていることがわかったのです。その団体は、セキさんが当時「一番情報を公開していると感じていた」ところ。さっそくご家族に会いに行ってみると……?

    「その家族が、すごく幸せそうだったんです!」(セキさん)

    それは、期せずして、私がセキさんのご家族に会ったときにシンプルに感じたことと、まったく同じ感想でした。セキさんはもともと血縁に対してのこだわりがありませんが、私は頭では関係ないと思いながらも、どこかでセキさんのように清々しく言い切れない、漠然とした不安や心配があることを認めざるをえません。けれど、そんな私でも、セキさん家の、ただただ幸せな”普通“の家族の光景を目の当たりにしたとき、頭にこびりついていた疑問や不安がふわりと宙に消えていったことを、思い出しました。

    これから特別養子縁組制度を通じて子育てをしようとしているセキさんにとっては、同じ状況であるこのご家族と一緒に子育てをできることは、何より「心強くて安心!」とも思ったとも。なにより、誰よりも頼りになる“ママ友・パパ友”が、すぐ近くに見つかったのですから。

    民間のあっせん団体へ入会する

    画像: 東京ではアート教室に、東川町に引っ越してからもオンラインで教室に参加している長女。お絵かきがとても上手

    東京ではアート教室に、東川町に引っ越してからもオンラインで教室に参加している長女。お絵かきがとても上手

    同時に進めていた不妊治療はというと、幾度か顕微受精をしていたものの、その痛みが耐えがたかったのと、クリニックの緊張感のある独特な雰囲気に、少しずつ居心地の悪さを感じるようになっていました。不妊治療で子を授かる道が、完全に閉ざされるような原因が判明したわけでも、クリニックで何か決定的なできごとがあったわけでもありません。でも……。

    「病院の雰囲気がやさしく楽しげなものだったらまた違ったかもしれませんね。自然が大好きで、仕事のデザインでも自然の造形をモチーフにするなど、自然を身近に、大切なものと考えていた私にとっては、不妊治療がどこか“不自然”なようにも感じたんです」(セキさん)

    そんなセキさんの目にとびきりやさしく、まぶしく映ったのは、スウェーデンで、日本で、特別養子縁組制度を通じてお子さんを授かった、あのご家族らの幸せな光景でした。

    不妊治療に伴う痛みや辛さ、そしてその違和感をご主人の清水さんにも真剣に正直に相談した結果、不妊治療はやめて、前述したご家族と同じ団体に入会することに。団体が設ける年齢制限に間に合わせるために、年末にすべり込みで申し込み。それは、スウェーデンから帰国して、2年がたったときのことでした。

    次回は、期待と不安を胸に子を待ち続けた、過日の話を。

    〈撮影/前田景〉


    遊馬里江(ゆうま・りえ)

    編集者・ライター。東京の制作会社・出版社にて、料理や手芸ほか、生活まわりの書籍編集を経て、2013年より北海道・札幌へ。2児の子育てを楽しみつつ悩みつつ、フリーランスの編集・ライターとして活動中。



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