世界中にいる、編み物好きへ
編み物好きは世界中にいる! アメリカやカナダ、北欧でも、編み物を楽しむことが日常的。編み物マガジン「amirisu」は日本語と英語のバイリンガル、世界中にファンがいます。代表を務めるのは、オチアイトクコさんとタナカメリさん。
ふたりが出会ったのは、編み物好きのコミュニティサイト「Raverly(ラベリー)」を通じて。世界中のニッターが集まり、ユーザーは400万人以上! 情報交換したり、パターンが購入できたり、編み物を通じてつながる交流サイトです。当時、オチアイさんは編み物教室を主宰、タナカさんにとっては編み物が会社勤めの息抜きでした。
「編み物の本をつくりたい」という思いで意気投合し、2012年、編み物マガジン「amirisu」を立ち上げました。
「海外と日本ではパターンに大きな差があります。私たちは『ラベリー』を利用していて、海外のパターンで編んでいたので、その差をすごく感じていたんです。日本の編み物の本は「編み図」が主流。でも「編み図」で説明できるのは、ワンサイズのみなんです。海外では文章による説明が中心。平面だけでなく、立体で編むホールガーメントも文章でなら簡単に説明がつきます。その分、デザインの幅が広がるし、S・M・Lとサイズ展開できることが大きいですよね。人それぞれ、体型って違いますから。
いずれ日本もそうなると思っていたけれど、ちっとも変わらなくて。だったら、自費で本が作りたい。メリさんにそう話してみたら、“一緒にやりたい”って言ってくれて。はじめは、趣味の片手間のような、気軽な気持ちではじめたんです」(トクコさん)
編み物マガジンから、毛糸屋さんが始まる
編み物好きの女性ふたりがはじめた、編み物マガジン「amirisu」。これまでにないスタイルが1号目から注目されて、「後には引けなくなりましたね」と笑う、トクコさん。ユーザーのリクエストにこたえて、オンラインストアで毛糸も扱うようになり、趣味ではじめたつもりがだんだん手いっぱいに。
その後、夫の転勤でトクコさんは東京から神戸へ。メリさんは会社勤めを辞め、京都に拠点を移し、本格的に活動をスタートさせました。
「海外の人たちも日本のものづくりに関心があるので、いまでは世界各地の毛糸屋さんで「amirisu」を扱ってくれています。“絶対に京都でやりたい”というわけではなかったけれど東京と行き来しやすいし、単純に一度、京都に住んでみたかったんです」(メリさん)
いまでは、拠点がある京都・四条烏丸と東京・青山で毛糸ショップ「WALNUT」を営み、教室も主宰。海外から仕入れた毛糸を中心に、編み物の道具や本、オリジナルの糸などを扱います。京都店は、お客さまの多くが、外国人旅行者! 滞在中、京都店と東京店をはしごする編み物ファンが少なくないそう。
「まさかこんなに外国人旅行者が来てくれると思わなかったんですけど、私たちも旅をすると、その街の毛糸屋さんをのぞきたくなるから、同じ感覚ですね。ニッターには旅先ごとに巡りたいお店リストがありますね。日本を旅する人はたいてい京都と東京を訪れるから、本当にちょうど良かったです」(メリさん)
編んでいるからわかる、本当に欲しいものを
京都を拠点にしてよかったこと、もうひとつはスタッフの確保。
京都は美術大学が多く、伝統工芸が身近で、染めや織りなどの経験を持つ人材が豊富なこと。「知識や経験がないとお客様に説明できない仕事なので、とても助かっています」と、ふたり。
さらに、関西には手芸メーカーが多く、交流が深められたことも大きな力に。ダルマ糸で知られる横田株式会社とは、毛糸や刺子糸を海外に紹介するために一緒に本を作ったりも。
「この糸に落ち感があったらいいなとか、強さ、滑らかさが欲しいとか……、本当に欲しい糸をオリジナルでつくっています。シルク、コットン、アルパカ、ヤク……、いろんな糸の組み合わせで、編み心地も仕上がりも変わっていきます」(メリさん)
「パターンも一緒につくれるのが、私たちの強み。編みたいパターンがあって、糸は選ばれるものだから。パターンが増えれば増えるほど、その糸の出番も増えるんです。日本ではわりとすぐ廃盤になってしまうけれど、海外ではパターンのストックを増やしていくので、滅多に廃盤になりません。
海外の毛糸メーカーとのお付き合いも多いので、いい方法は取り入れて。自分たちがいいと思うものばかりだから、“今年売れなくても、来年売れたらいい”、そんな気持ちで続けていきたいと思います」(オチアイさん)
おうち時間が増えて、ものづくりをはじめた人、はじめたい人はきっと多いはず。後編では、編み物の楽しさ、喜びをお届けします。
写真提供:amirisu ( Hike、タナカメリさん撮影/石川奈都子、amirisu最新号、オチアイトクコさん撮影/嶋崎征弘)
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amirisu
編み物マガジン「amirisu」はじめ、編み物の本を日本語と英語のバイリンガルでつくり、毛糸や編み物の道具などとともに国内外で販売しスクールも主宰する。京都と東京に実店舗があり、オンラインショップも人気。コロナ禍のため、京都店は2021年10月から一時休業中。スケジュールや商品についてはHP&SNSで。
WALNUT Kyoto
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日・月曜休
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宮下亜紀(みやした・あき)
京都に暮らす、編集者、ライター。出版社にて女性誌や情報誌を編集したのち、生まれ育った京都を拠点に活動。『はじめまして京都』(共著、PIE BOOKS)ほか、『本と体』(高山なおみ著)、『イノダアキオさんのコーヒーがおいしい理由』(イノダコーヒ三条店初代店長 猪田彰郎著)、『絵本といっしょにまっすぐまっすぐ』(メリーゴーランド京都店長 鈴木潤著、共にアノニマ・スタジオ)など、京都暮らしから芽生えた書籍や雑誌を手がける。インスタグラム:@miyanlife