つくる人と食べる人の架け橋に
国産小麦の風味が生きた、口溶けなめらかなパンを提供する「365日」。野菜や果物を使ったパンも多くありますが、その野菜や果物は契約農家から直接届くもので、そのほとんどがオーガニックや自然栽培のものなんだそう。契約農家の数はいまや60軒以上にものぼると、オーナーの杉窪章匡さんはいいます。
「“生産者と消費者の間に立つ”という想いでやっています。生産者さんのセールスマンといったところですね。小麦はすべて国産小麦を使っていますが、一部の地域だけでなくあえて日本全国の小麦をつかっているのも、そのためです」
独立して「365日」を立ち上げる前から、食材に強い興味を持っていたと話す杉窪さん。仕事とは関係なく、畑に見学に行ったり、農家のお手伝いをしたりしていたのだそう。
「いい素材を使うことが何より大事だとずっと思っていて。それには、何がよくて、よくないかを理解して、目利きのように選べないとダメで。でも、それだけじゃなく、そもそも農業に興味があったというのもありますね。自然栽培でいうなら、循環や多様性といったテーマはすごくおもしろいです」
そんな農家さんとの密なお付き合いを象徴するパンが、「ハタケ」です。その名のとおり、畑に見立てたパンで、和風フレンチトーストに野菜をのせたものなのだそう。いただいてみると、キッシュのような甘い生地から、ほんのりと漂う滋味深い香り。それは、なんと赤味噌でした。
聞くと、こちらは店の人気パン「100%=ソンプルサン」のリメイク商品。「100%=ソンプルサン」をキッシュのアパレイユに浸し、赤味噌とタプナード(オリーブやアンチョビを使ったソース)、クレーム・エペス(発酵させた生クリーム)を合わせたものを上にのせ、“土”を表現。その“土”に野菜と自家製ベーコンをたっぷりとのせています。
「『ハタケ』をつくったのは、女性だけで営む三重県の農家さんの野菜を使って何かやりたいと思ったのがきっかけです。赤味噌をそのまま使うと味が上品にまとまらないので、タプナードと合わせました。食材を掛け合わせるときは風土に合ったものがいいと考えているんですが、三重県は大平洋側で、ヨーロッパでいうと地中海側のようなもの。地中海といえばオリーブやアンチョビなので、タプナードにしたんです」
そんな発想が生まれるのも、杉窪さんがパティシエとして長年レストランで働いた経験を持つからこそ。職種はパティシエでも、レストランの厨房にいると料理をつくらされるため、料理の腕が随分と鍛えられたそうです。
お菓子の技術もパンに生かして
パティシエの経歴がもっとも長い杉窪さんならではともいえる、菓子の技術を応用したパンが食パンです。「北海道×食ぱん」は、小麦、牛乳、バターのすべてを北海道産のものでつくった食パンで、バターの芳醇な香りが楽しめるリッチなパン。
いただいてみると、驚いたのはその食感。すーっと溶けていくようで、口溶けのよさは格別です。
「バターはグルテンを出すのを阻害してしまうので、普通、バターは最後に入れるんです。でも余分なグルテンが出てしまうので、ひきが強くなったり口溶けが悪くなったりする。なので、うちでは、最初からバターを入れます。
クッキーとかでやるんですが、サブラージュといって、小麦とバターをすり合わせてつくる製法があるんです。そうするとグルテンの発生が抑えられ、サクサクした感じになる。パン生地をつくるときに、その状態を最初につくってからグルテンを出しているので、余分なグルテンが出ないんです」
パンだけでなく、料理にもお菓子づくりにも深く携わってきた杉窪さん。おいしいものをつくるには、いい素材を使うことが何より大切と考え、その考えが、食べる人とつくる人を結びつけることへとつながりました。生産者の想いが詰まった素材の豊かな味わいを、そのパンからぜひ感じとってみてください。
<撮影/山川修一 取材・文/諸根文奈>
365日
03-6804-7357
7:00〜19:00
無休
東京都渋谷区富ヶ谷1-2-8
最寄り駅:小田急線「代々木八幡駅」、東京メトロ千代田線「代々木公園駅」
https://ultrakitchen.jp/
https://www.instagram.com/365_nichi/