• 子育ての悩みや日常生活のちょっとしたイライラ、みなさんどんな風に解決していますか。京町家に家族4人で暮らし、洋服づくりを手がける美濃羽まゆみさんは、仕事に家事に忙しい毎日も自分のペースでごきげんに楽しんでいるようです。個性豊かな子どもたちとの向き合い方や日々の小さな心掛け、気持ちの整え方……。美濃羽さんが日ごろから大切にしていることをお聞きして、 “ごきげんに暮らすヒント=ごきげんスイッチ”を探っていきます。今回のお話は「子どものものを選ぶ時の心がけ」。服やおもちゃなど、日ごろから子どものものをどんな風に選んでいるかお聞きしました。

    子どものもの選び
    「決めるまでをていねいに」  

    毎日の生活に必要な日用品から、遊びや勉強で使う文具、雑貨、おもちゃなど、子どものものを選ぶ機会はいろいろとあります。幼い頃から主張がはっきりしていた長女ゴンちゃん。親としての思いや願いもありつつ、美濃羽さんは子どものものをどうやって選んできたのでしょう。

    困った子は、困っている子?

    今、子どものものはほぼすべて子ども自身が選んでいます。でも私がそうなれたのは、幼い頃からゴン(長女)の主張がすごく強かったから。私の思いや考えだけで選んでも、彼女が受け入れてくれなかったからなんです。

    たとえば服選び。ゴンには発達障害による感覚過敏があったので、幼少期のこだわりは主に「肌触り」でした。ウールなどちくちくする素材はアウト。脱ぎ着しにくい服やしめつけのある服もだめ。ものによっては縫い目が気になるらしく、裏返しに着ることもありましたね。

    まだしゃべれない赤ちゃんのころは、なぜいやがるのかが分からずに困り果てたこともありました。でも2歳ごろからは何となく理由を伝えてくれるようになって。彼女の好みに合せて服を選んだり、手づくりしたりすることで、どうにか対策ができました。

    私の場合はそういう経験があったので、「親から見た困った行動には、子どもなりの理由がちゃんとある」と、割と早くに気づけたのだと思います。「困った子」は「困っている子」なのかもしれない。 そう視点を切り替えられるようになって、親子でぶつかることが少しずつ減っていきました。

    画像: ゴンちゃんの服づくりが、洋裁作家になるきっかけに。「はじめて出版した洋裁本のモデルは、当時7歳だったゴンにお願いしました。実はこの写真、えびせんが口に入っているんですよ!」

    ゴンちゃんの服づくりが、洋裁作家になるきっかけに。「はじめて出版した洋裁本のモデルは、当時7歳だったゴンにお願いしました。実はこの写真、えびせんが口に入っているんですよ!」

    娘の好みと私の好み。

    当時プリンセスブームだったゴンの一番のお気に入りは、ウエストがふんわりしたワンピース。2歳ごろから中学生になってからもしばらくは、私が手づくりした同じタイプのワンピースを着ていました。

    実は、この娘の服づくりが今の仕事につながっているのですが、ゴンが4、5歳の時に、はっとさせられるできごとがあったんです。

    服飾作家としての活動もスタートし、だんだんと服づくりも上達してきたころのこと。いろいろなデザインをうまく形にできるようになって、自分好みの服をつくれることが、もう楽しくて、うれしくて。それなのに、せっかく新しい服をつくってもゴンは喜ぶどころか全然着てくれない……。あのころは娘の笑顔を楽しみにがんばっていたところもあったので、そのたびにがっくりでした。

    そんなある時、私の様子を見ていた彼女が、「ちゃーちゃん(母ちゃん=私のこと)の服が嫌いなわけじゃないねん。でも着られへんねん」と泣きながら訴えてきて。肌触りなど着心地が合わなくて、彼女はどうしても着ることができなかったんですね。

    「何て大人気ないことをしてしまったんやろう」と、すごく落ち込みました。つくることに夢中になるあまり、着る人のことを考えられていなかったと。

    それからは、ゴンのための服と作家として私がつくりたい服とを分けるようになりました。

    ゴンの服はもちろん彼女の好きな布地とデザインで、私好みの服は新しい素材や自由なデザインで、というように。後者の服は欲しい方にお譲りすると喜んでいただけました。

    ちなみに、最初の洋裁本の表紙を飾ったワンピースは、彼女の好みと私の好みの集大成!

    ゴンも気に入ってくれたので毎年サイズアップして10枚以上つくりましたが、不思議とファンの方からも長く愛されていて。きっと子どもの「着たい」と、大人の「つくってあげたい」のバランスがうまく取れているデザインなのでしょうね。

    画像: ワンピース姿のゴンちゃんが表紙を飾る著書『作ってあげたい、女の子のお洋服』(日本ヴォーグ社)。このウエストギャザーのデザインは、「まわるとふんわり広がるのがいい」というゴンちゃんのリクエストから生まれたそう。

    ワンピース姿のゴンちゃんが表紙を飾る著書『作ってあげたい、女の子のお洋服』(日本ヴォーグ社)。このウエストギャザーのデザインは、「まわるとふんわり広がるのがいい」というゴンちゃんのリクエストから生まれたそう。

    自分で選ぶから大切なものになる。

    服についてはそうやって折り合いをつけてこられたのですが、その時々に選ぶおもちゃや日用品については、つい口を出してしまってぶつかることもありました。

    ある年、ゴンの誕生日プレゼントを一緒に選んでいた時のことです。私としては長く使える昔ながらの玩具をすすめたかったのに、彼女はアクセサリーがつくれるおもちゃのマシーンが欲しいと言って頑なに譲らない。どうも雑誌広告で見たらしく、お友達も同じものを持っているようでした。

    私は「すぐ壊れるんとちがう?」とか「お友達がうらやましいだけやろ?」とか、いろいろな理由をつけてあきらめさせようとしたのですが、隣で聞いていた夫が見かねて、「使うのは本人なんやからいいやん。親としては気に入らないかもしれないけれど、選ばせてあげへん?」と。

    痛いところを突かれましたね。確かに、自分の意見を押しつけようとしていたなと反省しました。と同時に、私自身が子どものころに欲しいおもちゃが買ってもらえず悲しかったことを思い出して。私はもしかしたら子ども時代の自分を満足させたくて、好みを押しつけようとしたのかもしれない……とも。

    意外にも、娘はそのおもちゃを大切に使っていました。自分で納得して選んだものだから愛着もわいたのかもしれません。でもそれって大人も一緒やなあって。手にした時に「美しい」とピンときた古いカゴを、私が手入れしながら大切にしているように。

    この日のことがあってからです、あらゆる彼女の「選択」を大事にするようになったのは。

    それはもの選びに限らず、「行動」についても同じ。「帰りは絶対にこっちの道を通りたい」とか「今日は長靴をはいて保育園行く(晴れているのに)」みたいな「しょうもないなあ」と思うような選択だって、基本すべて「いいやん」と即答!

    親としてはちょっと勇気が要ることもあったけれど、考えてみたら誰に迷惑をかけるわけでもないし、彼女なりの理由があるはずだから。

    画像: 大好きなことりシリーズのぬいぐるみに囲まれて、ご満悦なゴンちゃん(10歳のころ)。大きいものは5体、小さいものは何と50体もあるそう。「お気に入りの順位までつけています!」

    大好きなことりシリーズのぬいぐるみに囲まれて、ご満悦なゴンちゃん(10歳のころ)。大きいものは5体、小さいものは何と50体もあるそう。「お気に入りの順位までつけています!」

    「他人ごと」か「自分ごと」か。

    それなら、子どもの選択には一切口を出さないのかというとそうではなく、たとえば大きな買い物をする時や危険を伴なうようなことについては、しっかり意見交換をしています。一方的に言い聞かせるのではなく、「私はこう思うよ」ということを「会議モード」で伝える感じですね。

    「最終的にはあなたが選ぶこと」とちゃんと説明した上で、私の今までの経験から導き出したことを「ひとつの意見」として冷静に伝える。「選択権はあなたにあるから、みんなの意見を聞いた上で決めてね」と。

    今では、使うスプーンひとつとっても「どっちがいい?」と聞くことが習慣になりました。子どもが選択をした時に「何でこっちなん?」と聞くと、「舌触りがええから」とか「このお皿の時は、こっちのほうがすくいやすいねん」とかしっかり理由が返ってくるので、「ちゃんと考えて選んでるんやあ」と、いつも感心します。

    だからふだん、我が家での会話はほとんどが質問形かもしれない。「朝ごはんのメニューどっちがいい?」「お皿洗いか洗濯たたみ、どっちがやりたい?」「週末ここ行こうと思うんやけど、どう思う?」みたいに。

    困ったことが起きたら、すぐに家族会議! それぞれの意見をやり取りします。そりゃあ、会議は正直めんどうです。「○○しなさい」って言う方がはるかにラク。それでも、子どもの考えや気持ちを聞かずに、こちらが勝手に決めてしまうことだけは、しないようにしています。

    それに、「やらせる」より「自分で選ぶ」とやりたくなるというか、続けたくなるんじゃないかな。「宿題しなさい!」って何回言われても腰が重かったのに、なぜか自由研究ならはりきってできたという人、けっこういますよね。それはきっと、自分で選んだことは「自分ごと」になるからだと思うんです。

    今、私が通っている日本舞踊は、38歳で再開した習いごとです。実は子ども時代に親にすすめられてはじめたものの、何だかなじめなくてすぐに辞めてしまったんです。それが今では、学べば学ぶほど奥が深い! なんて思えるし、イヤイヤやっていた子どものころよりもはるかに楽しい! ひとつ一つの所作にも意味があって、普段の生活にも気づくことが多いんですよね。

    意外にも、娘も息子も「やりたい!」と言い出したので、今は親子3人で習っています。もちろん、子どもたちに比べて全然上達はしないけれど、自分で選んではじめたことって集中力も吸収力も段違い。同じことをやっているのに差が出るもんだなあと、実感しております!

    画像: 自分から習いたいと言い出したピアノは、中学生になった今も継続中。「うちにはピアノがないのですが、練習はしたくないから要らないって。週に1回教室で弾くことが、ゴンにはすごく楽しいみたい」

    自分から習いたいと言い出したピアノは、中学生になった今も継続中。「うちにはピアノがないのですが、練習はしたくないから要らないって。週に1回教室で弾くことが、ゴンにはすごく楽しいみたい」


    ――― 「どれにする?」「どうする?」と子どもに問いかけながら、つい親が勝手に決めてしまっていることってありますよね。何を選ぶかはもちろん大事。でももっともっと、選ぶ過程は大事なのかもしれません。


    〈今回のスイッチポイント〉

    「選ぶこと」は、自分らしい人生を歩むための第一歩。

    画像: 子どものもの選び「決めるまでをていねいに」|美濃羽まゆみのごきげんスイッチ。凸凹子育て&暮らしと仕事

    ~ゴン、ファッションに目覚める! の巻~

    「ゴンが通っていた保育園は私服。お昼ごはんの後、自分で選んで着替えるシステムでした。

    ある日お迎えに行ったら、なんと全身ボーダー!

    “シマシマとシマシマやん!”と思わず突っ込んでしまったのですが、「きまきまときまきま、なんでえ~? (訳:しましまとしましま、なんであかんの?)」とゴン。

    他にも、チェックとドットを絶妙に合わせていたことも! かなり独特なファッションセンスをみせてくれたゴンなのでした」


    ――― さて、次回のテーマは「子どもからの無茶なリクエスト」。叶えてあげられそうにないおねだりやお願いごとなど、子どもからの想定外の要求に美濃羽さんはどんな対応をしてきたのでしょう。お楽しみに!




    〈写真・イラスト/美濃羽まゆみ 取材・文/山形恭子〉

    画像: 「他人ごと」か「自分ごと」か。

    美濃羽まゆみ(みのわ・まゆみ)
    服飾作家・手づくり暮らし研究家。京町家で夫、長女ゴン(2007年生まれ)、長男まめぴー(2013年生まれ)、猫2匹と暮らす。細身で肌が敏感な長女に合う服が見つからず、子ども服をつくりはじめたことが服飾作家としてのスタートに。

    現在は洋服制作のほか、メディアへの出演、洋裁学校の講師、ブログやYou Tubeでの発信、子どもたちの居場所「くらら庵」の運営参加など、多方面で活躍。著書に『「めんどう」を楽しむ衣食住のレシピノート』(主婦と生活社)amazonで見る 、『FU-KO basics. 感じのいい、大人服』(日本ヴォーグ社)amazonで見る など。

    ブログ:https://fukohm.exblog.jp/
    インスタグラム:@minowa_mayumi



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