(『天然生活』2019年10月号掲載)
自分が心地よく、あくまで無理のない程度に
「それで、あなたはどう思う?」
幼いころに暮らしたドイツでは、家でも学校でも、実に細かなことまでこんなふうに尋ねられていた記憶があります。結果、門倉さんには、何はなくともまず考えてみるくせがつきました。
「小さなころから、自分で考えることが大切と、徹底して教えられるんです。みんなと同じでなくても、正しくなくてもいい。まずは、あなたの意見をいってみて、と」
すっきり暮らす、というと、とりあえずはものを手放すことを第一に考えがちです。
それも正しいやり方ではありますが、手放すことに目を向けすぎると、暮らしは不便にも味気なくもなります。そこに必要なのは、自分なりの哲学だと門倉さんは考えています。
「難しそうに聞こえるけれど、要するに自分の尺度を持つということ。私の場合は、根本に『ものは多く持たない』という考えがあります。
さらに、ごちゃごちゃした空間も好きではないから、ものは見えないようにしまう。でも、引き出しの中はおおざっぱでもいい。そこまで課すると、きっと自分に負担になってしまうから」
自分が心地よく、さらに、あくまで無理のない程度に家を整える。
「完璧を目指す必要はなくて、“てげてげ”、でいいんです。7~8割できていれば上出来と考えて」
さて、その“てげてげ”とは、門倉さんの夫の故郷、鹿児島の言葉。意味としては、「まあ、適当なところで」といったところでしょうか。力が入りすぎてしまったときは、そのかわいい呪文のような言葉をつぶやいていると、気持ちがおおらかになってきます。
少し立ち止まり、よりよい方法を探ってみる
すっきり暮らそうとがんばりすぎてしまう理由のひとつは、自分以外の視点を持ち込むから。
それは「常識的にこうでなくては」と思い込む、あるいは「人から素敵と思われたい」と小さな見栄を張るなどの余計な視点。そこから不必要な力みと小さな違和感が生まれ、さらにその引っかかりが暮らしの段取りをつまずかせ、風通しを妨げてしまうのです。
「もっと自分本位でいいんです。イメージにとらわれず、あなたの家はあなたの使いやすいよう、あなたの自由に」
ベッドメイキングの仕方、たまっていくDMをストレスなく整理する方法......。ささいなことでも、「私のやりやすい方法は?」と少し手を止めて考えてみること。
いつもの自分の段取りを思い返し、立ち止まる短い時間が、すっきりした暮らしを無理なく続けていくための、新しいルールになります。
〈撮影/元家健吾 取材・文/福山雅美〉
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門倉多仁亜(かどくら・たにあ)
日本人の父とドイツ人の母の下に生まれ、ドイツ、イギリス、アメリカ、香港などで育つ。近著は『心地よく、ていねいに、ゆとりを楽しむこれからの暮らし方』 (扶桑社BOOKS)。
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです