古き善き文化と新しい文化が体験できる、太陽と人がまぶしい石見地方
大きく分けて出雲地方(東部)、石見地方(西部)、隠岐地方の3つに区分されている島根県。今回訪れたのは、その西部にあたる石見地方です。
日本海に沿うように広がる石見地方は、海と山に恵まれた自然豊かなエリア。美しい日本の原風景や、古いものを大切に受け継ぐ文化が楽しめると、いま改めて注目を集めています。
案内人は松場登美さん。約40年前、結婚を機に夫の地元である石見銀山に移り住み、1994年にアパレルブランド「群言堂」を立ち上げました。現在は「根のある暮らし」をコンセプトに、衣・食・住・美にまつわる暮らしの提案を日本全国に発信しています。
「島根といえば出雲大社や松江城が有名ですが、石見地方は観光地に行き尽くした旅行好きの方から『いい場所ですね』といっていただくことも多いです。便利で早く移動できる世の中だからこそ、逆にのんびりとのどかな風景を見ながら旅するのもいいですよね。派手な見どころは少ないですが、人のやさしさや町並みの美しさを自分で発見するような、楽しみ方ができる場所です」(松場さん)
古さと新しさを楽しめる世界遺産石見銀山の町、大森町
2007年に世界遺産(文化遺産)に認定された石見銀山。世界遺産は「龍源寺間歩」をはじめとした鉱山の坑道だけと思われがちですが、大森町の町並みも含め、隣の温泉津町までの「港と港町」や「街道」も世界遺産に登録されています。
「私が嫁いできた約40年前は、鉱山が閉山して大森町も廃墟化が進んでいた時代。けれども時が流れて伝統的建造物群保存地区に指定されたことで、住民たちの力で町並みが整いはじめ、現在の景観が保たれています。銀山の龍源寺間歩から、店が連なる大森町の中心地までは徒歩で片道30分程度。レンタル自転車で散策するのもいいですよ」(松場さん)
石見銀山の町、大森町
江戸情緒あふれる街道に、松場さんが営む「石見銀山 群言堂 本店」や「暮らす家 他郷阿部家」、ドイツパンの店「ベッカライ コンディトライ ヒダカ」、お菓子の「有馬光栄堂」などが並んでいます。大森の町並みをガイドさんと一緒に歩く、「ワンコインガイド」(要予約)も好評です。
「ここは田舎町といっても、農村ではなく、昔栄えた時代の名残を感じる町。表面的に観光地化したものではなく、そこに人々の営みがあるから美しいと思っています。改修した古民家の集落になっていて、ご近所づきあいも盛ん。外で遊んでいる子どもたちも元気に挨拶してくれますよ」(松場さん)
有馬光栄堂
名物「げたのは」は、かつて銀山が栄えていた江戸時代に鉱山の坑夫たちも食べたという歴史のあるお菓子。煎餅のようなクッキーのような味で、2枚をたたくとカランカランと、げたのなる音に似ていることからこの名前に。「銀山あめ」は、大豆が入った懐かしい味わい。
「創業200年以上続く、大森町では貴重なお菓子屋さん。昔ながらの『げたのは』と『銀山あめ』が名物で、現在はこの2種類を販売されています。中にちょっと座ってお茶が飲めるスペースもあるので、散策の休憩に立ち寄って。建物にも趣があります」(松場さん)
まちライブラリー@きよさん文庫 & 吾鳥絵はるさん
オーナーのはるさんが、実家である築130年の古民家を改修してはじめた「まちライブラリー@きよさん文庫 & 吾鳥絵はるさん」。本を媒介して人と人との関係をつなぐ場所として、自由に閲覧できる文庫を開いています。所有の本や漫画は2,000冊弱で、地域の子どもたちの憩いの場に。
「うちの孫たちがよく通っているお気に入りの場所。はるさんは夫の同級生で、Uターンで地元に戻られて文庫をはじめた方。バードウォッチングの専門家でもあるので、孫たちも大森町にいる小鳥の名前はほとんど覚えたんですよ」(松場さん)
井戸神社
江戸時代の享保の大飢饉で、自らの財産を投じたり、薩摩藩のさつまいもを取り寄せたりしたことで、領民を飢餓から救った「いも代官」こと井戸平左衛門。井戸神社は、その井戸平左衛門ゆかりの神社。鳥居に掲げられた文字は、勝海舟の自筆と伝えられています。
「昔の人物に思いを馳せてみるのも旅の楽しみ。彼の功績をたたえて島根のほかに鳥取や広島、岡山にも神社ができましたが、ここは宮司さんもいなくなり次第に朽ちた姿に。いまは夫が総代となり、たくさんの方の協力を得ながら一生懸命再建しているところです」(松場さん)
いも代官ミュージアム(石見銀山資料館)
江戸時代、石見銀山を治めた大森代官所の跡に建てられた建物を、1976年から資料館として公開。「いも代官」の愛称で親しまれている井戸平左衛門にちなんで、この名称になりました。館内では石見銀山にまつわる歴史資料や、鉱山標本などが展示されています。
「井戸平左衛門にゆかりのある井戸神社とあわせて、ぜひ訪れてみて。館長さんのお話がとてもおもしろいので、もしいらっしゃったら声をかけてみてくださいね」(松場さん)
城上神社(きがみじんじゃ)
石見銀山は大森地区と銀山地区に分かれており、城上神社は大森地区の氏神様。島根県指定有形文化財(建造物)にも指定されていて、拝殿天井に大胆に描かれた「鳴き龍」を目当てに参拝客が訪れます。秋になると木々が色づく、境内の紅葉も見どころ。
「絵の真下に描かれている丸の中に座って手をポンポンとたたくと、龍が鳴いているように音が響くので『鳴き龍』と言われています。ときには境内で神楽や子ども神楽が舞われることも。神社で神楽をみると、厳かな雰囲気があっていいですよ」(松場さん)
石見銀山 群言堂 本店
1989年に創業した「石見銀山 群言堂 本店」は、松場さんが初めて古民家再生を手がけた建物。築約170年の旧商家を改修して、現在はショップとカフェで構成されています。敷地はおよそ300坪あり、街道の入り口からは想像もつかない広がりのある空間です。
「この町に魅力を感じたからこそ、石見銀山でお店をはじめました。町の景観を害さないためにも、通りからは店の中が見えないつくりになっています。2階はテーブルと椅子だけを置いた、何もない空間です。大森町の風景を眺めながらおくつろぎください」(松場さん)
オリジナルのアパレルブランドのほか、県内の食材や雑貨、県内外の器などを取り扱っているので、おみやげ探しにもぴったり。併設しているカフェでは、いのしし肉のカレーや季節のパフェがいただけます。
「洋服は『着て楽、見て楽、心が元気』がコンセプト。からだをしめつけず、肌触りがよく、心が元気になるような洋服を揃えています。カフェの人気は季節ごとに変わるパフェ。いまは飯石郡飯南町のさつまいもを使った、白井自然農園の焼き芋のパフェを提供中です」(松場さん)
萩・石見空港から群言堂への途中で立ち寄りたい場所
今回の旅の玄関口となる萩・石見空港へ到着したら、日本海に沿ったJR山陰本線(車なら山陰自動車道)を北東方面に向かうルートが絶景コース。群言堂の最寄りは出雲空港になりますが、萩・石見空港から山陰ブルーの景色を楽しみつつ旅するのもおすすめです。
山陰ブルーが美しい山陰本線の景色
天気のいい日には、青い海が美しい「山陰ブルー」が楽しめます。日本海に沿った山陰自動車道のドライブはもちろん、並行して走るJR山陰本線に乗ってのんびりと列車の旅を楽しむのも、石見旅の醍醐味。透明度の高い海の色に心も踊るはず。
「ここに移り住むまで日本海は暗いイメージがあったのですが、冬でも天気のよい日には、穏やかで美しいブルーの景色を見ることができます。車窓から見る風景は、海が見えたり山が見えたり、景色の変化が素晴らしいですよ」(松場さん)
宮ヶ島 衣毘須神社(みやがしま えびすじんじゃ)
小浜海岸の岩礁「宮ヶ島」に鎮座する、えびす様を主祭神とする神社。漁業の神様として、えびす様の総本宮である美保神社から分霊されました。潮の満ち引きで、大潮のときは参道が海に沈んで渡れなくなることから「山陰のモンサンミッシェル」とも言われています。
「山陰のモンサンミッシェルという言葉にグッと引きつけられて。ここはまだ訪れたことがなく、行きたいと思っている場所です。月の満ち欠けや潮の満ち引きで形状が変わる光景は、宇宙と繋がっているようで魅力的。なんだかロマンを感じますよね」(松場さん)
室谷の棚田
大麻山のふもとにある約4000枚以上の棚田は、1999年に「日本棚田百選」に選ばれたこともあるそう。上室谷地区の狭い道を車で上がっていくと、棚田のエリアに到着し、遊歩道を登ったところに棚田がよく見える景観ポイントがあります。
「私はとにかく棚田が大好き。日本の原風景ですよね。棚田の風景が減っていくことを寂しく感じていましたが、島根にもこんなに素敵な棚田があったのがうれしくて。神社仏閣もいいけれど、こういう四季折々の変化を感じられる場所もぜひ訪ねてみてください」(松場さん)
MASCOS HOTEL
JR山陰本線・益田駅の近くに、2019年に開業したクラフトホテル。益田市、江津市、浜田市の工芸所や作家に依頼して、オリジナルの家具や器を揃えています。温泉やカフェは宿泊者以外でも利用可。部屋には自転車をかけられる場所もあり、自転車愛好家からも好評です。
「私はまだ宿泊したことがないのですが、夫がよく利用していて評判は聞いています。カフェの家具は『Sukimono』という江津市の家具メーカーが手がけているなど、県内の人たちの仕事が見られるというのもうれしいですね」(松場さん)
萩・石見空港から立ち寄れる津和野の行きたいところ
山陰の小京都と呼ばれる津和野。山口県との県境に位置し、殿町通りや津和野城址などみどころも多く存在します。萩・石見空港からは、群言堂とは反対方向に進んで約1時間程度で到着するエリアです。
「津和野には友人を訪ねて何度か行ったことがあるのですが、自分で車が運転できないこともあり、町のあちこちを巡ったことがまだあまりなくて。今回は、家族やスタッフに教えてもらいながら、心惹かれるところを選別させていただきました」(松場さん)
安野光雅美術館
津和野出身の画家・安野光雅氏の作品を収蔵している美術館。展示室のほか、自宅アトリエの再現、プラネタリウム(2023年3月まで休止中)や絵本を閲覧できる図書室も併設しています。
「おこがましいですが、安野光雅さんの特集や記事を読むと、感覚的な共通点を感じました。安野さんの絵は、年齢を問わず『初めて見るのに懐かしい』とおっしゃる方が多いのだそうです。日本人のDNAに訴える何かがあるのかもしれませんね」(松場さん)
津和野カトリック教会
キリスト教が禁止されていた江戸時代後期、長崎浦上の潜伏キリシタンが発見されました。明治維新政府はキリシタンたちを西日本各地に配流。うち153名が流れ着いたという歴史がある津和野。津和野カトリック教会の現在の聖堂は、昭和6年築で国の登録有形文化財になっています。
「畳敷きの教会というのに興味があって、一度訪れてみたい場所です。西洋のゴシック建築ですが、不思議と古い町には溶け込むんですよね。お祈りするときも正座をしてするのかしら……? いろいろ気になります」(松場さん)
美松食堂
太皷谷稲成神社のふもとに佇む、昭和6年創業の津和野で最も古い食堂。2日間かけてじっくり煮込んだお揚げでつくる「黒いなり」が有名で、お昼過ぎには売り切れてしまう日も。単品ではもちろん、割り子そばや野菜の煮物とセットになった定食もいただけます。
「津和野に黒いおいなりさんというのがあると聞いて驚きました。食べることには貪欲なので、ぜひここは行ってみたいですね。じつは私の実家は揚げ豆腐の製造業なんです。いなり寿司が大好物の夫にも教えてあげなきゃいけませんね」(松場さん)
お得で楽しい情報で、萩・石見空港の旅をもっと楽しく
萩・石見空港では、10頭以上の柴犬がお出迎え
萩・石見空港では、柴犬が到着客を迎えるイベントを開催中です。萩・石見空港のある益田市は柴犬のルーツといわれる犬の故郷。毎月第1、第3土曜日の午前に、10~15頭の柴犬が到着客を迎えてくれます。他にも、萩・石見空港では、お得なキャンペーンも実施中なのでぜひチェックしてみて。
萩・石見空港利用で、お得なレンタカー割引キャンペーン開催中
2023年3月30日(木)までの期間限定で、東京(羽田)〜萩・石見空港便(往復)を2名以上の利用&島根県内の宿泊施設に1泊以上で、レンタカー(2日間)を2,000円で利用できます。また、日帰り温泉や石見神楽公演などがお得に楽しめる「萩・石見ぶらり手形」と、ご当地グルメを食べられる「神楽めしクーポン」もプレゼント。
「TRIP WEB MAGAZINE 萩・石見」も必見です
萩・石見空港を中心とするエリア(島根県西部~山口県北部)にフォーカスし、旅のディープな楽しみ方を提案するウェブマガジン。俳優や写真家など様々な分野で活躍する方々にエリアの魅力を聞いたインタビューのほか、グルメ記事なども随時更新予定です。
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松場登美(まつば・とみ)
1949年三重県生まれ。「石見銀山生活文化研究所」代表取締役。結婚を機に、夫の故郷である石見銀山で暮らし始める。1994年にアパレルブランド「群言堂」を立ち上げ、現在は武家屋敷を改修した宿泊施設「暮らす宿 他郷阿部家」も運営。2021年には石見銀山の町を再生・活性化させた功績で総務省主催「ふるさとづくり大賞」内閣総理大臣賞を受賞。『過疎再生 奇跡を起こすまちづくり: 人口400人の石見銀山に若者たちが移住する理由』(小学館)など著書多数。
<写真/山川修一(扶桑社) イラスト/しらいしののこ 取材・文/大野麻里>
提供/公益社団法人島根県観光連盟