• 子育ての悩みや日常生活のちょっとしたイライラ、みなさんどんな風に解決していますか。京町家に家族4人で暮らし、洋服づくりを手がける美濃羽まゆみさんは、仕事に家事に忙しい毎日も自分のペースでごきげんに楽しんでいるようです。個性豊かな子どもたちとの向き合い方や日々の小さな心がけ、気持ちの整え方……。美濃羽さんが日ごろから大切にしていることをお聞きして、“ごきげんに暮らすヒント=ごきげんスイッチ”を探っていきます。今回のお話は「子どもがつまずいたとき」について。思い通りの結果が出なかったとき、美濃羽さんはどう対応をしているのでしょう?

    子どもの挑戦、挫折。結果にこだわるより大切にしていること

    前回は、うまくいかないことや期待外れのことが起こり、子どもがイライラしたりかんしゃくを起こしたりしたときの対応についてお話しました。今回は子ども自身ががんばったことがうまくいかなかったり、挫折するようなことがあったとき、どんな対応をしているかについてお話しようと思います。

    「失敗」って誰が決めること?

    これまでの大きなつまずきといえば、娘の場合は受験、息子は学校に行くことそのものに挫折した経験があります。もちろんそのほかにも、習いごとや友人とのトラブル、スポーツなどの勝負ごとなど、そのなかで思うように結果が出なかったことや、目標に届かなかったということも度々ありました。

    でも私は、そこで励ましたりなだめたりは、あえてしてきませんでした。だって、結果が「成功した」のか「失敗だった」かは、そもそも彼ら自身が決めること。親にせよ先生にせよ、誰かに一方的に決められるものじゃない、と考えているからなんです。

    たとえ表向き「失敗」だったとしても、見る方向を変えれば意外とそうでもなかったり、結果としてその方が新たな可能性が見つかることだってある。

    だから、子ども自身が「ここはあかんかったけど、ここはうまくいった」とか、「思うようにいかなかったけど、得たものもあるな」と感じられたらそれで上々。たとえ結果は「失敗した」みたいに見えたとしても、その途中のあれこれや、そもそも彼らがその物ごとに取り組んだことの方にこそ、目を向けたいなって。

    そんな私が「成功か失敗か」にこだわることよりも大切にしているのが、とことん子ども自身の「やりたい! 」を応援すること。どんなに親から見てくらだないこと、世間的に無駄とされていることであったとしても、否定せずに見守っていく。わかりやすい「成功」に子どもを当てはめるよりも、そっちの方がずっと大事だと思っています。

    息子も自分も追いつめて

    ただ、これって言葉にすると簡単ですが、実際やってみるとなかなか難しいんですよね。だって、子どもたちが夢中になるのは、大人から見てほとんどが「無駄」で「役に立たない」ことばかり。大多数の親はわが子に「有益」で「役に立つ」ことをやらせたいと考えるものです。かくいう私も、かつてはそうでした。

    息子のまめぴーは今小学4年生ですが、2年前の夏に学校に行き渋るようになりました。そこで直面したのがゲーム問題です。学校に行かなくなり勉強もしなくなって、日がな一日ゲームばかりしている息子。このままだとゲームのやり過ぎでダメになってしまうんじゃないか。「ゲーム依存」という文字も頭をよぎり、不安でたまりませんでした。

    そこで、どうにかゲーム以外の楽しみを見つけてほしくて、時間制限をしたり、「ドリルをしてからね」みたいに交換条件をつけたり。けれど、それだと息子の顔はどんどん暗くなっていくばかりだったのです。

    なにかおかしいな、と感じて自分の心と対話してみたら、「ゲームは無駄なもの」という決めつけにも似た思いが見つかりました。そもそもゲームのことをよく知りもしないのに、勝手に決めつけていたことにハッとして。「無駄」か「役に立つのか」は彼自身が決めるもの。それは頭ではわかっていたはずなのに、です。

    しかも、「息子はゲームでダメになる」と思い込んでいた。それって息子のことをどこか下に見て、彼自身の持つ力を信頼できていないということ。そんな疑心暗鬼が、きっと息子にも知らず知らずのうちに伝わってしまっていたんだと思います。

    画像: ゲームアイテムを手に入れるために、あれこれ金策するまめぴー。こういうときはパワー全開!

    ゲームアイテムを手に入れるために、あれこれ金策するまめぴー。こういうときはパワー全開!

    その敵は、味方になるかも?!

    私の持論は「幽霊は正体がわからないから怖い」。それが柳の枝だと気づけばホッとできるように、漠然とした不安は根拠をはっきりさせると薄まる、というものです。

    そこで、「実際不登校でゲームをしている人にとって、ゲームってどんな存在なんだろう」とさまざまな体験談を見聞きして調べてみることにしました。

    すると「不安な中でゲームが心の支えになった」という人、「ゲームを通じてコミュニケーションが広がった」という人、「ゲームがきっかけで外に出られるようになった」などなど……。

    多くの不登校経験者の方が「ゲームがあってよかった」と語られていました。そして、そんな皆さんが共通しておっしゃっていたのが、「親(もしくは信頼できる大人)にゲーム好きを理解してもらっていた」という言葉だったのです。

    逆に「反対されていた」という人からは、隠れてゲームをしたり課金にはまったり、かえってゲームへの執着が深まった、という話を聞くことも。全ての人がそうなるわけではないと思いますが、ゲームを制限すればするほど暗い顔になっていく息子を見ていると、なんとなくそのねじれた気持ちが理解できました。

    だって、自分が好きだと感じているものを周囲に否定されるのは、きっと悲しいことですよね。さいわい、学校に行っていないから時間はたっぷりとある。じゃあいっそ、息子とゲームの世界を楽しんでみよう! と切り替えてみたんです。

    たとえば、いっしょにゲームをしたり、ゲームの解説動画を見たり。ゲームのキャラクターのぬいぐるみ作りをしたこともあったし、オンラインゲームを通じて仲良くなった友達に、電車を乗り継いで会いに行ったりもしたなあ。

    すると自然とゲームを通じて息子との会話も増え、私自身も新しい世界を知り、毎日楽しくてたまらなくなりました! 気づけば「ゲームばかりしていて大丈夫なんだろうか」という不安はどこかに吹き飛んでいったのです。

    かつてゲームが敵にしか思えなかったころは、彼が何を考えているか、どんなに目をこらしても見えなかった。けれど、横に並んでいっしょに手を動かし、心を動かしているうちに、彼がどんな気持ちでいるのかを少しずつ感じられるようになったのだと思います。

    結果、親子でごきげんでいられる時間がぐっと増えました。それに、不思議と息子の方もいつの間にかゲームをすることにさほどこだわらなくなって。「ユーチューブでゲームの魅力を伝えたい」と、全くできなかったパソコンのタイピングを覚えたり、動画編集ソフトを使いこなせるようになったり。

    外出についても、以前は私と手をつないで歩くこともやっとだったのが、友人を誘って町中を自転車で乗りまわすほどに! さらに、私や娘といっしょに日本舞踊のお稽古、料理、漢字の練習……。それまでできなかった、あるいはやろうともしなかったさまざまなことにも挑戦するように。学校に行けずめそめそと泣き晴らしていたころが嘘のように、明るく元気になっていったのです。

    画像: 念願の品をついにゲット! そこには、からだより大きな箱と最上級の笑顔があったのでした。

    念願の品をついにゲット! そこには、からだより大きな箱と最上級の笑顔があったのでした。

    「今」が未来をつくるから

    息子が学校に行かない選択をしたとき、先生に言われたのが「嫌なことも我慢して乗り越えることが、彼の未来の幸せにつながるんですよ」という言葉。でも、そもそも「幸せ」って一体どういう状態なんでしょうか。

    たとえば、学歴が高ければ幸せ、お金持ちなら幸せ、というような一般論がありますよね。でももし、世界一高学歴で世界一のお金持ちがいたとして、その人が世界一幸せかというと、そうとも限らないんじゃないかなあ。むしろ、いつその座を奪われるかという不安の方が勝るかもしれません。

    それに、そういう「社会的成功」といわれるような世間一般での「わかりやすい幸せ」って「相対評価」ですよね。他人と比べることで「幸せ」を決めているだけのこと。そして皮肉なことに、自分より成功している人、幸せそうに見える人はたくさんいるから、幸せを目指せば目指すほど「幸せになっていない自分」が目についてしまう。結局、いつまでたっても幸せなんて感じられないんじゃないでしょうか。

    だったら、社会的に成功しているかどうか、他人と比べてどうか、なんて関係ない。私なら「今このときに幸せを感じること」「どうしたら、今、自分自身が幸せを感じられるかを見つけること」を大事にしたい。だって「未来」の幸せを、今感じることは絶対できないし、「過去」の幸せだって過ぎ去ればただの思い出にすぎません。幸せは「今」感じるものだからです。

    学校に行くか行かないかだって、誰かが勝手に決めた価値観。行かないことを挫折だと言う人もなかにはいますが、「不登校という状態ですら、いっそ楽しんでしまおう! 」そんな気持ちで過ごす息子との時間は「幸せ」そのものです。

    物ごとの結果じゃなく、その途中を楽しめるようになること。親子で今、笑顔でいられることこそが、幸せのかたちを作る第一歩なんだと強く思います。

    〈今回のスイッチポイント〉

    「つまずいた」と考えるのは勝手な思い込みかも?!

    結果ではなく経過を楽しめたら、いつだって幸せを感じられる!


    ――― さて、次回のテーマは「子どもへのアドバイス」。子どもが何かの選択で迷っているときや、そっと背中を押してあげたいとき、美濃羽さんがどんな対応をしているのかをお話いただきます。お楽しみに!




    〈写真・イラスト・文/美濃羽まゆみ 構成/山形恭子〉

    画像: 「今」が未来をつくるから

    美濃羽まゆみ(みのわ・まゆみ)
    服飾作家・手づくり暮らし研究家。京町家で夫、長女ゴン(2007年生まれ)、長男まめぴー(2013年生まれ)、猫2匹と暮らす。細身で肌が敏感な長女に合う服が見つからず、子ども服をつくりはじめたことが服飾作家としてのスタートに。

    現在は洋服制作のほか、メディアへの出演、洋裁学校の講師、ブログやYou Tubeでの発信、子どもたちの居場所「くらら庵」の運営参加など、多方面で活躍。著書に『「めんどう」を楽しむ衣食住のレシピノート』(主婦と生活社)amazonで見る 、『FU-KO basics. 感じのいい、大人服』(日本ヴォーグ社)amazonで見る など。

    ブログ:https://fukohm.exblog.jp/
    インスタグラム:@minowa_mayumi



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