• アーティストやデザイナーに刺激を与えている、しょうぶ学園のものづくり。鹿児島に行ったらいつか訪ねてみたい、そう思っている人はきっとたくさん。天然生活6月号特集「むだがなくなる暮らしの見直し」にて取材させていただいた、DWELL川畑健一郎さん、夕さんからも「ぜひ訪ねてみてください」とすすめていただいて、夕さんと共に訪れました。案内してくださったのは、しょうぶ学園副統括施設長、福森順子さん。いざ、ものづくりの現場へ。

    しょうぶ学園のものづくり

    1973年、「しょうぶ学園」は知的障害者支援施設としてはじまりました。鹿児島の中心地から車で20分ほど、レストランやショップ、ギャラリーがある、開かれた場です。地域の人から遠方からの旅行者まで、広く親しまれています。ものづくりの工房は、4つ。布の工房、木の工房、土の工房、和紙・絵画造形の工房があります。工房の見学は、申し込み制。

    建物のデザインもとてもユニークで、ぐるりと巡るのが楽しい。中庭にはロバやヤギがいます。案内してくださったのは、副統括施設長の福森順子さん。創業者である両親から施設を引き継いだ、夫である統括施設長、福森伸さんとともに、ここだけのものづくりをスタートさせました。

    画像: 中庭を散歩するロバ。ヤギなどの動物も、のんびり草を食んでいる風景に心いやされる

    中庭を散歩するロバ。ヤギなどの動物も、のんびり草を食んでいる風景に心いやされる

    「もともと、ものづくりはしていましたが、いまのような工房ではなく、下請けの仕事をしていたんです。大島紬の織りや生垣づくりとか、地元産業などの下請けですね。でも、それだけでは、状況をより良くするのはむずかしい。

    だったら、自分たちで一からものづくりをすればいいんじゃないか。かわいそうだから買う、というのではなくて、ここのだから買う。買いたいと思ってもらえる、いいものをつくりたい。

    そう決心して、1985年アート&クラフトに舵を切りました。工房では、職員と施設利用者のコラボレーションで、ここだけの、ものづくりをしています。はじめは木工室だけ、利用者2名からの船出でした」

    順子さんに案内していただいて、工房をひとつひとつ巡りました。

    画像: 布の工房があるのは、土の塗り壁と草屋根の、通称もぐらハウス

    布の工房があるのは、土の塗り壁と草屋根の、通称もぐらハウス

    工房① 刺しゅうの作品が印象的な、布の工房

    布の工房では、刺しゅうと、裂織を中心にオリジナルの作品をつくっています。おじゃましたのは午後、木のテーブルでみなさん、もくもくと作業中。長い人では10年、20年とつづけているそうです。

    「nui project」として、才能を発掘し、独特の世界を作り出しているのが、刺しゅう。ひとりひとりが、自分のスタイルで手を動かしています。「大きな布に太い糸で刺しゅうする人、形を描いてそこを埋めていく人、布の好みもいろいろです」と、布の工房を担当する、職員さん。

    「はじめは少しやり方を手ほどきしますが、好きなやり方が見えたら、その人に合うやり方でつづけてもらいます。

    画像: 自由にステッチしていくなかに、それぞれの作家性が生まれる

    自由にステッチしていくなかに、それぞれの作家性が生まれる

    カラフルな糸や生地を用意してあるので、それぞれやるところがなくなったら、次に使うものを選びます。生地の裏表も関係なし。次は「これ」、これは「いや」って。好みは、ちょっとずつ変わっていきますね。
    1日に5枚やる人もあれば、1枚に何カ月もかかる人もいて、ペースもそれぞれ。出来上がったものは、バッグやポーチなどといったクラフト作品にすることもあれば、「これはもうこの人にしかつくれない」というものは、作品として展覧会などに出品します」

    画像: nui projectのシャツ。自由なステッチに見入ってしまう

    nui projectのシャツ。自由なステッチに見入ってしまう

    いろんな色の糸でみっしりと刺しゅうされた、nui projectのシャツは、「シャツに刺しゅうしてみない?」と声をかけ、やってみたい気持ちになった人と、コラボで出来上がった作品。しょうぶ学園の展覧会などで、機会あればぜひ間近で見てほしい、エネルギーにあふれています。

    工房② お皿やオブジェが生まれる、土の工房

    土の工房は1990年にはじまりました。

    小さなボタン、コップやお皿といった食器から、オブジェまで、さまざまな陶芸品をつくっています。

    画像: 少しずつ味わいが違う、小さなボタン

    少しずつ味わいが違う、小さなボタン

    画像: 作業は、ひとりひとりに合わせて

    作業は、ひとりひとりに合わせて

    「きちっとできる人は、型を使ったり、絵付けをしたり。きちっとつくれない人は、自由にやってもらって、オブジェなど、アート作品にします。つくり方はそれそれですが、生み出すものは総じて、プリミティブなものになりますね」

    白い絵皿は、京都のエースホテルで、ソープディッシュとして採用されて、おみやげとしても人気です。ふっと肩の力が抜ける、カッコつけない、たたずまい。ほしくなる気持ちがよくわかります。

    画像: 京都のエースホテルでソープディッシュとして使われる絵皿。絵付けがたまらなくかわいい

    京都のエースホテルでソープディッシュとして使われる絵皿。絵付けがたまらなくかわいい

    工房③ 手すきの和紙と、絵画造形の工房

    和紙づくりは1993年からはじまりました。楮(こうぞ)や雁皮(がんぴ)などを原料にして紙を漉き、その紙を使って、便箋やハガキといったステーショナリ、タペストリーなど、さまざまなものをつくり出しています。

    画像: 和紙はさまざまな大きさに加工され、セレクショショップなどで販売される

    和紙はさまざまな大きさに加工され、セレクショショップなどで販売される

    画像: 和紙に模様が描かれたものも

    和紙に模様が描かれたものも

    和紙職人さながら、紙漉きは段取りよく、手慣れた手つきで。出来上がった和紙は、一枚一枚に味わいがあります。

    画像: 真剣な顔つきの利用者の方

    真剣な顔つきの利用者の方

    画像: 自由にペイントされ、パワーにあふれる絵画造形工房

    自由にペイントされ、パワーにあふれる絵画造形工房

    和紙工房の隣にあるのが、絵画造形工房。ここは、床から壁、天井まで、ぐるりと自由にペイントされていて、つくり手のパワーが伝わってきます。ここで漉いた和紙はもとより、それぞれが自分に合う素材で、絵を描いたり、立体作品をつくったり。手描きのTシャツやバッグといったクラフト作品にも生かされます。

    工房④ カトラリーや家具、漆まで手がける、木の工房

    1988年に設立した木の工房では、専門スタッフのサポートによって、家具からカトラリー、ボタン、ブローチなどを手づくりしています。

    画像: ひとつずつ削り仕上げられるカトラリーは使いやすいと評判

    ひとつずつ削り仕上げられるカトラリーは使いやすいと評判

    「ボタンやブローチづくりに便利なのが、回転やすり機。木の箱に木端を入れて、くるくる回すと、中のペーパーサンドで磨かれる仕組み。トライアルで、簡単な作業からやってみて、その人に合っていれば、ステップアップして、できることを広げていきます」

    2006年、居住棟を建て直した時には、建築業者の下請けとして、利用者のベッドを木の工房でつくったそうです。さらに、文化を受け継ぎたい思いから、ここで漆器づくりも。

    いいものをつくりたい。すべての工房に、その思いが根ざしています。

    画像: 工房内には漆の作業所も。日本伝統の技術を引き継ぐために、できることを少しずつ

    工房内には漆の作業所も。日本伝統の技術を引き継ぐために、できることを少しずつ

    後編では、しょうぶ学園にあるショップと、2019年に誕生したアムアの森について、お届けします。

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    しょうぶ学園

    ショップ&ギャラリーの営業日については、HPにて。しょうぶ学園、アムアの森の見学については、申し込みが必要です。ご希望の方は、お問い合わせください。

    鹿児島県鹿児島市吉野町5066 ☎︎099-243-6639

    〈取材・文/宮下亜紀 撮影/白木世志一〉



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