• 子ども時代に夢中になって読んだ本はありますか? 児童文学作家の角野栄子さんは、子どもが本を好きになるためには、他の人に読んでもらうのではなく、子ども自らの力で本を最後まで読むことが大切といいます。子どもが本から自由な発想を得て、想像力豊かに成長するために、大人ができることをご紹介します。
    (『生きるみちしるべ』より)

    本は自分の力で終りまで読むことが大事。

    それには大人がちょっとした仕掛けを作ることも必要かもしれません。

    言葉が失われつつある時代に

    『魔女の宅急便』や『アッチ・コッチ・ソッチの小さなおばけ』シリーズなど、多くの童話を世に生み出してきた、児童文学作家の角野栄子さん。

    50年近く本を書いてきて、子どもからもらう手紙の量がぐっと少なくなり、言葉とともに創造(クリエイト)する力も失われてきているような気がするといいます。

    スマートフォンやコンピューターを使って色々な情報を得ることができるようになった現代において、子どもが本を読み、想像力をふくらませて自由に考えることができるようになるためのヒントをご紹介します。

    子どもはいちばん正直な読者

    画像: 子どもはいちばん正直な読者

    私は5、6歳の子どもにとって、一人で読める童話、いわゆる幼年童話との出会いがものすごく大事だと思っているんです。今の子どもたちは幸いにも読み聞かせてもらう機会には恵まれています。それで、本を〝読んだ〞と思っちゃうのね。だけどそれは〝聞き書〞であって〝読書〞ではない。親や図書館の人たちが読んでくれるのを聞くだけでなく、自分で読むようにならないと、本当の本好きにはならないような気がします。

    今、図書館ではかなりの冊数を貸してくれるでしょう? だから子どもはちょっと読んでみておもしろくないと思ったら、すぐに次の本に移ってしまう。そうしていると、読了しないことにストレスを感じている子どもはけっこう多いようです。本は自分の力で終りまで読むことが大事なんです。一冊読み切ったという満足感が残ります。

    それには大人がちょっとした仕掛けを作ることも必要かもしれませんね。たとえば、最初だけ読み聞かせて、おもしろいところにさしかかった時、「残りは自分で読んでごらん」と勧めてみる。または、大人が夢中になって本を読んでいるところを見たら「何を読んでるの?」と子どもは聞いてくるでしょう? そこで「すごくおもしろいんだけど、あなたには見せられないわ」って言えば、気になって手に取るかもしれません。

    幼年童話を選ぶコツは、選ぶ人が自分でおもしろいと感じたものを選ぶこと。役に立つかどうかで選ぶと、子どもは読むのが嫌になってしまいます。それから、できれば本屋さんで買ってあげること。自分のものにして「私の本」と感じることが大切だと思うわね。

    私は、本当に伝えたいと思うことは直接的な言葉で言ったり書いたりしないことにしているんです。そうしたら、それに引きずられて自由に読めないのでは。私の本は自由に読んでほしいから、テーマは物語の中に深く隠しています。

    子どもはいちばん正直な読者だから、ちょっとでもお説教じみたことを書けば、「この本は自分に何か要求しているな」とすぐにわかる。読書が窮屈なものになってしまう。戦争のことを書いた『トンネルの森』でも、戦争がいかに悪いかとか、平和の大切さについてはいっさい書かずに、10歳の女の子が見た戦争だけを書いた。そこから一人ひとりが感じ取って貰えればと思います。

    それを読んでどう思うかは、自由。そうじゃないと、自分の考えをきちんと持てる人間にはならないと思う。教えられたとおり、みんなと同じように考えたのではつまらないでしょう?

    ※ 本記事は『生きるみちしるべ』(文化出版局)からの抜粋です

    〈写真/広川泰士 取材・文/辻 さゆり〉


    角野栄子(かどの・えいこ)

    1935年、東京都生れ。早稲田大学教育学部英語英文学科卒業後、出版社勤務。結婚後、59年からブラジルに2年滞在し、その経験をもとに書いた『ルイジンニョ少年 ブラジルをたずねて』でデビュー。85年から刊行された『魔女の宅急便』は、アニメ化、ミュージカル化、映画化された。2018年に「児童文学のノーベル賞」といわれる国際アンデルセン賞作家賞を受賞。

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    『生きるみちしるべ』(文化出版局)

    『生きるみちしるべ』(文化出版局・刊)

    画像: 「言葉が失われつつある時代に」生きるみちしるべ/角野栄子さん

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    各界の著名人27名が自身の戦争体験、人生観、死生観などを語った宝物のような言葉の数々。瀬戸内寂聴さん、ワダエミさんなど今ではもうお話が伺えない方々も。雑誌『ミセス』で2019年から2021年までの連載を1冊に。



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