(『避難所に行かない防災の教科書』より。『天然生活web』初出2020年9月6日)
弱者のいる家庭こそ「逃げない防災」が適しています
乳幼児や高齢者のいる家庭は、災害時はなおさら大変です。
房総半島に暮らす、まわりのお子さんのいるお母さんたちに、2019年の台風15号と19号の被災時の経験を聞いたところ、皆さんが口をそろえていうのは「避難所には行きたくなかった」ということ。
避難所は、
① 授乳やおむつ替えなどができるスペースがない。
② 子供が騒いだり泣いたり歩き回ったりするので気を使う。
③ トイレや食べ物が子供仕様になっていない……
などが気になるようでした。
これは、高齢者、とくに足腰が不自由な方や持病のある方がご家族にいる場合も同様です。慣れない場所での寝起きや落ち着かない環境、いつもと違った食事、そして暑さや寒さ。こうしたストレスで、体調を崩してしまう人も多いと聞きます。
そういった弱者のいる家庭こそ、自宅の安全を確保したうえでの「逃げない防災」が適しています。
そのためにも、通常の備蓄品に加え、下表のようなアイテムをローリングストックで備蓄しておきましょう。とくに乳幼児用品は、月齢単位で使用できるサイズや必要なものがどんどん変わっていくので、短いサイクルのローリングストックを心掛けましょう。
小さな子供、高齢者に用意したい備蓄品
乳幼児・子供
● 粉ミルク、使い捨てほ乳瓶、液体ミルク
● ベビーフード(瓶・レトルト)、使い捨てスプーン
● 使い捨てエプロン、スタイ(よだれかけ)
● 安心できるもの(ぬいぐるみ・おもちゃなど)
● 紙おむつ、お尻拭き、処理袋
● 汗拭き、あせもローション、ウェットティッシュ
● お菓子類、子供用ジュース、子供用イオン飲料
● 使い捨てカイロ(液体ミルク、フードの温めも可能)
● 冷却ジェルシート、小児用薬(解熱薬、かゆみ止めなど)
2016年の熊本地震をきっかけに、近年、液体ミルクが発売されました。常温保存でき調乳不要、備蓄に最適です。
高齢者
● 介護レトルト食、栄養補給ゼリー飲料など
● 常備薬
● 大人用おむつ、お尻拭き、ウェットタオル
● 老眼鏡、補聴器(電池も忘れずに)、入れ歯洗浄剤
● 嗜好品(甘いものなど、普段から好きなもの)
被災後も普段と変わらぬ生活を続けるために
被災時もなるべく普段の生活ペースを崩さないように過ごすことも大切です。子供はエアコンや扇風機などを動かして涼しい場所で昼寝をさせたり、お風呂が無理でも、昼間のうちにぬるま湯で行水させるなど、清潔を保つ工夫をします。
お年寄りは、断水やトイレの不便さから水分の摂取を控えてしまい、熱中症や便秘、重大な疾患(脳梗塞など)になる人も多いので、こまめに水分を摂らせ、食事のバランスにも気をつけましょう。
ただし、透析や定期的な受診が必要な人、常備薬が残りわずかな人などは、無理に自宅避難せず支援を受けることも大切です。
そして周囲の高齢者だけの世帯には、ぜひ声をかけましょう。スマートフォンやパソコンの扱いに不慣れな高齢者のもとには支援の情報が入りにくく、また、自動車を持たない、足が悪いなどの理由で救援物資を取りに行けずに取り残されてしまう人も多いのです。「共助」の心掛けを大切に。
備蓄は1週間分が目安
近年の災害の増加で救援物資のノウハウが確立されてきているので、乳幼児・高齢者用品も物資が届き始めれば、たいてい手に入ります。それまでの分(3日〜1週間分)を少し余分に備蓄しておきましょう。
子供の預け先を調べておきましょう
被災時でも仕事に行かなければならない人も多いはず。保育園は災害後でも比較的早く再開するところが多いようです。
しかし、停電や断水が続くと給食なしだったり、受け入れ人数や時間が制限される場合もあります。普段、子供がお世話になっている保育園とは随時連絡を取って状況を確認しておきましょう。
また、普段と違う生活が続くと、子供は体調を崩しがち。仕事が休めない場合に備え、病児保育についても普段から複数の受け入れ先を調べておくと慌てません。
<写真・文/西野弘章>
西野弘章(にしの ひろあき)
1963年、千葉県生まれ。「自分で作れるものは何でも作る」がモットーのエディター兼ライター。新聞社、出版社などに勤務したのち、フリー編集者として独立し、「自給自足生活」を目指して千葉県・房総半島へ家族とともに移住。耐震&耐風仕様の自宅を含めて、これまでに大小10棟の建物をセルフビルドしてきた。その房総半島で2019年9月、観測史上最大級の超大型台風に遭遇。自宅は無事だったものの、地域の復興がなかなか進まない現実を目の当たりにしたことで、「災害から家族を守ってくれる家」「逃げなくてもいい家」の重要性を痛感する。そんな経験をまとめた著書に『避難所に行かない防災の教科書』がある。
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