• エッセイストで空間デザイン・ディレクターの広瀬裕子さん。60歳を前に、歳を重ねるなかで出てくるさまざまな課題や考えなくてはいけないこと。たとえば住まいのこと、仕事のこと、⾝体のこと。ひとつひとつにしっかり向き合い、「心地いい」と感じる方へ舵を取る広瀬さんの毎日。そこから、60歳までにこうなりたい、という目標と取り組みを同世代や下の世代の方とシェアしていけたらと思っています。ある日、カラーリングをやめようと決めた広瀬さん。服選びにも大きな変化が現れました。

    57歳になった春──。カラーリングをしていた

    髪を「⽩い髪にしよう」と決めました。40代になった頃から、少しずつ⽩い髪がではじめ2か⽉に1度の間隔でヘナをしていました。55歳前後からは1か⽉もしないうちに⽩い部分が気になるようになり、カラーの間隔が短くなっていきました。

    ご存知のようにヘナは通常のカラーリングより時間がかかります。それもあり56歳になった時、ヘナを⽌めることにしたのです(そのお話しはまた別の機会に)。それからの1年、57歳になるまで、ヘアサロンでカラーをしたり、部分的にブリーチを試みたり、髪をばっさり切ったり。でも、どれもしっくりきませんでした。そんな1年を経たのち「⽩い髪にしよう」と決めたのです。

    その時、もうひとつ決めたことがあります。それは髪の⾊が落ち着くまで「服を買わない」ということでした。理由は明快です。髪の⾊が変わったら似合う服が変わるかもしれないからです。

    白い髪になるまで服を買わないと決めたら気持ちがラクに

    いままで⿊い髪に合わせ服を選んでいました。⽩い髪になっていくことで⼿持ちの服も、あたらしい服も、違和感を抱く可能性があります。まして⾊が変化する途中の⿊⽩の髪では、何を着てもしっくりこないかもしれません。徐々に増えていく⽩い髪により気持ちも変化するでしょう。髪の⾊が落ち着くまでは、1年半から2年かかります(⻑いですね)。その間「服を買う→違和感→⼿放す」は、したくありませんでした。

    「買わない」と決めてしまったからか、意外と気持ちはラクでした。最初は物欲──服欲というのでしょうか──がむくむくと湧き上がってくるのではないかと⼼配したのですが「すてき」と思う服があっても「いやいや。いまは⽌めておく期間だから」と気持ちをさっと切り替えられることができました。服欲が消えたというより、髪の⾊が変化することのほうがわたしにとっては⼤きく、考える優先順位が「服より髪」になったからかもしれません。しれません、というのは、いまはまだ現在進⾏中のことなので、しばらくしてみないと本当の気持ちはわからないのです。

    画像: 髪色も1色と考えるとワントーンでまとめることが増えました。白い服は髪色移行期の味方色です

    髪色も1色と考えるとワントーンでまとめることが増えました。白い服は髪色移行期の味方色です

    ユニフォームのように心地いい私のコーデ

    服を買わないと決めると、⽇々、変わり映えしない服装になっていきます。元々、その傾向はあったのですが、ますますそうなります。前回も書きましたが、ユニフォームのよう。当初は「いつも同じ服を着ている」「いつも同じようなスタイルをしている」ということに対し「わたし自身」ではなく「⾃分以外の⼈」がどう思うのだろう? と気になりました。けれど、そんな思いは早々に消えました。「いつも同じスタイルをしている」が、思った以上に⼼地よかったのです。

    画像: 変化する髪色と最も馴染みやすい色がグレーです。服を買うようになったらグレーが増えそう

    変化する髪色と最も馴染みやすい色がグレーです。服を買うようになったらグレーが増えそう

    画像: 普段はくるっとねじりゴムで結ぶだけのまとめ髪です。オフィシャルな場面ではヘアピンとワックスできちんと感をだすように

    普段はくるっとねじりゴムで結ぶだけのまとめ髪です。オフィシャルな場面ではヘアピンとワックスできちんと感をだすように

    世界の「すてき」をSNSを通し⾒られるようになったこともあります。⾃分がいいと思う装いをしている⼈たちが、思っている以上にいることがわかりました。オールブラック、オールブラックに⽩いスニーカー。⽩いシャツにグレーのパンツ。⽩いワンピースと白い靴。そういうコーディネートばかりの⼈を⾒ても違和感はありません。むしろ「スタイルがあっていい」と思うくらい。不思議ですね。ユニフォームのように「いつも同じスタイル」は、⼼持ちひとつで、いいように捉えられるのです。

    ⼿持ちの服を組み合わせて様々なコーディネートができる。それがいいと思ってきた世代です。多ければ多いなりに、少なければ少ない服の中で。それを何年も何⼗年もくり返し、服に時間も労⼒も割いてきました。

    あたらしい服を⼿にする時の⾼揚感、ときめき。それもすきです。でも、1度⽴ち⽌まってみてもいいのかもしれません。これから先、60歳以降もそうしていきたいのか──と。

    わたしの髪の⾊が落ち着くのは、59歳になる頃でしょうか。あと半年。それまで「服を買わない」をつづけてみます。

    画像: 白×グレーのスカーフは変化する髪色をカバーしてくる上、うねりがちな前髪も収めてくれるのでお勧め

    白×グレーのスカーフは変化する髪色をカバーしてくる上、うねりがちな前髪も収めてくれるのでお勧め

    60歳までのメモ

    1 「服を買わない」を試してみる

    2 他⼈⽬線ではなく⾃分⽬線で何が着たいかを⾒直す

    3 Instagramなどを通し⾃分の「すき」や「すてき」を集めてみる

    4 気持ちと体型の変化を観察してみる

    5 買いたいものがある時は買う


    画像: 60歳までのメモ

    広瀬裕子(ひろせ・ゆうこ)

    エッセイスト、設計事務所岡昇平共同代表、other: 代表、空間デザイン・ディレクター。東京、葉山、鎌倉、香川を経て、現在は東京在住。現在は設計事務所の共同代表としてホテルや店舗、レストランなどの空間設計のディレクションにも携わる。主な著書に『50歳からはじまる、新しい暮らし』『55歳、大人のまんなか』(PHP研究所)他多数。インスタグラム:@yukohirose19



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