57歳になった春──。カラーリングをしていた
髪を「⽩い髪にしよう」と決めました。40代になった頃から、少しずつ⽩い髪がではじめ2か⽉に1度の間隔でヘナをしていました。55歳前後からは1か⽉もしないうちに⽩い部分が気になるようになり、カラーの間隔が短くなっていきました。
ご存知のようにヘナは通常のカラーリングより時間がかかります。それもあり56歳になった時、ヘナを⽌めることにしたのです(そのお話しはまた別の機会に)。それからの1年、57歳になるまで、ヘアサロンでカラーをしたり、部分的にブリーチを試みたり、髪をばっさり切ったり。でも、どれもしっくりきませんでした。そんな1年を経たのち「⽩い髪にしよう」と決めたのです。
その時、もうひとつ決めたことがあります。それは髪の⾊が落ち着くまで「服を買わない」ということでした。理由は明快です。髪の⾊が変わったら似合う服が変わるかもしれないからです。
白い髪になるまで服を買わないと決めたら気持ちがラクに
いままで⿊い髪に合わせ服を選んでいました。⽩い髪になっていくことで⼿持ちの服も、あたらしい服も、違和感を抱く可能性があります。まして⾊が変化する途中の⿊⽩の髪では、何を着てもしっくりこないかもしれません。徐々に増えていく⽩い髪により気持ちも変化するでしょう。髪の⾊が落ち着くまでは、1年半から2年かかります(⻑いですね)。その間「服を買う→違和感→⼿放す」は、したくありませんでした。
「買わない」と決めてしまったからか、意外と気持ちはラクでした。最初は物欲──服欲というのでしょうか──がむくむくと湧き上がってくるのではないかと⼼配したのですが「すてき」と思う服があっても「いやいや。いまは⽌めておく期間だから」と気持ちをさっと切り替えられることができました。服欲が消えたというより、髪の⾊が変化することのほうがわたしにとっては⼤きく、考える優先順位が「服より髪」になったからかもしれません。しれません、というのは、いまはまだ現在進⾏中のことなので、しばらくしてみないと本当の気持ちはわからないのです。
ユニフォームのように心地いい私のコーデ
服を買わないと決めると、⽇々、変わり映えしない服装になっていきます。元々、その傾向はあったのですが、ますますそうなります。前回も書きましたが、ユニフォームのよう。当初は「いつも同じ服を着ている」「いつも同じようなスタイルをしている」ということに対し「わたし自身」ではなく「⾃分以外の⼈」がどう思うのだろう? と気になりました。けれど、そんな思いは早々に消えました。「いつも同じスタイルをしている」が、思った以上に⼼地よかったのです。
世界の「すてき」をSNSを通し⾒られるようになったこともあります。⾃分がいいと思う装いをしている⼈たちが、思っている以上にいることがわかりました。オールブラック、オールブラックに⽩いスニーカー。⽩いシャツにグレーのパンツ。⽩いワンピースと白い靴。そういうコーディネートばかりの⼈を⾒ても違和感はありません。むしろ「スタイルがあっていい」と思うくらい。不思議ですね。ユニフォームのように「いつも同じスタイル」は、⼼持ちひとつで、いいように捉えられるのです。
⼿持ちの服を組み合わせて様々なコーディネートができる。それがいいと思ってきた世代です。多ければ多いなりに、少なければ少ない服の中で。それを何年も何⼗年もくり返し、服に時間も労⼒も割いてきました。
あたらしい服を⼿にする時の⾼揚感、ときめき。それもすきです。でも、1度⽴ち⽌まってみてもいいのかもしれません。これから先、60歳以降もそうしていきたいのか──と。
わたしの髪の⾊が落ち着くのは、59歳になる頃でしょうか。あと半年。それまで「服を買わない」をつづけてみます。
60歳までのメモ
1 「服を買わない」を試してみる
2 他⼈⽬線ではなく⾃分⽬線で何が着たいかを⾒直す
3 Instagramなどを通し⾃分の「すき」や「すてき」を集めてみる
4 気持ちと体型の変化を観察してみる
5 買いたいものがある時は買う
広瀬裕子(ひろせ・ゆうこ)
エッセイスト、設計事務所岡昇平共同代表、other: 代表、空間デザイン・ディレクター。東京、葉山、鎌倉、香川を経て、現在は東京在住。現在は設計事務所の共同代表としてホテルや店舗、レストランなどの空間設計のディレクションにも携わる。主な著書に『50歳からはじまる、新しい暮らし』『55歳、大人のまんなか』(PHP研究所)他多数。インスタグラム:@yukohirose19