(※ 川地あや香さん「ホームページ日記」「Voicy」より)
息子が手づくりする、お母さんの誕生日ケーキ
「お母さんの誕生日に、ぼくひとりでケーキをつくってあげたい」。そんな7歳になる小学生の息子からのひとことから始まった、息子の「誕生日ケーキ」一大プロジェクト。今回は、そこにたどり着くまでの楽しい苦労と、忘れることのできない嬉しい1日を紹介します。
誕生日ケーキづくりが、いよいよスタート!
私の誕生日は月曜日。息子のやる気に満ちた提案を受け、その前日の土日をつかって行われる「ひとりでできるもん」プロジェクトの事前準備に、早速、私も取り掛かりました。
まず用意したのが、それぞれのお菓子のレシピシートです。これまで一緒にお菓子づくりを楽しむときには、手書きのものを渡していましたが、流れるような私の字は小学一年生の息子にとっては読みづらいようで……。
「お母さん、これ全然わからないんだけど」とストレートな相談を受け、改めてつくり直すことにしました。
まずは、子どものためのレシピシートを
やっぱり、小学1年生にとってはゴシック体と明朝体が最強のようです。小学校の先生もみなさん字がきれいで、読みやすいですよね。でも私の字は、急にはきれいにならないので(笑)、パソコンに向かってタイプして、A4サイズの紙にレシピをプリントしました。
ちょうど小学校からの宿題でもらってくるA4サイズの用紙になるように。
レシピで気をつけたのは、子どもが準備するにあたって、材料はできる限りシンプルに。削れる材料は削り、軽く実験もしながらレシピを整えました。
たとえば、クッキー。
薄力粉、油、砂糖、塩。これに水も入れて、全部で5つだけのレシピを考えました。バターを使ったリッチな味とは違いますが、台所の戸棚にあるような材料だけでも、素朴な味のおいしいビスケットはできあがります。レシピはホームページに掲載しています。
「ひとりでできた」を感じてもらう
今回、レシピシートをつくるというひと手間はかかりましたが、ふだんの息子の様子を見ていると、私が近くにいて「はい、次はこれを何グラム入れて」「次はこれをして」と指示されるたびに「ひとりでできた感」はどんどん薄れていくようです。
どうやら、あえて、紙に置き換えたことが功を奏した様子。結果的に、このプリント越しで指示しているのは私なんですが、彼にとっては、プリントを読むという行為によって、「次はこうなんだな」と思考しながら手を動かし、集中を妨げられないことで、ひとりでつくった感をより強く感じることができたのだと思います。
誕生日ケーキは大成功! 川地家の幸せなカタチ
誕生日当日。息子が準備してくれた爆弾?! のようなデラックスケーキができあがりました。
切りにくい形もご愛嬌です。味もまあまあ美味しかったです。
息子は本当に満足気で、「ぼく、自分で全部つくって、おいしくって、お母さんも喜んでくれて、しあわせですぅー」って、誕生日会の最中に、本当に何回もいうんです。「しあわせですぅー」って。子どもらしくない、おばちゃんみたいな言い方で(笑)。
それって、私がときどき「きみと過ごせて幸せだったよ」という言葉で伝えているからかもしれません。というのも、充実した時間のなかには、「楽しかったよ」だけじゃないこともある。ちょっとした大変なことも。でも、それもひっくるめての「幸せ」だと思っています。
「幸せ」っていう気持ちは、楽しいっていう刹那的な今だけの感情ではなくて、湯たんぽのようにじんわりあたたかく浸透してくる気持ちに近い気がして、昨日も、今日も、明日もという、一定期間の状態のことを表現する方が、私にはしっくりとくる気がするのです。
息子が私のためのケーキをつくれるように「私」が膳立てをするという不思議な休日を過ごした思い出の誕生日。とっても幸せそうな息子の顔を見ることができたことが、私にとっての何よりの素敵な贈り物になりました。
<撮影/川地あや香>
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川地あや香(かわち・あやか)
金工作家、兼お菓子作家。東京芸術大学工芸家にて金工を学んだ後、飲食店勤務を経て2012年に山形県に移住。スプーンや製菓器具など食まわりのものを制作しながら、お菓子用のアトリエも構え「カワチ製菓」としての活動も始める。シンプルで温かみのある金工作品と、滋味深い素朴なお菓子が人気を集める。食や作品制作を中心にした小さな暮らしの記録を、ウェブサイトで日々発信している。著書に『おやつとスプーン』(パイ インターナショナル)。Voicyも人気。
HP:https://www.kawachiayaka.com/
インスタグラム:https://www.instagram.com/kawachingkawachi/
音声配信 Voicy:https://voicy.jp/channel/2829
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