体調不良でも、子猫たちはお構いなし
九月の末、私は体調を崩し、数日、リビングのマットレスで横たわっていました。
めまいがし、吐き気と頭痛。意識も混濁として知らず知らず涙が流れるほど苦しかったのですが……。
そんな中、新しく来た子猫たちは、私の体調も知らず、寝ている私の上をドタバタと駆け回ります。
睡魔が来て、眠りに誘われようとすると、お腹の上をドン!
吐きそうになって起き上がろうとすると、小脇にちょこん。
もうー! と困った声をあげるのですが、私の顔は思わずほころびます。
今は苦しい。
死ぬほど苦しい。
でも、元気になれば、この子たちと遊べる。
この子たちがしあわせに暮らしていけるよう、また仕事ができる。
もともと、精神疾患で生きることに前向きになれない私ですが、猫がいて、その子たちが楽しい猫生を送ってくれるようにと思うと、自然と顔をあげたくなります。
自分がどれだけつらくても、猫につらい思いをさせないですむように、と起き上がることも、ごはんをしっかり食べることも、働くことも、何もかもが「やりたいこと」に変わるのです。
猫を飼う責任は、飼い主も死ねないという責任
三匹の子猫と母猫を保護したとき、私も夫も不安でした。
経済的な不安。他の猫との相性。そして私の精神面のストレス。
だけど蓋を開けてみれば、お金なんて倍働けばなんとかなるし、他の猫も穏やかに受け入れてくれたし、何より、私自身が、猫が増えたことで、生きる希望がますますパワーアップしたのです。
そのことをSNSなどで発信すると、生きづらい方に訊かれることがあります。
「猫を飼えば、死にたくなくなるでしょうか?」ある側面ではイエスですが、同時にその分、背負うものが増えるのも事実。
猫と暮らしはじめると、責任が生まれます。
どれだけ死にたくなっても、「もう死にます」と大量服薬することもできません。だって、猫がごはんを待っているから。
それでも、だからこそ、猫のために生きられると思うなら――。
命を預かる覚悟を決めてもいいのかもしれません。そして、けっして自分の命を手放さない。
猫のために生きる。そのことだけを頼りに、生きづらい人生を投げ出さずすめばと願います。
猫を飼っても、死にたい気持ちは消えません。
でも、それ以上に、生きなければならないしあわせが生まれるのかもしれません。
咲セリ(さき・せり)
1979年生まれ。大阪在住。家族療法カウンセラー。生きづらさを抱えながら生き、自傷、自殺未遂、依存症、摂食障害、心の病と闘っていたところを、不治の病を抱える猫と出会い、「命は生きているだけで愛おしい」というメッセージを受け取る。以来、NHK福祉番組に出演したり、全国で講演活動をしたり、新聞やNHK福祉サイトでコラムを連載したり、生きづらさと猫のノンフィクションを出版する。主な著書に、『死にたいままで生きています』(ポプラ社)、『それでも人を信じた猫 黒猫みつきの180日」(KADOKAWA)、精神科医・岡田尊司との共著『絆の病──境界性パーソナリティ障害の克服』(ポプラ社)、『「死にたい」の根っこには自己否定感がありました──妻と夫、この世界を生きてゆく』(ミネルヴァ書房、解説・林直樹)、『息を吸うたび、希望を吐くように──猫がつないだ命の物語』(青土社)など多数ある。
ブログ「ちいさなチカラ」