考えを可視化する、これからを生きるためのノート
自分ノートを作りをはじめています。自分ノートとは「エンディングノート」と呼ばれるものです。まだ早い、と思うかもしれませんが、エンディングノートは、終わりに向けてのノートという意味合いだけでなく「いまを知る」「これからを生きる」ためのノートです。いま、自分がどこに立ち、これからどうしたいのか──を、確認するためのノートです。
20代で仕事をはじめた時、わたしは本の仕事に就くまで、自分が何をしたいのか、どう生きていきたいのかわからない時期がありました。その時、実行したのが「やりたくないリスト」を作ることです。やりたいことがわからないのなら、やりたくないことを考えよう、と見方を変えました。不思議なことに「やりたくないこと」はすぐわかりました。そして消去法でたどり着いたのが「本」でした。そこではじめて「本」と関わることを仕事にしていこうと思ったのです。
いまは「書く」ことをメインにしていますが、そのスタートも「得意だから」「やりたいから」というよりも「本」のそばにあったからですが、当たり前すぎて見落としていたことでした。「可視化する」は大切です。意識にあがらない自分の「したいこと」「できること」がわかります。
自分ノートも同じです。現状を書いていくことで、自分のこれからが見えてきます。「こうしていきたい」もあるでしょう。反対に「こうしたい」と考えていても実はそうでもなかった、ということもあるかもしれません。思いがあってもそこに無理があるなら、別の方法を考える必要もあります。悩みと思っていたことが思いこみの場合もあれば、不安がっても仕方のないこともあります。可視化し、視点が高くなることで、見えてくるのです。
自由に書いていくことで見えてくるもの
いま出回っている(市販されている)エンディングノートで、いいと感じるものがなかったので、そちらは下書き用と決め、自分のすきなノートに書き写し残していくことにしました。必要なのは、内容と書き方です。元のノートを参考に、自分で選んだノートに書いていけば、結果、必要事項を網羅した自分らしいノートができあがります。
この時、使用するペンは「消えるもの」がいいですね。書いたあと、気持ちや考えに変化があるかもしれません。正式な遺言状を作る際はルールに法る必要がありますが、そうでない場合は、自由に書き消しできるものがお勧めです。
市販のノートを見ると必要事項がわかります。1.自分の基本情報 2.資産状況(預貯金・年金・クレジットカード、不動産など)。つづいて3.交友関係 4.健康管理。いっしょに暮らしている動物がいる場合は、そちらも忘れずに。
書きはじめると、必要なことが多岐に渡っているのに気づきます。誰しもその人が歩んできたその人だけの時間があります。その時間を自分でたどることが「60歳」という年齢に合っている気がします。
近しい人の介護や看取りを経験すると、知らないこと、わからないことがあり、戸惑うことがあります。わたしもそうでした。何がどこにあるかわからない。聞いていたこととちがう。大事だと考えて、大切にしまったのでしょう。場所はわかるけれど、鍵が見当たらないこともありました。いま、自分ノートは、自分の未来のためのものですが、やがて、周りの人にも必要なノートになっていきます。
自分ノートは、資産や健康など現実的な内容がほとんどですが、そこにはいつも「わたし」がいます。もうすぐ60歳。たのしいことも、かなしいことも、60年という時間のなかではありました。でも、ここでこうしているわたしがいる。それは、何よりの誇りです。
60歳までのメモ
1 自分ノート用にノートを用意する
2 ノートに必要なことを書いていく
3 消えるペンを用意する
4 必要な時は、法規に従って遺言状等をつくるようにする
5 急な時のために作ったノートは目につきやすい場所に保管しておく
広瀬裕子(ひろせ・ゆうこ)
エッセイスト、設計事務所岡昇平共同代表、other: 代表、空間デザイン・ディレクター。東京、葉山、鎌倉、香川を経て、2023年から再び東京在住。現在は設計事務所の共同代表としてホテルや店舗、レストランなどの空間設計のディレクションにも携わる。近著に『50歳からはじまる、新しい暮らし』『55歳、大人のまんなか』(PHP研究所)他多数。インスタグラム:@yukohirose19