旧白洲邸で開催。目と舌が喜ぶ、プレミアムな夜

2/10(土)、11(日)の2日間にわたり開催。今回の場所は、「武相荘」。白洲次郎と白洲正子の旧宅で、いまはミュージアムとカフェレストランになっている
立春を過ぎ、ぬるみ始めた空気や五分咲きの梅に淡い春を感じ始めた週末の夜。
佐賀県が誇る日本酒を特別な酒器でいただく、というイベント「SAGA BAR premium in 武相荘」が行われました。

夕闇が迫るころ、「SAGA BAR」の暖簾がかかる。ちょうちんも灯り、ゲストも続々と登場
今回の参加者は、おいしいものや器が好きな方、日本酒に目がない方、なかには「武相荘」の館長である牧山夫妻の姿も。
唐津焼を好んで使ったといわれる白洲正子。
正子の器への想いや、「このレストランの部分は、次郎の木工の作業場だったんですよ」など住まいとして使っていたころの思い出などを語ってくれました。
佐賀の魅力を詰め込んだ「SAGA BAR」とは?

今回のイベントで提供された、佐賀県の酒蔵がつくる6種の日本酒。そして、その特徴を最大に引き出せるように選ばれた、佐賀が誇る6種の酒器たち
乾杯の前に、改めて「SAGA BAR」について、主催である佐賀県庁の坂田さんから教えていただきました。
「SAGA BARは、“佐賀を味わう”をコンセプトに、佐賀酒(さがさけ)をはじめとする県産食材、唐津焼、伊万里・有田焼などの佐賀の伝統工芸品を組み合わせて、食を通じて佐賀の魅力を体験していただける企画です。全国各地で開催していますが、今回はそのプレミアムバージョン。県産食材をふんだんに使ったお料理を武相荘のシェフとのコラボでつくっていただきました」

「九州というと焼酎のイメージですが、佐賀は日本酒県。日本酒で乾杯を推進する条例もあるくらいなんですよ」と、佐賀と日本酒の面白いエピソードを交えてあいさつをする、佐賀県庁の坂田さん
良質な米が取れる佐賀平野を擁し、美味しい水も豊富。
江戸末期に佐賀藩藩主が財政の立て直しを含め、酒造りを奨励したことから日本酒づくりが盛んに。
いまでも歴史ある酒蔵が多く、日本酒を飲む文化が根付いているとか。
今回のイベントでは、6つの酒蔵の自慢のお酒がいただけるとのこと。
どんな味わいなのでしょうか?

ずらりと並んだこの6種。左から、光栄菊酒造の「光栄菊 スノークリスタル」、古伊万里酒造の「古伊万里ヒイズル」、幸姫酒造の「特別純米酒 幸姫」、小松酒造の「万齢 特別純米酒 超辛口」、松浦一酒造の「純米吟醸 松浦一 雄町」、馬場酒造場の「能古見 純米吟醸 あらばしり」というラインナップ
日本酒の美しさ、おいしさを最大限に引き出す酒器で

次々と提供される日本酒に心が躍る
乾杯のあと、佐賀が誇る日本酒が提供されます。
その日本酒を受け入れるのは佐賀の酒器。
佐賀は、400年以上前から続く、やきものの一大産地。
唐津焼、伊万里・有田焼、鍋島焼、肥前吉田焼……と発生し栄えた歴史背景も違えば、その特徴もさまざま。
人間国宝を生み出した15代も続く窯もあれば、斬新なデザインに取り組む作家もいて、皆が交流し切磋琢磨しあい、やきものの質を高め合っているとか。
佐賀のやきものに携わる人は、先人たちが残してくれた文化や歴史を学び、尊重する姿勢をもっているといいます。
そして、お酒好きが多いとも。
それゆえ、器には、お酒や料理の美しさ、おいしさを引き出す工夫が随所にみられるのです。

ひとりひとり、席の前に用意された酒器。右から、李荘窯業所「SAGA BARオリジナルのおちょこ」。佐賀市重要無形文化財にも指定された「肥前びーどろ」といわれる、副島硝子工業の「虹色一口ビール」。細いピッチで描かれた縞のしのぎが美しい李荘窯業所の「縞ショットグラス」。唐津で作陶する人気作家、健太郎窯の村山健太郎さんの「酒碗」。なかに鈴が仕込まれ、置くとチリンとやさしい音がする224 porcelainの「モノヲト」。金属のようなテクスチャーと海外で好まれるラグジュアリーな色彩を施した金照堂の「鱗Lin」
今回用意された酒器を拝見すると、いわゆる「おちょこ」はひとつしかなく、縦長のもの、ちょっと丸みのある大きいサイズのものも。
これは酒碗とよばれ、現代日本酒の香味に合わせて試行錯誤を重ね、作家たちによってつくられたものなのだそうです。

唐津焼の「絵刷毛目酒碗」で。目で見て、手にとって、唇をあててみてと、実際に使ってみて「この器、いいね」と器ばなしに花が咲く
酒碗は、日本酒を愉しむための究極の酒器といわれ、日本酒の新時代を牽引する酒蔵のなかには、酒碗を公式酒器として採用している蔵も多いとか。
さすが、お酒好きが、お酒の美しさ、おいしさを最大限引き出すためにつくった器たち。
お酒がどんどん進みます。
日本酒×酒器×食材。真似をしたいアイデアばかり

佐賀県が誇る日本酒と酒器に合わせた、特別な料理が提供される
今回、テーブルに並んだ日本酒と器、そして今宵のためにシェフが数ヶ月かけてレシピを考えたというお料理は、全部で6品。
最後にはデザートと紅茶も。
*イベント当日に提供された日本酒と料理は、下のスライドショー(8枚)でご覧いただけます。

【写真1/8】乾杯のために選ばれたのは、青リンゴやマスカットのようなフレッシュな香りを持つ光栄菊酒造「光栄菊 スノークリスタル」の季節限定酒。江戸時代から110年以上も続く副島硝子工業による、虹色に輝くグラスを使用。縦長のグラスはお酒の香りが広がりやすく、さわやかで香り高いスノークリスタルにぴったり。白石地区の名産れんこんをやわらかな酸味でマリネ。柚子よりもさらに苦味の強い不知火の皮も漬け込み、日本酒に負けない、大人な味のなます

【写真2/8】全国でたった4店舗でしか購入できない、という古伊万里ヒイズル。こうした超限定酒がいただけるのも、このイベントならでは。有田焼のSAGA BARオリジナルのおちょこで。軽い口当たりと控え目な香りは、すいすいと飲んでしまう。エミューの旨味を味わうためにタルタルに仕立て、爽やかなゲンコウの皮と、シャキシャキとした自然薯も練り込み、食感の違いが楽しめる逸品

【写真3/8】幸姫酒造の「特別純米酒 幸姫」を李荘窯業所の「縞ショットグラス」で。お料理は、呼子のいかと佐賀の海苔のフリット。香りがほどよく感じられるように、と選ばれた飲み口が狭く高さがある酒器を選んだ理由は、「顎をあげて飲むため、喉の奥にがつんと酒の旨みと香りが届き、フリットの油分を流してくれる」という説明に、一同「なるほど」と納得

【写真4/8】4杯目は、小松酒造の「万齢 特別純米酒 超辛口」を、唐津で作陶する健太郎窯の村山健太郎さんらをはじめとする、唐津焼の「酒碗」で。日本酒の器にしては大きめのサイズだが、手で酒碗を包みこんで飲むスタイルと句唇があたる口縁のやさしい形状は、ほかにはない斬新さ。時間がたつほどにゆっくりと変化していく香りがはっきりと感じられ、日本酒の新しい楽しみ方にゲストも興味津々。料理は、立派な唐津太閤ごぼうを、九州ならではの甘みの強い醤油とバルサミコ酢で煮たもの。くるくると螺旋状になった剥き方はシェフからの提案で、「龍をイメージした」とか

【写真5/8】5杯目は、松浦一酒造の「純米吟醸 松浦一 雄町」。器は、肥前吉田焼の224 porcelainのもの。底に鈴がしこまれていて、揺れるたびに涼やかな音が小さく聞こえます。「目が見えない方にも楽しんでいただきたい」という思いがあるそう。料理は、日本酒に合うようにアレンジされた佐賀牛ステーキ。味噌とキャラメルのようなコクのあるブラウンチーズを混ぜたディップをつけていただく。この発酵食品同士を組み合わせたディップが、日本酒と引き立て合い、「おかわりしたい」、「家でも真似したい」とゲストに大人気だった

【写真6/8】いよいよお酒もフィナーレ。〆のおむすびに合わせたのは、しぼりたてのお酒を加熱せず瓶詰めした新酒「馬場酒造場 能古見 純米吟醸 あらばしり」。人間でいうと10代だそうで、フレッシュ、華やかな香りを堪能できる春先ならではの味。器も2016年に有田焼の創業400周年を記念して生まれた「金照堂 鱗Lin」。従来の有田焼とは大きく異なる、新しい有田焼の形を実現している。佐賀のお米、さがびよりを小さく結び、魚醤とごま油を隠し味に焼きおにぎりに。粒が大きくもっちりした食感で、佐賀の米のポテンシャルの高さを感じられる

【写真7/8】デザートは、白洲二郎が書いた武相荘と言う文字が焼印されたオリジナルのどらやき。特別に、佐賀の苺「いちごさん」をはさんで春らしい仕立てにて提供。緑茶で知られる嬉野の和紅茶とともにいただく

【写真8/8】デザートは、白洲二郎が書いた武相荘と言う文字が焼印されたオリジナルのどらやき。特別に、佐賀の苺「いちごさん」をはさんで春らしい仕立てにて提供。緑茶で知られる嬉野の和紅茶とともにいただく
質のよさで知られる有明海や玄界灘などの海の幸、佐賀牛をはじめ、最近注目されているエミュー(だちょうに似た大型の鳥で、味わいは牛肉のよう)や、通常の3倍の太さはあるご当地野菜、太閤ごぼうなど、料理方法も盛り付けもサプライズと美味しさにあふれたものでした。

あまりに盛り上がり過ぎて、お酒と料理の説明をしてくれた司会の方の声が聞こえない場面も
会場も盃が進むうちにゲスト同士が打ち解け、わいわいとにぎやかに。
酒と器と食材が絡み合い、いくつもの魅力をもつ佐賀を知り、近いうち旅してみたいと思う夜でした。
家に帰ってからもプレミアムな時間を楽しむ

縁の片側部分に注ぎ口がある酒器・片口は、口が広いので、日本酒のふくよかな香りを楽しめ、磁器のおちょこは、日本酒のやわらかな風味を感じられる。日本酒を存分に味わって飲める器
2時間にわたる大満足のイベント。
自宅へ帰ってからも上質な時間の続きを味わってほしいと、素敵なお土産まで用意されていました。
多くの作家が活躍する佐賀のなかでも、実力と人気を兼ね備え、なかなか作品を手に入れることが難しいともいわれる陶芸家・矢野直人さんと浜野まゆみさんが、今回のイベントのために特別に制作したという片口と酒器のセットです。

このイベントのために特別につくられた、オリジナル酒器セット。片口が矢野直人さん作品(右)で、おちょこが、浜野まゆみさんの作品(左)
おふたりから、今回の制作の思いをうかがうことができました。
矢野直人 さん

佐賀県でつくられている器を大きく分けると、陶器といわれる唐津焼と磁器といわれる有田焼があります。
それぞれに歴史があり、影響を与え合って発展してきました。
そうした背景や関係性を知っていただくのもおもしろいと思います。
今回、僕がつくった片口は、斑唐津(まだらがらつ ※白濁した藁灰釉を使ったもの)で唐津焼の歴史でも初期に焼かれていた技法です。
斑は、お酒を入れたときの見込の景色と相性がいいと感じています。
浜野まゆみ さん

江戸時代の初めのころの伊万里焼が好きで、ときには古いやきものをお借りしてどのようにつくられているのか、どう絵付けされているのかを器と向き合いながら作陶しています。
古伊万里の絵付けには、季節の営みを大切にする思いを込めたものが多いように感じています。
今回のおちょこは、そうした古伊万里らしさを大切にしたいと思い、一度ろくろをひいてから型にあてる“型打ち成形”という方法でつくり、絵柄は初期伊万里にある草紋を描きました。
日本酒は、温度によって微妙に香りが変わるため、ボトルから片口に移し、そこから少しずつ杯を重ねると少しずつ変わる味わいが感じられます。
好きな銘柄の酒を手に入れて、ゆっくりと日本酒を楽しむ。
日常が豊かになる、夜の過ごし方です。

磁器のおちょこは、コクのあるタイプからキリリとした辛口タイプの日本酒、どちらも楽しめる
佐賀酒と器を楽しめる「SAGA BAR」
目や手、舌……。五感を通して器の機能美や、それに盛られる酒や料理との相性、美しさを教えてくれた「SAGA BAR」。
全国で開催されています。
近くで開催されるイベントに参加して体感するもよし、現地・佐賀に行って味わうもよし、お取り寄せをして自宅で楽しむもよし。
ぜひ、佐賀酒と器で、上質な時間を体感してください。
◆SAGA BAR
https://www.saga-bar.com/
◆SAGA BAR|佐賀酒イベント情報発信
https://www.instagram.com/sagabar_official/
◆常設店舗『SAGA BAR』(JR佐賀駅サガハツ内)
https://www.jrkbm.co.jp/sagaeki-koukashita/floor_guide/sagabar/
◆佐賀酒や酒器の公式オンラインショップ
SAGAマルシェ
https://www.rakuten.ne.jp/gold/sagamarche/
【問い合わせ先】
佐賀県 流通・貿易課 0952-25-7252
<撮影/林 紘輝 取材・文/柳澤智子(柳に風)>