(『暮らしのまんなか』vol.36より)
北欧での生活から日本へ
夫の檀さんは、スウェーデンで生まれ、4歳のときに帰国。24歳で再度スウェーデンに渡り、大学院で家具づくりを学び、家具デザイナーに。
理世さんは、日本の美術大学で日本画を専攻。交換留学制度を利用してスウェーデンへ。テキスタイルデザインを学び、舞台衣装の会社に勤めていたそう。
そんなふたりなら、さぞかし部屋づくりにこだわりがあるのかと思いきや……。
「僕たち、許容範囲がすごく広いんです。これじゃなきゃと決めるのがあまり好きじゃないんですよね」と檀さん。
11年間のスウェーデン暮らしのなかでは、11回の引っ越しをしたそうです。
「北欧の賃貸住宅は、たいていが家具から小物、器までそろっていて、その生活のなかに入って暮らす感じでした。だからなのか、同じスタイルでずっと暮らすという意識がなくて」
須長家の「ほどほどに」
リビングにはどんな使い方もできるデイベッドを置き、座ってお茶を飲んでも昼寝をしてもいいし、ときには子どもの遊び場にもなります。
8歳の絃くんと6歳の杏ちゃんは、つくることが大好き。
木を切って釘を打ったり絵を描いたり。檀さんのアトリエの床は絵の具の染みがいっぱい。子どもたちのかわいい足跡もあります。
そんな汚れも気にしないで、「まあ、いいさ」と見守るのがふたりの部屋づくり。
「子どもたちが自由にしていい時間と場所を決めています。おもちゃがあるのはリビング横の寝室。リビングは大人も一緒に過ごすから、遊んでいても、時間になったら片づけるという約束なんです」と理世さん。
実は、檀さんのお店「lagom」も、店名は「ほどほど」という意味。ちょっと力を抜いて、ほどほどでもいいんじゃない? そんな提案をしていきたいそう。
ふたりが北欧で学んだもうひとつの大事なことがあります。それが「自分で考える」ということ。
「わからないことがあっても、学んでいく過程が面白いんですよね。自分で考え、自分の軸を決めるから、『ほどほど』を楽しめるんだと思います」
“こうしてみたら楽しいんじゃない?”。そんな心の声に素直に、暮らしながら暮らし方を変えていく……。
「ほどほどに」は、日々起こるすべてのことを受け入れ、味わうためのおまじないの言葉でもあるようです。
須長家から学ぶ、美しい暮らしのルール
【その1】ぴったり置かない
北欧の生活で学んだのが、家具を壁にぴったり付けないで配置するという方法。
日用品などをしまったチェストは、あえて壁から少し離して置くと、空間に余白が生まれ、家具のフォルムもより際立ちます。白い壁が生きて、部屋全体が広く見える効果も。
デイベッドは、あえて部屋の中央に配置しました。360度どこからでも座ることができるので、過ごし方のバリエーションがぐんと広がったそう。
【その2】流される
どう暮らしたいか、どんな部屋に住みたいか。意志を持つことは大切だけれど、頑なになりすぎないよう注意しているそう。
きれいに暮らさなくちゃ、と思いすぎると、子どもが絵を描いているときに「汚さないで」といいたくなります。「楽しくお絵描きできれば、まあ、いいさ」と状況に従順に流されてみれば、もうひとつの大事なことを見つけられそう。
ありのままを受け入れて、波に乗ってみることもときに必要です。
【その3】試しながら暮らす
私たちは、すぐに「答え」が欲しくなってしまい、早く見つけ出したい、とあせりがち。でも、美しさには正解がないからこそ、「これはどうかな?」と暮らしのなかで試行錯誤する過程を楽しみたいもの。
理世さんの「時計が欲しい」との希望で、檀さんがつくったオブジェのような壁掛け時計も、リビングにかけて毎日眺め、見え方などを確認中なのだとか。
試したプロセスが、次に選ぶための力を育ててくれます。
【その4】探さずに待つ
アンティークのキャンドル立てをキッチンの壁に取り付けたら、調味料ホルダーになりました。
「これが欲しい」と探すより、目の前にやってきたものを「はて、どう使おうか?」と考えてみるほうが、思いもかけない暮らし方が生まれてくるそう。
「探す」のではなく、「出合う」を大事にすると、自分のなかにはなかった新たな価値観を発見できます。買い物の姿勢を変えることで、部屋の様子がぐんと変化するかもしれません。
<撮影/有賀 傑 取材・文/一田憲子>
須長 檀、理世(すなが・だん、みちよ)
夫の檀さんは、スウェーデンで活躍してきた経歴を持つ家具デザイナー。障害を持つ人とともに作品を生み出すデザイン工芸アトリエ「コンスト」クリエイティブディレクターでもある。理世さんはテキスタイルデザイナー。現在は「ナチュールテラス」や新たにオープンした店「lagom(ラーゴム)」のディレクターも務める。https://sunagadesign.com/
lagom https://lagom-miyota.com/
NATUR terrace https://natur-karuizawa.com/
福祉+デザインのアトリエ konst https://konst.jp/
<訪ねた人>
一田憲子(いちだ・のりこ)
編集者・ライター。企画から編集、執筆までを手がける『暮らしのおへそ』『大人になったら、着たい服』(共に主婦と生活社)を立ち上げ、取材やイベントなどで、全国を飛び回る日々。著書に『もっと早く言ってよ』(扶桑社)、『すべて話し方次第』(KADOKAWA/3月28日発売予定)ほか多数。サイト「外の音、内の香 」を主宰。(https://ichidanoriko.com/)
「暮らしのおへそラジオ」を隔週日曜日配信中。
※記事中の情報は『暮らしのまんなかvol.36』本誌掲載時のものです
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一田憲子さんが編集を手がける『暮らしのまんなか』vol.38。暮らしの実例12軒でお見せします。
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