• 生きづらさを抱えながら、自傷、自殺未遂、依存症、摂食障害、心の病と闘っていた咲セリさん。不治の病を抱える1匹の猫と出会い、その人生が少しずつ、変化していきます。生きづらい世界のなかで、猫が教えてくれたこと。猫と人がともに支えあって生きる、ひとつの物語が始まります。持病がある高齢猫の幸せについて考える日々です。

    持病があるけれど病院嫌いな猫

    病気や障がい。

    けっして、健康体ではない状態で、それでも受け入れることを決めた命が、我が家には「ふたり」います。

    ひとりめの名前は「トト」。知り合いのデザイナーさんのお家の猫でしたが、飼い主さんが突然の病気で入院。行き場のなくなったトトは、里親さんを探すことになりました。

    そのときで、もう16歳。きっと、希望者はいないだろうということで、我が家に迎え入れようと画策。そして、いざトトと対面すると、トトの左耳は、腫瘍のようなものができ、顔も少しななめにかたよっていました。

    慌てて動物病院に連れていきました。

    獣医さんと話し合います。手術で取ったほうがいいのか。だけど年齢のこと、腎臓の値があまり良くないことも考えると、手術の麻酔は負担がかかりすぎる。

    そのうえ、トトは病院のたびにおしっこをもらしてしまうほどの病院嫌いでした

    悩んだ末、私たちは積極的な治療をしないことを決めました。

    手術で万が一のことがあるよりも、残された猫生を、楽しいことだけでうめてあげたかったのです。

    その甲斐あって、18歳になった今も、トトは元気にしています。

    あまえんぼうで夫のうでまくらで眠ることを好み、私が晩酌をしていると、自分にもササミが出てくると覚え、テーブルの上に身をのりだします。新しく来た子猫たちにも好かれ、一匹暮らしだったトトは、猫だんごのあたたかさを知りました。

    画像: 持病があるけれど病院嫌いな猫

    耳の腫瘍は、残念ながら少しずつふくらんでいます。それを自分でひっかいて、出血することもあります。

    見ていて、不安にならないといったらうそになります。そのたび、やっぱり今からでも手術をしたほうがいいんじゃないかと脳裏をかすめたり。

    それでも、体の負担が……。心の負担が……。だめだ。私が気を強くもたなければと鼓舞する日々なのです。

    治らなくても不安にならなければ幸せに暮らせる

    そして、もうひとりめ。「私自身」が抱えている心の病気も同じです。

    双極性障害……俗にいう躁うつ病は、完治することがなく、一生つきあっていかなければならない病気です。

    少しでも病状を悪化させないためには、ストレスをためないこと。楽しいことだけして、ごきげんさんで過ごすこと。

    そのおかげで、私は、病気だけど、病気だと忘れるくらい、毎日を謳歌しています。

    トトも、私も、人から見たら「かわいそう」かもしれません。だけど、自分たちの体に合わせたケアで、命の終わりまで笑って生ききる。

    治らなくても、不安になりさえしなければ、しあわせは、みんなのそばにいつでもあるのです。

    画像1: 治らなくても不安にならなければ幸せに暮らせる

    画像2: 治らなくても不安にならなければ幸せに暮らせる

    咲セリ(さき・せり)

    1979年生まれ。大阪在住。家族療法カウンセラー。生きづらさを抱えながら生き、自傷、自殺未遂、依存症、摂食障害、心の病と闘っていたところを、不治の病を抱える猫と出会い、「命は生きているだけで愛おしい」というメッセージを受け取る。以来、NHK福祉番組に出演したり、全国で講演活動をしたり、新聞やNHK福祉サイトでコラムを連載したり、生きづらさと猫のノンフィクションを出版する。主な著書に、『死にたいままで生きています』(ポプラ社)、『それでも人を信じた猫 黒猫みつきの180日」(KADOKAWA)、精神科医・岡田尊司との共著『絆の病──境界性パーソナリティ障害の克服』(ポプラ社)、『「死にたい」の根っこには自己否定感がありました──妻と夫、この世界を生きてゆく』(ミネルヴァ書房、解説・林直樹)、『息を吸うたび、希望を吐くように──猫がつないだ命の物語』(青土社)など多数ある。

    ブログ「ちいさなチカラ」



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