• 生きづらさを抱えながら、自傷、自殺未遂、依存症、摂食障害、心の病と闘っていた咲セリさん。不治の病を抱える1匹の猫と出会い、その人生が少しずつ、変化していきます。生きづらい世界のなかで、猫が教えてくれたこと。猫と人がともに支えあって生きる、ひとつの物語が始まります。黒猫ばかり飼う理由を咲さんが教えてくれました。

    1匹目は痩せた子猫の「ビー」

    我が家は総勢11匹の大猫家族。

    しかも、その中の8匹が、なんと全員「黒猫」です。

    そう言うと、いろんな方に「黒猫が好きなの?」と訊かれるのですが、実は、まったくの偶然なのです。

    たしかに、最初に我が家の子になった猫は、黒猫の男の子「ビー」でした。

    画像1: 1匹目は痩せた子猫の「ビー」
    画像2: 1匹目は痩せた子猫の「ビー」

    実家に現れたぼろぼろの子猫。母が保護したところ猫風邪をひいていて、実家では飼えないということで、猫の好きな私たち夫婦のもとに来ました。

    2匹目は病気を抱えた黒猫の「あい」

    その次は、猫エイズと猫白血病の黒猫「あい」。

    繁華街でガリガリに痩せてさまよっている姿をみかけたとき、見過ごすことはできず、我が家へ連れ帰りました。「あい」のことはこの連載のスタート時(2023.2月)からくわしく綴っています。

    きっと、みつけてしまえば、その猫が何色でも保護したことでしょう。だけど、人通りの激しいあの雑踏の中で、それなのにわざわざ目がいったのは、ビーと同じ「黒」だったからだと運命を感じます。

    なぜなら、ビーと暮らしはじめてから、黒猫の「黒」は「猫の色」ではなく、「家族のあかし」になりました。見過ごせない、遠くからでも気がつく、特別な色なのです。

    黒猫が「特別」な理由

    とはいえ、黒猫ばかりをほいほい8匹も選んで家族に迎え入れたわけではありません。

    そもそも、最初はそんなに猫を増やす予定もなかった我が家。

    だけどその後も、縁あってうちの子になる子は、なぜか黒猫。まるで魔法のようでした。

    保護団体さんと話をすると、実は黒猫は保護猫の中であまり人気のない色なのだそうです。だから、茶トラや三毛猫、白猫たちが、次々おうちが決まる中、黒猫だけ残っていることも少なくないのだとか。

    だからでしょうか。今まで、多頭飼い崩壊で募集をしていた子や、ハンデのある募集猫など、保護されている子を見ていると、目につく猫は決まって黒。

    そのうえ、私は「黒猫=家族の色」だと身についているので、目にしてしまうと、ついつい目をそらせなくなってしまうのです。

     

    画像: 黒猫が「特別」な理由

    そうして、うちの子になってくれた子たち。

    黒猫だけがかわいいとはまったく思いませんが、やっぱり黒猫には、独特な魅力もあると感じます。

    たとえば、すごくあまえんぼう。男の子も女の子も、人間が大好きでツンデレの「ツン」のかけらもありません。

    しかも、性格も穏やかで、他の猫とけんかをするという心配もまったく無縁でした。

    おだやかで優しい。黒猫の魅力

    こんなに一緒に暮らしやすいのに人気がないという話もある黒猫。黒猫の魅力普及委員会の私としては、もったいないなあとつねづね思います。

    もしかしたら――と、想像が膨らむことがあります。

    黒猫は、黒くてみつけにくい色だから、里親募集でも目に留まりにくい色だから、彼らはさらにやさしく、かわいく進化したのかもしれません。

    「黒」という闇の色を「ハンデ」ととるか、「特別な個性」ととるか。

    あまり人と接するのがうまくない、「自称黒猫」の私は、後者ならいいなあと思います。

    そして、そういった全部をひっくるめて愛してくれる人と出会えたらと、猫も、人も、願うのです。

    ひとつだけ。夜、電気を消すと、足元にすりすりしてくる黒猫を踏みそうになってしまうことだけは、黒猫も家族も、なんとも弱った悩みですが(笑)。

    画像1: おだやかで優しい。黒猫の魅力

    画像2: おだやかで優しい。黒猫の魅力

    咲セリ(さき・せり)

    1979年生まれ。大阪在住。家族療法カウンセラー。生きづらさを抱えながら生き、自傷、自殺未遂、依存症、摂食障害、心の病と闘っていたところを、不治の病を抱える猫と出会い、「命は生きているだけで愛おしい」というメッセージを受け取る。以来、NHK福祉番組に出演したり、全国で講演活動をしたり、新聞やNHK福祉サイトでコラムを連載したり、生きづらさと猫のノンフィクションを出版する。主な著書に、『死にたいままで生きています』(ポプラ社)、『それでも人を信じた猫 黒猫みつきの180日」(KADOKAWA)、精神科医・岡田尊司との共著『絆の病──境界性パーソナリティ障害の克服』(ポプラ社)、『「死にたい」の根っこには自己否定感がありました──妻と夫、この世界を生きてゆく』(ミネルヴァ書房、解説・林直樹)、『息を吸うたび、希望を吐くように──猫がつないだ命の物語』(青土社)など多数ある。

    ブログ「ちいさなチカラ」



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