26年ぶりに北海道に帰ります
「あたらしいことをはじめるときの怖い気持ちをどうしていますか?」
昨年、15歳の人たちの前で授業をもつ機会をいただいて、そう聴かれたことがありました。
「やらないまま時間が経ってしまうほうが怖い」
今年45歳になるわたしはそう即答したのだけど、あとからじわじわと、彼らくらいの年の頃はほんとうにありとあらゆることが怖かったなぁ、と思い出しました。いい質問だなぁ。
はじめまして、藤原奈緒です。「あたらしい日常料理 ふじわら」という屋号で、家庭のごはんをおいしくするびん詰め調味料のブランドを手掛けています。
今、わたしは26年ぶりに、故郷の北海道に移住しようとしています。
札幌で生まれ育って、18歳で上京。20歳のときに料理を仕事にしよう、家庭料理にアプローチできる仕事がしたい、と思って、それからずっとこの仕事をして生きてきました。
当時、自分がやりたいとイメージした仕事にはまだわかりやすい名前がなくて、どうしたらそれを仕事にできるのかわからなかった。
女性が自分の看板で仕事をすることも今ほど普通のことじゃなかったので、いろんな飲食店の門を叩いて、とにかくひたすら、がむしゃらに働きました。
修業時代に切り盛りを任されたお店がどんどん忙しくなって、毎日仕事をしてもしても終わらなかった。せめて料理の提供を早くしたい、と調味料をつくるようになりました。
それをびんに詰めて冷蔵庫に転がしておいたら、何もないクタクタの休日に、とてもおいしいスープができた。あ、これだ。そんなふうに導かれてブランドを構想し、お店をはじめたのが35歳のとき。
この頃になって、20歳の自分は今の自分をちゃんとイメージできていたんだな、と思うようになりました。
以来、イメージできたことは現実になる、そう確信しています。
これにはひとつ条件があって、自分が自分の望みをぜったいに、軽く扱わないこと。
道のない道を行くとき、頼りになるのは自分の感覚。自分をよく知って、仲良くすることがその道で迷わない秘訣です。
わたしという人は、何が好きで、何は許せなくて、どんな人なのか。
お味噌汁に救われる日もある
質問が大きすぎるようなら、小さなことからはじめてみる。たとえば今、何が食べたいか。
わたしがいろいろなことがわからなくなったときに作るのはお味噌汁です。
わたしはいりこだしのお味噌汁が大好きなので、いりこを水に放って、その日飲みたい味や食感を本気で想像します。
具の組み合わせは? 大きさは? 切り方で食感が変わって、食感で味が変わるので、こまかくこまかくイメージする。
沸騰させない、表面がくつくつするくらいの火加減でちょうどよく煮てあげると、具材が本当にいいだしを出してくれる。そこにみそを入れて、ふわっととけるまで少し待って、ぴたりと加減する。
丁寧に作ったお味噌汁を飲んでほっと一息つくとき、泳ぎ切って岸まで戻ってきたような心持ちになります。ああよかった、きっと大丈夫。
こんなふうに自分で自分をケアできるから料理が好きで、料理の仕事をしてきたのですけど。
どうも私は積み上げたものをときどき壊して、あたらしくはじめるのが好きみたい。
じたばたするのが好きなんだと思います。
いろんな人がいろんなことを言うかもしれない。だけど、自分の人生の責任を取れるのは自分だけ。
それをしている自分が好きかどうか。そこだけ目をそらさずにいたら、きっとたいていのことは大丈夫。そんなふうに思っています。
どうぞわたしのじたばたを、ここから一緒に見守っていただけたら幸いです。
藤原 奈緒(ふじわら・なお)
料理家、エッセイスト。“料理は自分の手で自分を幸せにできるツール”という考えのもと、商品開発やディレクション、レシピ提案、教室などを手がける。「あたらしい日常料理 ふじわら」主宰。考案したびん詰め調味料が話題となり、さまざまな媒体で紹介される。共著に「機嫌よくいられる台所」(家の光協会)がある。
インスタグラム:@nichijyoryori_fujiwara
webサイト:https://nichijyoryori.com/
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