• エッセイストで空間デザイン・ディレクターの広瀬裕子さん。60歳を前に、歳を重ねるなかで出てくるさまざまな課題や考えなくてはいけないこと。たとえば住まいのこと、仕事のこと、⾝体のこと。ひとつひとつにしっかり向き合い、「心地いい」と感じる方へ舵を取る広瀬さんの毎日。そこから、60歳までにこうなりたい、という目標と取り組みを同世代や下の世代の方とシェアしていけたらと思っています。車を手放し、公共交通について考えたこと。

    車の運転は好きだけれど、東京暮らしで車を手放した

    車を手放して1年経ちました。住まいを東京に戻したタイミングで、運転をやめたためです。はじめて免許を取得してから30年。運転するようになってから25年。この先、車を再び手にし運転することはあるのかなあ? と思いをめぐらせます。

    以前、暮らしていた街は、全国でも交通事故が多い地域でした。それもあり一般道の運転は常に気を張っていました。運転をたのしめるのは、高速道路を走っている時だけ。他は、どんな状況に置いても(大袈裟ではなく)、前後左右目配せをし、他車の動きを見ながら、ハンドルを握っていました。

    車を手放す時、いつもさみしさが伴います。車は、移動するための道具ですが、わたしを守りながら走ってくれた。たのしい思い出を渡してくれた。そんな思いを持つからかもしれません。

    画像: 50代になり「安全第一」の車を選びました。エアバッグが運転者用・歩行者用にあるのが決め手でした

    50代になり「安全第一」の車を選びました。エアバッグが運転者用・歩行者用にあるのが決め手でした

    運転から離れて、都市生活の利点、公共交通を活用してみる

    都市部の利点は、交通が発達しているところです。公共交通で事故がないわけではないですが、確率を考えると、自分で車を運転をするより安全です。加害者になるリスクも少ない。大雨の日や、猛暑や厳冬期は「車があれば」と思うこともありますが、それ以外は特に問題なく、どちらかというとかろやかさを手にしたと思うほどです。

    わたしのように歳を重ね、ひとり暮らしで、こどもがいないと、歳を重ねた先にある交通問題は、大きな課題です。安全に運転ができ、機転を効かすことが可能な年齢の時は問題ありませんが、いつかそれもできなくなります。ニュースなどで高齢の方の事故を知ると、交通システムや高齢になっても運転しないと生活できない環境に「どうにかならないのだろうか」と思います。人ごとではないのです。

    そういった思いを持つようになり「1度、車から離れた生活してみよう」と思いました。

    画像: 電車では遠い地域もバスだと意外と近いというのが、東京のバスの利点のひとつです。燃料電池バスなども走っていて未来への取り組み、変化を感じます

    電車では遠い地域もバスだと意外と近いというのが、東京のバスの利点のひとつです。燃料電池バスなども走っていて未来への取り組み、変化を感じます

    歳を重ねるほど、交通の便利さが優先になると実感

    東京なら電車もバスもタクシーも選べます。わたしは、自転車には乗りませんが、自転車人口も多く、道も整備されはじめています。車も自転車も、シェアシステムがあります。若い頃には求めることがなかった「交通の便利さ」。それが、優先事項の上位に位置づいたのです。

    いま、暮らしているところは、共同住宅の前にバス停があり、それが、本当に便利。その便利さは、気持ちと体、そのふたつをかろやかにしてくれました。とりあえずバスに乗る→目的地に着く→歩く→自然と体力がつく→バスに乗る→帰宅。外へ行く機会もいつの間にか増え、車生活で落ちていた筋力が戻ってきました。

    東京のバス(都バス)と都営地下鉄は70歳以上、無料です。以前は60歳だったのですが、65歳を経て、70歳になったので、そのうち75歳になるかもしれませんが、歳を重ねた世代にはうれしいシステムです。区の循環バスは65歳以上(妊婦さん等も)無料。運行本数も多く、近くのお店まで買い物へ行くため、病院へ通うため、駅まで、に、多くの方が利用されています。数年後には、わたしもそのなかにはいります。

    画像: 川を利用した交通もこれから展開していく予定のようです。新しくできた橋と船着場

    川を利用した交通もこれから展開していく予定のようです。新しくできた橋と船着場

    未来が想像できる──。絶対という保証はないですが、歳を重ねていくなかで「なんとかなりそう」と思うことができれば、そこで暮らしつづけることができます。コミュニティもつづいていきます。それが「どう考えてもむずかしい」というイメージしか浮かばなければ、違う選択をしなければなりません。交通に関しては、地域による格差は、今後ますます大きくなっていくでしょう。各自治体、どうしていくのだろう、と、自分ごとのように思います。

    車を手放した代わりに手に入れた軽やかさ

    車がないことで残念だと思うことがあるとしたら、自由のひとつが消えたと感じることでしょうか。

    わたしは、車の運転がどちらかと言うとすきですし、快適な道を音楽をかけながら走るのはたのしいことです。はじめて自分で自分の車を手にした時は、自由のカギを手にしたようでした。

    流れていく景色、気持ちを解放してくれる音楽、時間に関係なく出かけられる自由。運転をすることで「大人」になったようでした。それがなくなってしまったのです。

    でも、その代わり、別のかろやかさを手にしました。もう少し、このかろやさの中にいようと思います。

    画像: 東京の空の便は空港も年々広くなりさらに使いやすくなりそうです

    東京の空の便は空港も年々広くなりさらに使いやすくなりそうです

    60歳のメモ

    1 住んでいる地域の交通を考えてみる

    2 家族構成などの変化を考慮しておく

    3 年齢による生活の優先順位を見直す

    4 病気になった時、ケガをした時などのイメージをしておく

    5 地域の自治体が将来どのような交通計画を検討しているか調べてみる


    画像: 車を手放した代わりに手に入れた軽やかさ

    広瀬裕子(ひろせ・ゆうこ)

    エッセイスト、設計事務所岡昇平共同代表、other: 代表、空間デザイン・ディレクター。東京、葉山、鎌倉、香川を経て、2023年から再び東京在住。現在は設計事務所の共同代表としてホテルや店舗、レストランなどの空間設計のディレクションにも携わる。近著に『50歳からはじまる、新しい暮らし』『55歳、大人のまんなか』(PHP研究所)他多数。インスタグラム:@yukohirose19

    NHK文化センター
    自分らしく歳を重ねる─わたしらしい白い髪にしていくために─
    ゲスト薫森正義(ヘアサロン・SHI/GE)
    2024.8.24(土)14:00〜15:30
    NHK文化センター梅田教室
    大阪市北区角田町8-1大阪梅田ツインタワーズ・ノース17階
    会員¥4004 一般¥4697 オンライン¥3300



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