(『天然生活』2022年7月号掲載)
日本古来の花火を継ぐ職人「和火師」
「職人たちの間では、化学薬品や金属化合物を使った西洋の花火は『洋火』、日本古来の花火は『和火(わび)』と呼ばれています。けれど、洋火の華やかさに押され、いまでは花火と聞くと洋火をイメージされる方が多いはず。一般の方で和火を知る人は少ないと思います」
そう話すのは、花火職人・佐々木厳さん。
佐々木さんは6年間の花火師修業の後、和火のもつ幽玄な美しさに魅了されて「和火師(わびし)」として独立。
和火のみを扱う花火師として、その魅力を伝える取り組みを続けています。
打ち上げ花火づくりの現場を拝見
まず線香花火からスタートした「和火師」の道。
2020年には拠点となる「福山花火工場」との縁がつながり、念願の打ち上げ花火の製作にも着手できるようになりました。
打ち上げ花火は、「星」と呼ばれる球状の火薬を花火玉に込めてつくられます。
「星」の芯に使われているのは、菜種や綿種など植物の種。
これに火薬をまぶし、天日で乾かし、乾いたら再び火薬をかけて……と、少しずつ育てていくのです。
ひとつの花火玉の完成には、半月以上が必要です。
鎮魂の想いを夜空に
この打ち上げ花火、佐々木さんはかねてから慰霊や鎮魂などの想いを込めた「祈り火」として用いたいと考えていたのだとか。
歴史をたどれば、日本の打ち上げ花火の原点には疫病退散や五穀豊穣といった祈りの想いがありました。
「花火師修業をしていた20代のころから、大会でときおり目にする和火の、桜が散るようなはかない美しさが心に残っていました。祈りを込めた花火は、和火でこそ実現できると確信したのです」
現在佐々木さんは、慰霊や鎮魂のための打ち上げ花火を自ら企画。
暮らしの拠点である山梨県のほか、鹿児島県の「知覧(ちらん)特攻平和会館」のある平和公園などでも献灯(けんとう)を継続して行っています。
さらに「祈り火」の活動を始めると、長年家を守ってきた木や枯れてしまった御神木を花火にしてほしい、との依頼が届くように。
今年4月には長野県中川村の天然記念物「石神の松」の花火づくりも手掛けました。
「樹齢390年ともいわれる村の守り神が、松枯れ病で倒れたそうです。『感謝を込めて空に送りたい』と相談をいただき、ふたつ返事でお受けしました」
炭にした「石神の松」を粉砕し、でき上がった70発。松の一生を描いた佐々木さんの和火を、村人たちは歓声と涙で見送りました。
「日本では元来、花火を眺めるひと時は祈りの時間でもあった。言葉を尽くさなくても和火を見るだけで、そのことが理解できる気がします。和火のもつ『静かなる力』を、これからも多くの方と共有できたらと思います」
〈撮影/疋田千里、砺波周平 取材・文/玉木美企子 取材協力/福山花火工場〉
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです