2022年2月、コロナ禍にパリへ移住
ーー猫を連れてのパリ移住について、どうだったのか教えてください。
猫沢さん:動物を連れての出国は、マイクロチップは必須ですし、揃えなければならない書類も多く、大変でした。コロナ禍だったこともあり、情報が流動的だったのでなおさらです。
出国する前の3日間、毎日羽田空港に通い、条件がどうとかフランス側の受取体制がどうのと、ものすごく煩雑でげんなりしました(笑)。2002年にも猫を連れてパリに行った経験があり、流れをわかっていたことは救いでしたね。
ーー猫たちはどうでしたか? おとなしくしていたんでしょうか。
猫沢さん:やっぱりわかるんですよね。
ふだん動物病院に行ったりするのとは違う、何かすごく大きなことなんだって。クレートを開けたら2匹ともすっと入り、くっついて固まっているので、「そうなの、これから大冒険なの。みんなで一緒に行くのよ」と話しました。
空港についてからもひと言も鳴かず、ずっとおとなしかったです。飛行機では客室には乗せられず、バルク室(客室と室温・湿度が同じ貨物室)だったんですが、クレートに2重にネットをかけるんです。
かなり厳重で、もし飛行機が落ちるようなことがあったら逃げられるんだろうかと怖くなり、どうしても必要なのか聞きました。そうしたら以前大型犬がクレートを食い破って脱走し、2時間くらい走り回って空港が閉鎖になったんですって! 多額の賠償金が発生したため、どんなに小さい動物でもネットをかけることになったそうです。
パリの空港に到着後は、係員がふたりの入ったクレートをすぐ運んできてくれて、元気そうな様子に安心しました。
ーー猫は家が好きで、環境が変わることは苦手なイメージがあります。
猫沢さん:そうですよね。わたしも心配していました。日本を発つときにはパリで暮らすアパルトマンが決まっておらず、最初の数日間、友人のAirbnb(エアビーアンドビー・民泊)に滞在していたんです。ユピはママがいれば大丈夫という様子でしたが、ピガのほうはいつ帰るの? といった雰囲気で、外に出たがったりして落ち着きませんでした。
たまたますぐに良い物件が見つかり、リビングに面してベランダがある構造が、東京の家と似ていたんです。2匹はベランダがすごく好きだったので、引っ越したら、風を感じながら気持ちよさそうに過ごすようになりました。
ーーパリのほうが、居心地がよさそうに感じることもあるそうですね。
猫沢さん:東京の家は高層階だったので、街の気配などは感じられないベランダでしたが、パリのアパルトマンは日本でいう2階なんです。
よく鳩とか鳥がやってきたり、階下からも人の声が聞こえたりするので、そういう刺激を楽しんでいる様子ですよ。
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動物を連れての移住に心配はつきもの。とくに猫は家につくと言われるくらいですから猫沢さんの不安も大きかったと思いますが、猫たちは本能的にこの大移動が大切なものだとわかっていた様子で、無事に移住したのでした。
続く第2回は、パリのペット事情や動物愛護精神などについて伺います。パリではペット不可という物件は、ほぼないそうですよ。
写真/猫沢エミ、林紘輝(インタビュー) 取材・文/長谷川未緒
猫沢エミ(ねこざわ・えみ)
ミュージシャン、文筆家、映画解説者、生活料理人。2002年に渡仏し、2007年より10年間、フランス文化に特化したフリーペーパー『BONZOUR JAPON』の編集長を務める。超実践型フランス語教室「にゃんフラ」主宰。2022年2月から猫2匹を連れ、二度目の渡仏、現在はパリに暮らす。
一度目のパリ在住記を綴った『パリ季記』(扶桑社)のほか、『猫と生きる。』(扶桑社)や『ねこしき』(TAC出版)、『猫沢家の一族』(集英社)など著書多数。昨年12月に出版された料理絵本『料理は子どもの遊びです』ミシェル・オリヴェ著/猫沢エミ訳(河出書房新社)のシリーズ第三弾、『コンフィチュールづくりは子どもの遊びです』が9月発売予定。
インスタグラム:@necozawaemi
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ヤン・ラズー(Yann Lazoo)
1969年パリ郊外に生まれる。パリ第6大学(ピエール・マリー・キュリー大学)物理専攻量子学科の大学院へ進み、ヨーロッパ内企業の数学講師など絵を務める。同時に10代からアメリカンコミックやバンド・デシネ(フレンチスタイルのアート漫画)の世界に傾倒し、デッサンを独学で始める。20歳の頃、フランスの最大手メディアストア《fnac》の新人バンド・デシネ・アーティスト大賞に選ばれたのをきっかけにプロデビューする。
27歳のとき、量子学の世界から画家へ完全転向。その後グラフティースタイルの壁画制作と、雑誌・出版物へのイラストレーション活動をふたつの柱に、アートフェスティバルのプロデュース、ディオールのデフィレ会場壁画制作、パリ市内中学校の内装壁画制作など幅広く活動中。今回ヤンヤンが使うデッサン画のテクニックは、クラシックな写実の技法だが、モデルの呼気も取り逃がさない繊細なタッチは、まさにフレンチリアリズムと言える。元数学者の左脳と、クリエイションを生み出す右脳がバランスよく内在した、クリアかつ、あたたかな表現が特徴。
インスタグラム:@yannlazoo
ヤンヤンプロジェクト
インスタグラム:@projet_de_yannyann
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