• 愛猫家で知られるミュージシャンで文筆家の猫沢エミさん。2022年のバレンタインデーに、ピガとユピという2匹の猫を連れてパリに移住しました。日本に一時帰国されたタイミングで、パートナーのヤン・ラズーさんと始めた動物支援保護活動《ヤンヤンプロジェクト》について、おふたりにお話を伺いました。全5回のインタビュー、今回は、《ヤンヤンプロジェクト》発足のきっかけについてです。

    ――ヤンヤンプロジェクトについて、教えてください。

    画像: ――ヤンヤンプロジェクトについて、教えてください。

    猫沢さん:愛する動物パートナーのポートレートをヤンが描き、その作画代の一部を日本とフランスの動物愛護団体に寄付するというプロジェクトです。

    画像: プロジェクトのアイコン、イオ。このプロジェクトは、イオが教えてくれた〝どんな命も真の愛に出逢えば光り輝く〟という信念をモットーに、動物の境遇改善を目的とした動物保護活動寄付金付きプロジェクトとして、2023年、パリで発足した

    プロジェクトのアイコン、イオ。このプロジェクトは、イオが教えてくれた〝どんな命も真の愛に出逢えば光り輝く〟という信念をモットーに、動物の境遇改善を目的とした動物保護活動寄付金付きプロジェクトとして、2023年、パリで発足した

    参加者のみなさんから、動物パートナーの写真とともに思い出を書いて送っていただきます。そして私がフランス語に訳して、その子のキャラクターや歴史を知った上でヤンがポートレートを描き、作画代の10%を、日本とフランスの動物保護団体に寄付します。

    画像: 完成したポートレートに原画であることの証明刻印を押しているヤンとピガ

    完成したポートレートに原画であることの証明刻印を押しているヤンとピガ

    もともと、私も彼も子どもの頃から動物が好きで、動物のために何かしたいとずっと考えていたんです。それでスタートしました。

    ――きっかけは猫沢さんの愛猫、イオちゃんだったそうですね。

    画像: 渡仏して初めての命日に。ユピはイオの最後の恋猫だった。またひとつ凛々しくなったユピに、遺影のイオも安心しているように見える

    渡仏して初めての命日に。ユピはイオの最後の恋猫だった。またひとつ凛々しくなったユピに、遺影のイオも安心しているように見える

    猫沢さん:移住前にイオという猫を扁平上皮がん闘病の末に亡くしたのですが、見送るときにたくさんの方からメッセージをいただきました。

    自分はこういうふうに動物と暮らし、こういうふうに見送ったという、ご自身と動物パートナーの思い出や後悔を綴ったメッセージなんですが、〝誰にもこの話を打ち明けたことがない〟と、たくさんの方が書き添えていました。

    動物を亡くしたことのある方はわかると思いますが、亡くした悲しみをわからない人に話すことで傷つけられたり、思い出を汚されたりするのは嫌だから、語らないわけです。

    私はたまたま文章を書く仕事をしているので、イオのことを書き、みなさんに理解していただけましたけれど、それは本来、特別なことではなく、動物パートナーと飼い主の間にはイオと同じく、大事な物語が星のように無数にある

    どれも素晴らしくかけがえのないもので、何か動物保護と関連づけてできることがあるのでは、とおぼろげにずっと考えていたんです。

    2022年のクリスマスに、彼がピガとユピのポートレートをプレゼントしてくれて、それを見た瞬間「これだ!」と閃きました。

    画像: ――きっかけは猫沢さんの愛猫、イオちゃんだったそうですね。
    画像: ヤンのアトリエが改装中にスタートしたプロジェクトの初期は、よく自宅で作画していた。ピガとユピがのんびりまわりを取り囲む、和やかな雰囲気

    ヤンのアトリエが改装中にスタートしたプロジェクトの初期は、よく自宅で作画していた。ピガとユピがのんびりまわりを取り囲む、和やかな雰囲気

    絵と文で、関わった人たちがみんな幸せな気持ちになれて、喜びにあふれ、いやされる。そんなプロジェクトができると確信しました。

    ――始めてみて、いかがですか。

    猫沢さん:ほとんどの飼い主さんがご自身や動物パートナーとの物語を書いたことがないので、最初は絵だけ欲しいという方もいらっしゃいました。

    このプロジェクトはただのポートレート販売ではないという趣旨をご理解いただいたうえで、おひとりおひとりとメールでやり取りをし、時間もかかるんですけれど、関係性を作りながら進めています。

    ヤンさん:僕は人間と動物の関係性にすごく興味があって。特にプロジェクトに関しては、飼い主さんと動物パートナーの強い愛情だったり、ものすごく個人的な関係性にとても興味があります。たとえば親が子どもを愛する気持ちは万国共通というか、感覚的に少し違うとしても、その愛はたぶん同じ。

    飼い主さんと動物の関係性、そこに横たわっているものも、日本だったらこうだけどフランスはこうということはなくて、やっぱりその愛情というのは、すごくインターナショナルで垣根のないものだということが活動していてわかってきました

    猫沢さん:このプロジェクトは、動物パートナーが存命でも、すでに天国組でも参加可能なのですが、動物と暮らすということは、いずれは必ず見送る運命なんですよね。見送ることが怖いから飼わないという方もいらっしゃいますが、見送ったあとに、やっぱり素晴らしいものが残るんだというポジティブな側面も出していきたいんです。

    動物を見送った飼い主さんの心のケアも動物保護活動の一部だと私は思っていて、参加者の方とやりとりしていると、そういうことができているのではないかと感じています。

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    今のところ参加応募者は犬や猫がメインですが、トカゲやヘビなど、鮮明な写真さえあれば、どんな動物でも参加できるそう。

    続く第4話では、《ヤンヤンプロジェクト》についてさらに詳しくお聞きします。

    写真/猫沢エミ、林紘輝(インタビュー) 取材・文/長谷川未緒



    猫沢エミ(ねこざわ・えみ)

    画像: 撮影/関 めぐみ

    撮影/関 めぐみ

    ミュージシャン、文筆家、映画解説者、生活料理人。2002年に渡仏し、2007年より10年間、フランス文化に特化したフリーペーパー『BONZOUR JAPON』の編集長を務める。超実践型フランス語教室「にゃんフラ」主宰。2022年2月から猫2匹を連れ、二度目の渡仏、現在はパリに暮らす。一度目のパリ在住記を綴った『パリ季記』(扶桑社)のほか、『猫と生きる。』(扶桑社)や『ねこしき』(TAC出版)、『猫沢家の一族』(集英社)など著書多数。昨年12月に出版された料理絵本『料理は子どもの遊びです』ミシェル・オリヴェ著/猫沢エミ訳(河出書房新社)のシリーズ第三弾、『コンフィチュールづくりは子どもの遊びです』が9月発売予定

    インスタグラム:@necozawaemi

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    ヤン・ラズー(Yann Lazoo)

    画像: ――始めてみて、いかがですか。

    1969年パリ郊外に生まれる。パリ第6大学(ピエール・マリー・キュリー大学)物理専攻量子学科の大学院へ進み、ヨーロッパ内企業の数学講師など絵を務める。同時に10代からアメリカンコミックやバンド・デシネ(フレンチスタイルのアート漫画)の世界に傾倒し、デッサンを独学で始める。20歳の頃、フランスの最大手メディアストア《fnac》の新人バンド・デシネ・アーティスト大賞に選ばれたのをきっかけにプロデビューする。

    27歳のとき、量子学の世界から画家へ完全転向。その後グラフティースタイルの壁画制作と、雑誌・出版物へのイラストレーション活動をふたつの柱に、アートフェスティバルのプロデュース、ディオールのデフィレ会場壁画制作、パリ市内中学校の内装壁画制作など幅広く活動中。今回ヤンヤンが使うデッサン画のテクニックは、クラシックな写実の技法だが、モデルの呼気も取り逃がさない繊細なタッチは、まさにフレンチリアリズムと言える。元数学者の左脳と、クリエイションを生み出す右脳がバランスよく内在した、クリアかつ、あたたかな表現が特徴。

    インスタグラム:@yannlazoo

    https://yannlazoo.art/

    ヤンヤンプロジェクト

    インスタグラム:@projet_de_yannyann

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