(『天然生活』2022年5月号掲載)
時を超え、国を超えて伝わるもの
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです
藤井さんは、禅の教えである精進料理に日本人に深く根差したものを感じる一方、国や時、宗教を超える普遍性も見いだしています。
「道元禅師は、食事をつくる心構えを書いた『典座教訓(てんぞきょうくん)』、食事をいただく心構えを書いた『赴粥飯法(ふしゅくはんぽう)』という2冊の食の書を残しましたが、これは弟子たちへのメッセージであるとともに、現代の私たちにも通じる食哲学だと思うのです。」
「数年前、タイのホテルで精進料理の講習をしたとき、そのホテルのベジタリアンレストランでシェフをしているアメリカ人の青年が参加してくれたのですが、明らかに嫌々で。でも、『典座教訓』に書かれた3つの心構えである、喜心という喜びの心、老心という親が子を思う心、大心というどっしりと構えた心について話していくうちに、目の色が変わっていきました。」
「聞くと、『僕はこのところ料理に疲れていた。でも、かつて本で学んだ喜心・老心・大心を思い出すことができた。参加できてよかった』と。涙ぐんで打ち明けてくれた姿が忘れられません」
藤井さんが禅に見いだしているもうひとつの普遍性は、その身体性です。2017年、鎌倉・建長寺で開かれたイベント「Zen2.0」に参加した藤井さんにとって印象的だったのは、運営メンバーに若者が多かったことでした。
なかには、長く勤めたIT企業を辞め、人生がストップしてしまうような経験を経て、座禅にひかれていったメンバーが数名いたそう。
「何時間という座禅を通して、頭で考えるんじゃない、ということが体感としてわかるからではないかしら」と藤井さん。
禅に学ぶ、朝と食の習慣
般若心経で心を整える
仏壇に供えた水を替え、線香を上げ、お経を唱えるまでの一連が毎朝の藤井さんのルーティン。
「般若心経は短くまとめられたお経で、もうすっかり頭に入っていますから、旅先でも唱えています。一日の初めに唱えると、気持ちがまとまる感じがあります」
禅に学ぶ、朝と食の習慣
毎日のラジオ体操
6時半からはラジオ体操。年齢とともに体が硬くなるのを感じながら、「おまじない程度」に7、8分の運動を習慣にしている。
出張や旅行先でも、近くに海があれば散歩をし、宿泊先でラジオをつける。好天に恵まれたこの日は、浜辺で潮風を受け、体を動かした。
禅に学ぶ、朝と食の習慣
ひと息ついたら朝食を
早起きの藤井さんだが、朝食はゆっくりめで7時半くらいから。お昼前に始まる料理教室の、ひととおりの準備をしてから食事をとる。
「やっぱり味噌汁とごはんが落ち着きます。私自身はベジタリアンというわけではなく、動物性のタンパク質も少し摂りたいので、朝はゆで卵、巣ごもり卵など手軽な卵料理にすることが多いです」
<料理/藤井まり 撮影/山田耕司 構成・文/保田さえ子>
藤井まり(ふじい・まり)
精進料理教室「鎌倉不識庵(ふしきあん)」主宰。夫である故・藤井宗哲(そうてつ)とともに精進料理の指導を始めて40年。自宅での教室のほか、国内外各地へ赴き、講師を務める。
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです