(『天然生活』2023年10月号掲載)
“自然”に追われる昼間と、自分だけの時間を過ごす夜
「昼間はやらなければならないことに追われているので、夜は日中をアクティブに過ごすための英気が養えるような、楽しみが多めの時間を過ごしています」
と語るのは、西洋アンティークをイベント等で販売している、「アンティークス・バガット」店主の塩見奈々江さんです。
築121年の古民家に、夫と保護犬のウーゴ、迷い猫だったみつばと暮らしています。昼間はウーゴの世話に始まり、庭仕事、田んぼの管理、果実の収穫や調理など、大忙しです。
「田んぼは除草剤を使っていないので、草むしりをやり出したらキリがないですね。去年は800kgもお米が採れたんですよ。庭も、梅やブルーベリー、山椒、きんかんなど季節ごとに実りがあるので、ジャムなどの保存食をつくるだけでも手いっぱい。自然は『待って』を聞いてくれませんから」
古い家なので常にどこかしら手入れが必要で、雨漏りがするため騙し騙し使っている雨樋と、ポンプが壊れてしまった井戸の修理が近々の課題。
イベントが近づけばその準備も加わり、日中は時間が足りないと感じることも。一方、外が暗くなったら、自分のためだけの時間に切り替えます。
「夜は、しなければならないことはウーゴの散歩くらい。あとは無理してまでやらなくてもいいことばかりなので、気持ちに余裕が生まれ、時間がゆっくり過ぎるように感じています」
明日のお稽古の準備も、東京での夜もいい息抜きに
イタリアで暮らしていたときの習慣から、夜は雨戸を閉めて明かりを落とし、オイルランプを灯してゆっくりと食事をします。
片づけを済ませたら、昼間は寝ていることが多い猫との時間です。愛きょうのある顔立ちのみつばと遊んでいると、自然と笑顔に。
また、西洋アンティークを扱う仕事ながら、和の趣味をお持ちの塩見さん。長く続けている地唄舞で着る着物の用意や後始末も、息抜きです。
「もともと日本舞踊をしていたので、着物は母から譲り受けたものも合わせ、数えきれないくらい持っています。地唄舞は動作など表面的なものだけでなく、内面も映し出される完成形のない奥深さが魅力。年齢を重ねても続けていきたいと思っています」
月に2、3回、都内の実家で過ごす夜は、友人と食事に行くことも多く、いい気分転換に。
「ベッドに入ってから、本を読んだり、動画を観たりするのも楽しい。自分のためだけの時間を過ごせるおかげで、昼間、田んぼや庭仕事に追い詰められても、健やかでいられる気がしています」
特別な夜の習慣
趣味で続けている地唄舞では、月に数回の特別な日があるそう。前の晩に行うことを聞きました。
着物や帯、足袋、履き物など、一式をチェックする
趣味の地唄舞は、お稽古とは別に、1〜2カ月に1回、特別な集まりがあり、前夜には、身に着けるものをすべてそろえておきます。
「朝になってあわてなくて済むように、準備しておくんです。とくに足袋の汚れがないかどうかは、しっかりチェックします。きちんとした席で足袋が汚れていると、恥ずかしい思いをしますので」
舞台に上がる前に口に含む塩を用意する
発表会やおさらい会で舞台に立つ前には塩をひとなめ。
「以前はチョコレートをひと粒口に含んで、はやる気持ちを落ち着かせていました。最近の発表会で、お師匠が塩をくださったので舌にのせたら、チョコレート以上にすきっとしたんです。落ち着いて舞台に立つことができたので、以来、塩もいいな、と思うようになりました」
〈撮影/林 紘輝 取材・文/長谷川未緒〉
塩見奈々江(しおみ・ななえ)
東京都生まれ。ヨーロッパのアンティークを扱う専門店「アンティークス バガット」主宰。実店舗をもたずに、東京と自宅のある栃木県足利市を行き来しながら、オンラインやイベントなどで販売をしている。センスのいいセレクトが評判。http://www.bagatto.jp/
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです
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