お悔やみの席への備え
年齢を重ねていくと葬儀に参列する機会がふえてきます。親族・親戚関係をはじめ、仕事先の方、友人知人。関係性は様々ですが、どなたかと共有した時は、いつかは終わりが訪れます。
わたしは、母を15年前に、父を一昨年、見送りました。わたしより歳下の友人の葬儀に参加したこともあります。覚悟している時もあれば、突然のこともあり、いつも戸惑いを隠せません。
そんなこともあり、日頃から準備してあるものがあります。ひとつが、お香典袋です。御霊前と御仏前のふたつがありますが、急に必要になるのは御霊前のほう。慌てなくてすむよういつも引き出しにいれています。
不祝儀袋で悩ましいのが表書きではないでしょうか。文字が得意な方は問題ありませんが、わたしは縦書きで名前を書くのがとても苦手です。そんなこともあり、購入したお店で表書きを書いていただくようにしています。いえ。そうしてくれるお店で買い求めています。
常日頃からこういうものを用意していると「縁起が悪い」という考えもありますが、突然の時でも、適当なものを使いたくないという思いと準備に時間を割きたくないという気持ちが強いのです。
親しい間柄であれば、できるだけ早く駆けつける、お手伝いをする方に時間を使いたいですし、親族でしたらそれこそ手配でほとんどの時間を費やします。その合間に「これがない」「あれを用意しなければ」となりたくないのです。
お香典袋とともに、数珠、ハンカチ、帛紗なども一式、引き出しのなかに入れてあります。ある程度の年齢の方でしたら持っているものですね。わたしは、数年前、あたらしいものに揃え直しました。
数珠は、母がかつて用意してくれたものを、糸を変えるなどをして手を入れてもらいました。ハンカチは弔事の時だけ使うものに。帛紗は年齢的にあったほうがいいと思い買い足しました。
備えておくのをやめたもの
反対に、手放したものもあります。喪服です。
いままでの人生で喪服を購入したのは3回ほど。10年ごとに買い替えてきました。ブラックフォーマルは、基本、流行に左右されないものなので、手入れをすれば長く着られます。そんなこともあり、10年に1度という長いスパンで買い替えてきたのですが、流行に関係ないといっても、実際、着る段階になった時、違和感がないわけではないのです。
10年前の自分といまの自分は変化しています。服のシルエットもそうですし、自分自身の体型も、年月とともに変わります。久しぶりに袖を通すと違和感を持つのは仕方がないのですが「こんな感じだったかな?」となることが多々あります。そんな経験を幾度かし、喪服は持たないことにしました。日頃から黒い服を着ていることもあり、その服を基本に靴とバッグだけ弔事用にすることにしたのです。
実際、父の葬儀の時は、いつも着ている薄手のウールのセットアップにしました。葬儀も規模もちいさく、暑い季節ということもあり、それで十分でした。逆にそうでないと大変だったと思います。年々、暑さが厳しくなっている今、しっかりした生地の喪服を着ての準備、移動、参列等は、負担がかかります。立場にもよりますが、既存の喪服でなくてもいい場合もあるのではないでしょうか。
着慣れない喪服を着て違和感を持ちながら参列するより、マナーを押さえつつ、自分に負担にならない方が、故人へ思いを寄せられると思うのです。
また、歳を重ねるていくと自分の健康状態により、葬儀に行くのを躊躇する場合もでてきます。参列した後体調を崩すこともあります。そういった理由からも、着なれた服との兼用、負担にならないことがこれからは大事だと考えています。
もうひとつ手放したのは、冠婚葬祭用のヒール靴
もうひとつ手放したものがあります。冠婚葬祭用のヒールのある靴です。ある程度のヒールがある靴は、公の場では相応しいとされていますが、履き慣れていない靴も喪服同様、違和感を持ちます。痛みにつながる時もありますし、当日の疲れ方がちがいます。お通夜、告別式と2日にわたる時もあります。割り切ってローヒールのプレーンな靴にするのもひとつではないでしょうか。
わたしは父の葬儀の後、ヒールのある靴を手放しました。長時間履くことが無理だと分かったからです。
バッグは、シンプルな黒であれば問題ありませんが、クロークがある場所では、できるだけバッグは、預けるようにしています。足元に置くと気を遣いますし、他の方が通りにくい場合もあります。自分の年齢が上がるとともに参列者の年齢も上がるので、つまずくようなものは預けておいたほうがいいと思うようになりました。
わたしは、自分の弔事慶事の知識に自信がないので、わからないことは老舗のお店の方に聞くようにしています。不祝儀袋もそうですが、持ち物の確認、格についてなど、また、何かを送る時も「失礼はないか」を確認します。関東と関西の違いなどありますし、歴史のあるお店の方は知識も豊富なのでその点は安心です。決まり事の多い世界です。こういう時は押さえるところは押さえておいたほうが後々いいようです。
若い頃は、どなたかが亡くなると、特にその方が歳下の場合は、ただただ悲しいという気持ちでした。今は、悲しみのなかに「いつかまたちがう場所で会える気がする」そんな思いになることもあります。葬儀は、その約束をするための時間なのかもしれません。準備できることは準備し、気になることなく葬儀に参列する。涙のなかにもささやかな希望が持てますように。
60歳までのメモ
1 冠婚葬祭用の持ち物について見直してみる
2 用意できるもの、しておいた方がいいものを考える
3 仕舞いこんでいるもの等これから使用できるか検討する
4 必要なものがあれば「揃えるリスト」に加える
5 基本の知識を学んだり教えてもらっておく
広瀬裕子(ひろせ・ゆうこ)
エッセイスト、設計事務所岡昇平共同代表、other: 代表、空間デザイン・ディレクター。東京、葉山、鎌倉、香川を経て、現在は東京在住。現在は設計事務所の共同代表としてホテルや店舗、レストランなどの空間設計のディレクションにも携わる。主な著書に『50歳からはじまる、新しい暮らし』『55歳、大人のまんなか』(PHP研究所)他多数。インスタグラム:@yukohirose19