(『天然生活』2023年10月号掲載)
団地の一室にあるホーム「ぐるんとびー」
最寄り駅からはバスで11分ほど。典型的な郊外型の団地の一室に小規模多機能型ホームとして始まった「ぐるんとびー」はあります。
エレベーターで6階まで上がった廊下の先にある扉は、いつだって開きっぱなし。
「冬でも閉めません。すごく寒いんですけどね」と、「ぐるんとびー」取締役の菅原有紀子さんがにこやかに教えてくれたとおり、この場所へは地域のだれもが出入り自由。

名前のもととなったグルントヴィはデンマークの哲学者であり教育者。代表菅原さんは少年時代をデンマークで過ごしたそう
「ぐるんとびー」が目指しているのは、地域で暮らす人々が困っているときに助け合えるような関係性が築けて、「ほどほど幸せ」に暮らせること。介護や医療はそのための手段だと位置付けているのです。
介護事業をしながら豊かなつながりをつくる
地域のNPO活動にもぐるんとびーでは力を入れています。このあたりの高齢化率は藤沢市の中でも高く、事業所がある団地にかぎっていうと70%超え。
同時に生活支援を受けている家庭が多い地域でもあるそう。

子どもの居場所づくりのボランティアをするスタッフの大内さん。この日は利用者の真弓さんと一緒に盆踊りの練習へ。週1でプールに通ったり、ダンスや句会に行ったり、ラーメンを食べたりと、それぞれのやりたいことを実現することで、元気になる人も多数
代表の菅原健介さん夫婦の子どもが通う学校では学級崩壊が起きていて、学校だけではどうしようもないので、子どもたちの居場所づくり、学習支援などの活動も協力して行うように。シングルマザーと施設利用者が一緒に暮らすことで家賃を安くできるルームシェアも行ってきました。
「介護事業と併用しながら町の困りごとを柔軟に解決できるような活動にしています」と菅原さん。
スタッフの川邊祐詩さんは、3年前、要介護5の高齢者とルームシェアをした経験があります。
「利用者とスタッフという関係でありながら、ルームメイトであり友達であり、僕のおじいちゃんのようでもあり、境界線が溶け出した疑似家族、不思議な関係性でした」と、同居して1年後に亡くなった「おじいちゃん」との暮らしを振り返ります。

スポーツトレーナーになるのが夢だったという川邊祐詩さん。「ぐるんとびー」の理念に共感して介護職経験ゼロからスタート
家や病院では叫んだり、暴れたりしていたけれど、川邊さんとの暮らしでは暴れることは少なかったそう。
「介護って人を幸せにするツールだと思っていたのですが、学生時代の実習ではそうでない現実をたくさんみてきました。介護する側、される側と固定化するのではなく、困っていたらお互いが助け合う関係をつくってみたかった。『おじいちゃん』との暮らしは、家族ではない第三者だからできたこと。そういう関係もある。忘れられない1年となりました」
生きていると、つらくて悲しいことがあるし、絶望することだってあるかもしれない。でもその絶望が持続しないようにするためには、やっぱり人との豊かなつながりが必要なのです。
そうした思いで「ぐるんとびー」が目指している「ほどほど幸せ」の暮らしが介護の枠組みや団地を超え、じわじわと地域へと広がっているのです。
<撮影/在本彌生 取材・文/岡田カーヤ>
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです

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