• 顔の見える関係は、いったいどのように育てていくのでしょうか。さまざまな世代と近所づきあいをする、手づくり暮らし研究家の美濃羽まゆみさんに、話を伺いました。
    (『天然生活』2023年10月号掲載)

    不登校の子の居場所づくりを通し、大人の関係も広がった

    中学時代の同級生と一緒に、不登校の子やその家族の居場所づくりに関わる美濃羽まゆみさん。わが子が学校に行かない選択をしたことをきっかけに「ほかにも困っている親子がいるはず!」と、周囲の力を借りて始めたそうです。

    美濃羽さんがそんなふうに軽やかに行動に移せたのは、“自分が動いてみると、地域での暮らしが楽しくなる”という経験を、これまでにも積み重ねてきたから。いまから15年ほど前、現在の住まいである京都の町家に家族で引っ越してから、町内会に参加するようになったと振り返ります。

    「『地蔵盆』ってご存じですか? 町内にまつられているお地蔵さんに、家内安全などをお祈りする夏の行事で、京都市内ではほとんどの地域でそのしきたりが受け継がれています。私の子ども時代は、昼から縁日が出ていたり、すごく楽しかった思い出があったんです。でも、引っ越してきた当時、この町内には子どもがふたりしかいなくて、地蔵盆は、すっかり大人向けの夜の宴会になっていました。町内会は、私たち家族が入ったときに食事会を開いてくれたような、近所づきあいの残る風土だったので、『子どもも楽しめるような行事にしませんか』と皆さんの懐に飛び込んでみたら、とてもいい関係づくりにつながったんです」

    行事当日に参加するだけでなく、事前の準備段階から関わっていくうちに、近所の人たちの顔と名前、住んでいる家などがどんどん一致していき、子どもが地域で遊んでいても、お年寄りに見守ってもらえるような安心感が生まれました。

    楽しい時間を過ごすことが、つながりの一歩に

    「思いがあったら、口に出してみることが大事」と、美濃羽さんはいいます。子どもの居場所づくりも、美濃羽さんの同級生で、書道教室と塾を運営する朝倉美保さんと話すうちに、思わぬ縁があり、かたちになったそうです。

    画像: 同級生の朝倉美保さん(写真左)とは30年のつきあい。子どもの居場所「くらら庵」はNPO法人を立ち上げ、クラウドファンディングなどで資金を集めて運営

    同級生の朝倉美保さん(写真左)とは30年のつきあい。子どもの居場所「くらら庵」はNPO法人を立ち上げ、クラウドファンディングなどで資金を集めて運営

    「朝倉さんには、私も夫も仕事のときに、うちの子たちを預かってもらっていて、以前から子育てのことをよく話していました。学校に行かない選択をする子が増えているけれど、ほかに居場所がないねって。そのうちに、彼女の教室の隣の物件が空くことになったんです。大家さんも不登校に関心が高くて、お話ししたら『ぜひやってください』と応援してくださり、隣ならば実現できるかもと、いっきに話が進みました」

    居場所の名前は「くらら庵」。学校に行かない子も行っている子も来られるように、放課後や夏休みもオープンしています。美濃羽さんが主に担当しているのは、週1回のお出かけの引率です。

    くらら庵は、あえて「ルール」をつくらずにスタートしたので、何か問題が起こったときには、大人も子どもも親も一緒に、みんなで話し合って決めていくそうです。

    「近所の大学生や子育てを終えた方など、ボランティアさんが手伝ってくれるので、とても助かっています。なかには自分自身が過去に不登校だった人もいて、子どもたちに『いま、悩んでいても大丈夫なんだ』と感じさせてくれる存在になっています。きっとボランティアさんにとっても、過去の自分を肯定するような機会になっているのかもしれませんね」

    くらら庵では、気軽な交流の場をもちたくて子ども食堂を開いたり、地域の人が寄付してくれたものでバザーを開いたり、夏のお泊まり会から冬のお餅つきまで、さまざまなイベントを企画しています。

    楽しい時間をともにすることが、つながりの一歩になるからです。親の会も開き、親と子が1対1で抱え込んでしまわないように、支え合う関係を大切にしています。

    「実は大人が子どもから受け取っているものって、いっぱいあると思うんです。自分に正直な子どもたちとの関わりや、地域で支え合うことを通して、『弱さを出してもいいんだ』と思えるようになったことは、私の大きな財産です」

    地域とつながる私のアクション

    地域の行事に参加

    画像: 地域の行事に参加

    年1回の地蔵盆に準備から参加するほか、日々の掃除当番も。美濃羽さんの住む町内会はいまでは子どもの数がふたりから25人に増え、地蔵盆は老若男女が楽しめる行事としてすっかり定着。

    居場所をつくる! と宣言

    画像: 居場所をつくる! と宣言

    声に出してみると賛同者に出会える。大家さんや地域の人の協力、ボランティアの人たちの参加のおかげで、約30人の子どもが登録し、常時10人ほどが思い思いの時間を過ごせる居場所に成長中。

    自分ひとりでやらないと決めた

    画像: 自分ひとりでやらないと決めた

    洋服の仕事は「私がやらなくちゃ」と思い込んでいたけれど、いいタイミングで協力者が現れ、くらら庵と両立できるように。

    「自分ひとりではできないことも、だれかと一緒ならできるんだという学びになりました」

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    別冊天然生活『美濃羽まゆみさんの手づくりのある暮らし』

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    『美濃羽まゆみさんの手づくりのある暮らし』

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    <撮影/辻本しんこ 構成・文/石川理恵>

    美濃羽まゆみ(みのわ・まゆみ)
    ハンドメイド子ども服・おとな服ブランド「FU-KO Basics.」主宰。築100年の京都の町家で、夫、高校生の長女、小学生の長男、猫2匹と暮らす。著書に『FU-KO basics. 着るたびに、うれしい服』(日本ヴォーグ社)、別冊天然生活『美濃羽まゆみさんの手づくりのある暮らし』(扶桑社)があるほか、天然生活webで「美濃羽まゆみのごきげんスイッチ。」を連載。インスタグラム@minowa_mayumi

    ※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです



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