(『天然生活』2022年11月掲載)
ぴしゃりと頬をたたかれたような
20代後半から30代前半、仕事や生活がうまくいかないと感じ、苦しい時期があったと話す甲斐さん。そんなときに手に取ったのが『茨木のり子詩集』でした。
「その中の1編、『自分の感受性くらい』を読んでハッとしました。“自分の感受性くらい/自分で守れ/ばかものよ”の言葉に、ぴしゃりと頬をたたかれたような気がしました。だれかの、何かのせいにしている限り、自分は何も変われない。私という主語を大切にひとつひとつを考え直し、自分がどう感じ行動するか、基準をそこにおくべきだと価値観が変わりました」
茨木のり子詩集
「自分の感受性くらい」のほか、代表作「わたしが一番きれいだったとき」など1969年から1976年にかけての作品20編。選者は友人だった谷川俊太郎氏。
「“私”という主語のもつ意味を考えさせられた」
向田邦子 暮しの愉しみ
数々の名ドラマを生んだ脚本家であり、作家の向田邦子。暮らしを楽しむことに長けた彼女のエッセンスを詰め込んだ1冊。
「たくさんの“自分の好きなもの”に囲まれて生きる楽しさに気づかされた」
散歩のとき何か食べたくなって
時代小説家としてあまりにも有名であり、食通としても知られた著者の食味エッセイ。いまは消えてしまった店も名文でよみがえる。
「自分の周囲を見回せば、多くの物語が広がっていると教えてもらった」
なまいきシャルロット
母を亡くし、無骨な父と口の悪い兄と暮らす、いつも不機嫌なシャルロット。13歳の少女の、この時期特有の鬱屈ときらめきの世界がまぶしい。
「憧れを形にしていこうと夢を抱くきっかけをもらった」
四月物語
上京してひとり暮らしを始めた女子大生の、解放感と不安の交錯する日々を岩井俊二監督がみずみずしく描く。
「自分の人生に、自らまいた種を芽吹かせる主人公に胸を打たれ、背中を追いかけた」
この世界の片隅に
淡々と描かれる、戦時下の日常。その暮らしぶりが静かでいとおしく、その後に彼らを待ち受ける運命の過酷さが際立つ。
「どんな状況のなかでも小さな楽しみや生きがいを持ち続けていたいと思った」
<取材・文/福山雅美>
甲斐みのり(かい・みのり)
旅やお菓子、雑貨、建築などをテーマに、書籍や雑誌などで執筆活動を行う。雑貨の企画・イベントを行うブランド「Loule」主宰。http://loule.net/
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです