小さな住まいでのコンパクトなもの選び
できるだけコンパクトなものに──。物を選ぶ時、使う時、ひとつの基準にしています。それは、掃除洗濯料理の分野に関しても同じです。例えば、キッチンスポンジ。今は、スポンジを1/4のサイズにして使っています。
最初は、スポンジを1/2にして使用したのがはじまりでした。半分のサイズにして分かったのは、手の大きさに合うこと、扱いやすいこと、細かな部分が洗いやすいことなどでした。
ひとり分の食器ですし、油物が少ないメニューというのもありますが、一般的なキッチンスポンジのサイズより、半分の方がわたしには合っていたのです。
コンパクトな道具、コンパクトな調味料
その後、住まいを東京に移したことでキッチンが変わり、変更・検討する課題がいくつかでてきました。一軒家の広いキッチンから、それこそ「コンパクトなキッチンへ」です。スペース、収納、使い方を含め、すべてに見直しが必要でした。キッチンカウンターの上もできるだけ物を置かないほうがよさそうです。置くとしても目立たない物、または、よりコンパクトな物にすることにしました。
そこで、1/2のキッチンスポンジをさらに半分──1/4──にしてみたのです。ナイフでスポンジをさくっと切ります。スポンジ置きは、小さなお皿に。結果、わたしには、1/4のサイズがさらに合うことがわかりました。特にカップやティーポットの中などを洗うときは、1/4のほうが都合がいいのです。どうして今まで気づかなかったのでしょう。
家の中を見回すとコンパクトにできるものは多々あります。サイズをコンパクトに。数をコンパクトに。いまは、服の枚数を減らすことが、ひとつの流れでもありますが、他にもできます。もちろん「そうしたい」という気持ちがあれば、のことなのですが。
調味料類もコンパクトなものに替えました。最初は、お醤油からでした。
お醤油は、一度、開封すると風味が変わりやすく、その点が気になっていました。冷蔵庫に入れておけば少しは保てますが、それでも変化します。ある日、使いつけのお醤油にちいさなタイプがあるのを見つけました。「お試し用」として販売されている物でしたが、早速、そちらに。味醂も同じサイズがあるではないですか。味醂も替えました。
いつ封を切ったのかわからなくなるのが、ケチャップやソース類です。これは、食事の好みや家族構成にもよりますが、わたしの場合は使い切るのがむずかしい物のひとつです。でも、時々、ケチャップやソース味のものがいただきたくなる。そして、次に使う時は味が変わっていたり、賞味期限が切れていることも。ある日「小分けのものにすればいい」と気づきました。それからは小分けサイズを買うようにしています。
毎日いただく豆乳は200mLサイズに。卵も2こ入りなどすぐ食べ切れる量に。オリーブオイルはちいさな瓶のもの。バターは100g。その他、洗剤、歯みがき粉、シャンプーも大きなサイズではなく、コンパクトなサイズにしています。
コーヒー豆から挽くのをやめて、ドリップパックに
自分でも驚いたのが、コーヒーをドリップバッグにしたことです。毎日、豆を挽きいれていたコーヒーですが、飲む回数が少なくなってきました。そうなるとコーヒー豆の劣化が気になります。すべてのコーヒー豆を使い切った時点で、コーヒーをドリップバッグに切り替えました。おいしいドリップバッグであれば、おいしいコーヒーになるのです。持っていたコーヒー関連の器具を手放し、そのスペースが空きました。
家のなかの物をコンパクトにしていくにつれ、暮らしがどうなったか?というと、より、快適になりました。使いやすい、新鮮、使い切れる、破棄しない、スペースの余裕など、今のところ「いいこと」がほとんどです。価格的には、割高になるケースもありますが、それ以上に気持ちよさが上回ります。
その過程で、思い出すことがあります。実家の片づけです。使わず置いてあった多くの物。石けん、洗剤。食品もありました。日持ちする物でしたが、定期購入していた物などは食べ切れず置かれていました。大量の新しいタオル。元気なうちに一緒に整理し、コンパクトな物にしていたら、と思うこともありますが、意見の相違でうまくいかなかった可能性も想像できます。過ぎたことは仕方がありません。「自分はそうしないように」と、教えてもらったと考えるようにしています。
でも。わからなくもないのです。年齢を重ねていくと「見えない不安」や「想像の不安」が増します。「もし」の不安です。実際、わたしも、体調がよくない時などは、食品のストックのコンパクトさ、少なさに心配になることがあります。買い物に行くのも気力体力が必要です。「もし、寝こんでしまったら」「もし、買い物に行けなくなったら」「もし──」。置いておくことが可能な広さがあれば、コンパクトな物など考えないかもしれません。
と、同時に「自分の手の中にあるこの時間をこれから気持ちよくすごすには」と思うと、やはり、コンパクトな物にしていきたくなるのです。大事なのは、コンパクトにするしないではなく、これからの自分がどんな場所にいたいか、なのかもしれません。
60歳のメモ
1「コンパクトなものがあれば」と思っているものをリストアップしてみる
2 使い切れずに破棄してしまう食品などを見直してみる
3 試しに「コンパクトなもの」を利用してみる
4 買い物の時にいつもは立ち寄らない棚も見てみる
5 暮らしに合わなければ元にもどす
広瀬裕子(ひろせ・ゆうこ)
エッセイスト、設計事務所岡昇平共同代表、other: 代表、空間デザイン・ディレクター。東京、葉山、鎌倉、香川を経て、2023年から再び東京在住。現在は設計事務所の共同代表としてホテルや店舗、レストランなどの空間設計のディレクションにも携わる。近著に『50歳からはじまる、新しい暮らし』『55歳、大人のまんなか』(PHP研究所)他多数。インスタグラム:@yukohirose19