• エッセイストで空間デザイン・ディレクターの広瀬裕子さん。60歳を前に、歳を重ねるなかで出てくるさまざまな課題や考えなくてはいけないこと。たとえば住まいのこと、仕事のこと、⾝体のこと。ひとつひとつにしっかり向き合い、「心地いい」と感じる方へ舵を取る広瀬さんの毎日。そこから、60歳までにこうなりたい、という目標と取り組みを同世代や下の世代の方とシェアしていけたらと思っています。ものを選ぶ時の基準について。

    小さな住まいでのコンパクトなもの選び

    できるだけコンパクトなものに──。物を選ぶ時、使う時、ひとつの基準にしています。それは、掃除洗濯料理の分野に関しても同じです。例えば、キッチンスポンジ。今は、スポンジを1/4のサイズにして使っています。

    画像: 亀の子スポンジのグレーを愛用。お菓子を切るようにナイフでカットします

    亀の子スポンジのグレーを愛用。お菓子を切るようにナイフでカットします

    最初は、スポンジを1/2にして使用したのがはじまりでした。半分のサイズにして分かったのは、手の大きさに合うこと、扱いやすいこと、細かな部分が洗いやすいことなどでした。

    ひとり分の食器ですし、油物が少ないメニューというのもありますが、一般的なキッチンスポンジのサイズより、半分の方がわたしには合っていたのです。

    コンパクトな道具、コンパクトな調味料

    その後、住まいを東京に移したことでキッチンが変わり、変更・検討する課題がいくつかでてきました。一軒家の広いキッチンから、それこそ「コンパクトなキッチンへ」です。スペース、収納、使い方を含め、すべてに見直しが必要でした。キッチンカウンターの上もできるだけ物を置かないほうがよさそうです。置くとしても目立たない物、または、よりコンパクトな物にすることにしました。

    そこで、1/2のキッチンスポンジをさらに半分──1/4──にしてみたのです。ナイフでスポンジをさくっと切ります。スポンジ置きは、小さなお皿に。結果、わたしには、1/4のサイズがさらに合うことがわかりました。特にカップやティーポットの中などを洗うときは、1/4のほうが都合がいいのです。どうして今まで気づかなかったのでしょう。

    家の中を見回すとコンパクトにできるものは多々あります。サイズをコンパクトに。数をコンパクトに。いまは、服の枚数を減らすことが、ひとつの流れでもありますが、他にもできます。もちろん「そうしたい」という気持ちがあれば、のことなのですが。

    調味料類もコンパクトなものに替えました。最初は、お醤油からでした。

    お醤油は、一度、開封すると風味が変わりやすく、その点が気になっていました。冷蔵庫に入れておけば少しは保てますが、それでも変化します。ある日、使いつけのお醤油にちいさなタイプがあるのを見つけました。「お試し用」として販売されている物でしたが、早速、そちらに。味醂も同じサイズがあるではないですか。味醂も替えました。

    いつ封を切ったのかわからなくなるのが、ケチャップやソース類です。これは、食事の好みや家族構成にもよりますが、わたしの場合は使い切るのがむずかしい物のひとつです。でも、時々、ケチャップやソース味のものがいただきたくなる。そして、次に使う時は味が変わっていたり、賞味期限が切れていることも。ある日「小分けのものにすればいい」と気づきました。それからは小分けサイズを買うようにしています。

    毎日いただく豆乳は200mLサイズに。卵も2こ入りなどすぐ食べ切れる量に。オリーブオイルはちいさな瓶のもの。バターは100g。その他、洗剤、歯みがき粉、シャンプーも大きなサイズではなく、コンパクトなサイズにしています。

    画像: ちいさなサイズは少し割高ですが、賞味期限を気にせず使い切れるため破棄することがなくなりました(豆乳/マルサン、ソース/トリイソース、トマトケチャップ/カントリーハーヴェスト)

    ちいさなサイズは少し割高ですが、賞味期限を気にせず使い切れるため破棄することがなくなりました(豆乳/マルサン、ソース/トリイソース、トマトケチャップ/カントリーハーヴェスト)

    コーヒー豆から挽くのをやめて、ドリップパックに

    自分でも驚いたのが、コーヒーをドリップバッグにしたことです。毎日、豆を挽きいれていたコーヒーですが、飲む回数が少なくなってきました。そうなるとコーヒー豆の劣化が気になります。すべてのコーヒー豆を使い切った時点で、コーヒーをドリップバッグに切り替えました。おいしいドリップバッグであれば、おいしいコーヒーになるのです。持っていたコーヒー関連の器具を手放し、そのスペースが空きました。

    家のなかの物をコンパクトにしていくにつれ、暮らしがどうなったか?というと、より、快適になりました。使いやすい、新鮮、使い切れる、破棄しない、スペースの余裕など、今のところ「いいこと」がほとんどです。価格的には、割高になるケースもありますが、それ以上に気持ちよさが上回ります。

    その過程で、思い出すことがあります。実家の片づけです。使わず置いてあった多くの物。石けん、洗剤。食品もありました。日持ちする物でしたが、定期購入していた物などは食べ切れず置かれていました。大量の新しいタオル。元気なうちに一緒に整理し、コンパクトな物にしていたら、と思うこともありますが、意見の相違でうまくいかなかった可能性も想像できます。過ぎたことは仕方がありません。「自分はそうしないように」と、教えてもらったと考えるようにしています。

    でも。わからなくもないのです。年齢を重ねていくと「見えない不安」や「想像の不安」が増します。「もし」の不安です。実際、わたしも、体調がよくない時などは、食品のストックのコンパクトさ、少なさに心配になることがあります。買い物に行くのも気力体力が必要です。「もし、寝こんでしまったら」「もし、買い物に行けなくなったら」「もし──」。置いておくことが可能な広さがあれば、コンパクトな物など考えないかもしれません。

    と、同時に「自分の手の中にあるこの時間をこれから気持ちよくすごすには」と思うと、やはり、コンパクトな物にしていきたくなるのです。大事なのは、コンパクトにするしないではなく、これからの自分がどんな場所にいたいか、なのかもしれません。

    画像: タマゴは2個入りか4個入りに。新鮮なうちに食べ切ります

    タマゴは2個入りか4個入りに。新鮮なうちに食べ切ります

    60歳のメモ

    1「コンパクトなものがあれば」と思っているものをリストアップしてみる

    2 使い切れずに破棄してしまう食品などを見直してみる

    3 試しに「コンパクトなもの」を利用してみる

    4 買い物の時にいつもは立ち寄らない棚も見てみる

    5 暮らしに合わなければ元にもどす


    画像: コーヒー豆から挽くのをやめて、ドリップパックに

    広瀬裕子(ひろせ・ゆうこ)
    エッセイスト、設計事務所岡昇平共同代表、other: 代表、空間デザイン・ディレクター。東京、葉山、鎌倉、香川を経て、2023年から再び東京在住。現在は設計事務所の共同代表としてホテルや店舗、レストランなどの空間設計のディレクションにも携わる。近著に『50歳からはじまる、新しい暮らし』『55歳、大人のまんなか』(PHP研究所)他多数。インスタグラム:@yukohirose19



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